第6話 前世の記憶
私がおそるおそる目を開けると、目の前に知らない女の子が立っていた。
いつの間にか樹のうろの一部が鏡のようになっている。そして鏡の中にいる女の子はびっくりしたように瞳をまんまるにして私を見ている。
おそらく10代、うす淡い金髪のふわふわした少しくせのある長い髪の毛、薄い水色に金色の混じった不思議な瞳の色。見た感じは前世の私と同じくらいの背の高さ、身長150cmくらい?ちょっと痩せてて、くすんだ薄緑色の膝丈のワンピースを着ている。
あれ、でもこの服なんかどこかで見たことが……。そこまで考えてはっと気が付いた。これ私だ!
「えーーーーっ! これって私?」
私がびっくりして大きな声を出すと、ルツは上から下までまじまじと私を見た。
「ふーん、これがユーリの人間の姿か。随分小さくて痩せているのだな。前世の姿か?」
私はぶんぶんと頭を振った。
「身長とか顔のつくりはちょっと似てるけど、髪の色とか目の色とか全然違う!」
「そうなのか? 髪の色や瞳の色は今の竜の姿の影響を受けるのだろうな」
そっかー、そうなのかあ! 竜になった私の瞳の色はこんな色なんだね! 今まで鏡を見たことないから全然知らなかったよ。
私は自分の姿が珍しくて鏡を覗き込んだりくるくる回ってみる。
そんな私の姿が面白いのか、ルツは笑いを堪えたような顔をして私を見ている。あれ、ちょっと子供みたいにはしゃぎ過ぎたかな。うう、恥ずかしい……
「それにしてもお前の世界の服はつまらんな。みんなこんな服を着ているのか?」
「ああ、これは……えっと多分だけど私が最期に来ていた服だと思う」
ルツは少し訝し気に私を見た
「最期とは?」
「うん、あのね、私は体が弱くって、ずっと病院にいたの」
私は急に居心地が悪くなって服の裾をきゅっと握る。
「病院ってわかる?この服は病院で貸してくれるレンタルパジャマなの。あ、パジャマって寝間着のことだよ。お母さんが買ってくれたもっと可愛いパジャマとかあったんだけど、最後の方はもう寝たきりだったから、着替えが楽なこのパジャマを着てたんだよね。あーでもなんで私今これ着てるのかなあ」
今まで前世の事なんて全然思い出さなかったのに、こうして見覚えのあるパジャマを着ているとどんどん記憶が溢れてくる。
私が死んだ後はみんなどうしたんだろう。お父さん、お母さん、お兄ちゃん……
「……すまない、いらないことを聞いたようだ」
ルツはそう言うと近づいてそっと私を抱きしめてくれた。
溢れた記憶に溢れる涙。 こんな会ったばかりの人の前で泣いてたら絶対迷惑だって頭でわかっているんだけど涙は止まらない。
「……ご、ごめ……なさい……」
ルツは一度ぎゅっと強く抱きしめてくれると、急に体を離しておもむろに服を脱ぎ始めた。
え? 脱ぐの!? ここで? なぜ今脱ぐ必要が!?
びっくりしている私の前でルツは上着と白いシャツを脱ぐと、私の手に押し付けた。
「これに着替えろ。着替えたらすぐに出発だ」
え? と固まる私を置いて、ルツはうろから出て行ってしまった。
これって私が泣いたから気をつかってくれたのかな。服のことで私が泣いたって思ってるなら、なんだか悪いことしちゃったけど……。でもだからって女の子の前で急に脱ぐ? っていうか上半身裸なんですけど!
色々衝撃的過ぎて泣き止んだ私が着替えを済ませて外へ出ると、ルツは腕を組んですっごいしかめっ面をして待っていた。
「……嫌なことを思い出させて悪かった。魔法で服を変えてやってもいいんだが、私には人間の若い女の服のことなどよくわからん。とりあえずお前の服を買いに行こう。行くぞ」
そう言うとルツは私の腕をとりそばに引き寄せた。
え? 行くってどうやって? 私がびっくりしていると青白く光る文字が足元から現れ、まるでリボンのように私とルツを包み始めた。
「何これ、すごい……!」
「本当ならもっとお前の体が回復するまでここを出るつもりはなかったが……。怖がる必要はない。だがそばを離れるな」
離れるなって言われても、こんなにぎゅっとされてたら離れられないんですけど、なんて考えてたら次の瞬間私達は扉の前に立っていた。
何度まばたきしても目の前には扉。ええっとこれはいわゆるどこでも扉ですか?
きりのいい所までいれたら少し長くなりました。
行間もとってるからそんなに読みにくくない・・・はず!