第7話 ルツのお友達
ルツが扉をどんどん叩くと、出てきたのは背が高くて長い白い髪をしたすごく綺麗な人っだった。男の人……でいいんだよね?
「やはり貴方でしたか、ルツ。どうぞお入りください」
にこやかに男の人がそう言うと、ルツは勝手知ったる様子で部屋に入り、案内される前にソファに私を座らせた。そして私の隣にどかっと座ると機嫌の悪そうな声で言った。
「……金は払う。こいつの服を一式用意してくれ」
ここはもしかして洋服屋さん? 私は周りをそっと見てみる。でもどう見ても普通のお家みたいだよね?
キョロキョロする私とぶすっと座るルツの様子を見て、その人はやれやれといった風に溜息をついた。
「……いつも言ってますが、貴方は言葉が足りないように思いますよ、ルツ」
そう言って立ち上がると、その人は棚から茶器を出して優雅な手つきでお茶を入れると、私とルツの前に置いてにっこり笑った。
「よかったらどうぞ、体が温まります」
「あ、はい、ありがとうございます」
うわーこんな綺麗な人ににっこりされるとどきどきしちゃう。このお茶もほんのりに甘くてとってもいい香り。暖かいお茶なんて久しぶりで嬉しいな。
「私の名前はエリスと言います。ルツとはまあ腐れ縁のようなものですね。あなたのお名前は?」
「はい、私の名前はユーリヴァ……」
「こいつの名前はユーリだ」
私が喋るのを遮るようにルツが口を挟む。あれ? 私なにか変なこと言った?
そんなルツをエリスさんはちらりと見ると、すぐに私の方に向き直った。
「ではユーリさん、差し支えなければ手を見せていただけますか?」
「手?」
「はい、そちらの怪我をしている方の手です」
そう言われて私はおずおずと左手を差し出した。
あの時黒いナイフは私の左手の掌に刺さった。傷は完全に塞がっていてるけど、ナイフの痕は今でも生々しく残っている。でもこれってそんなに目立つ痕なのかなあ。
エリスさん目を細めて私の掌を見ると、そっと指で確認するように傷痕を触った。その表情は真剣で怖いくらい。そしてルツも睨むように私の掌をじっと見つめている。
もうちっとも痛くないのに、二人にこんなに真剣な顔をされると申し訳なくなってしまう。
「あの、もう治ってて全然痛くないんです。きっと傷痕もすぐ消えると思うから大丈夫です」
私が二人を心配させないように明るく言うと、エリスさんは少し驚いた顔をした。
「ユーリさん、普通であれば竜がこのような怪我をすることはないのですよ」
「え?」
「ルツに聞きませんでしたか? 普通であれば人間に竜を傷つけることはできません。……特にあなたのような竜を傷つけるのは闇の呪いの力だと」
「……そう言えば……?」
確かに聞いたような気もするけど、うーん……? あの時は頭が重かったせいか記憶がぼんやりしててはっきりしない。っていうか私が竜だってわかったエリスさんにびっくりなんですけど。どうしてわかったのかなあ。
「……どうやらルツはあなたに何も教えていないようですね」
エリスさんまた溜息をつくと目を伏せて考え込んだ。
「ユーリさん、あなたは自分が竜だということはご存知ですね?」
「はい」
「では竜とはどういうものか、竜が何のために存在しているのかはご存じですか?」
「竜ががどういうものか?」
そう言われて私は考え込んだ。
竜がどういうものか、そして竜が何のために存在しているのか。今までそんなこと考えたこともなかった。
動物と遊んで空を飛び、お腹がすいたら果実を食べて眠る。そんな毎日が当たり前だと思ってたし、何の疑問も持っていなかった。
「……この世界で竜は最高位の生物です。魔力、知性、寿命、他に比ぶるべき生き物はおりません。圧倒的な力でこの世界に君臨する生物なのです」
エリスさんは私を優しく見つめながら続けた。
「そして貴女は白い竜です」
「白い竜?」
白い竜だと何が違うの? 私が首を傾げるとエリスさんはにっこり微笑んだ。
「私が今ここで一から十までお教えすることはとても簡単です。でもあなたにとって私がお教えすることが善いのか悪いのか、それはわかりません。ただ、幼い子が一度火の熱さがわかれば二度と近づかなくなるように、あなたには自分で体験し、経験することで、自分自身の知識を身に付けることが何より重要だと思います。」
そこでエリスさんはにっこり笑った。
「という訳で、学校に行かれてはいかがでしょう。」
「学校!?」
学校!? この世界にも学校ってあるの? それってすごい気になる!!
またまた話のきりどころが合わなくて、少し多めのボリュームです。