第4話 自己紹介
どうやらユグドラシルの実を食べた後、私は眠ってしまっていたらしい。
ぼんやりした頭を起こすと、頭が重いのは少し楽になったことがわかる。体を起こして目を開けると、樹のほらの壁に背中を付けて座るその人と目があった。
「起きたのか。今日はこれを食べろ」
そう言って私の前に来て新しい果実を置いた。
「……ありがとうございます」
実のところ全く食欲はない。昔から朝起きてすぐって食欲ないんだよね。でもせっかく持ってきてくれたのだから一応口をつけてみる。そしてゆっくり食べながら私はこっそりその人を観察してみた。
年のころは20代半ば位……かな?身長は180は超えてそう。それによく見るとこの人けっこうイケメンだよね!
背中まである長い黒髪に黒い切れ長の瞳。黒いブーツに黒いズボン、白いシャツ。その上に縁に綺麗な刺繍のしてある長いジレのような服を着ている。いかにも異世界風っていう服。
私が見ているのに気が付くと、少し眉間にしわを寄せて私を見返した。
「どうした、まだどこか痛むのか?ちょっと手をみせてみろ」
慌てて首を振ったけどしゃがみこむと強引に私の手を取り、ナイフが刺さった痕をじっと見つめられる。
「……普通なら竜が人間に傷つけられることはない。竜は無意識に自分の周りに結界を張っている。人間の物理的攻撃も魔法による攻撃もきかん。そもそもお前は聖なる力を持つ白き竜だからな。だが今回は呪が使われた」
「あの……しゅってなに?」
「呪とは呪いの事だ。聖なる力をも汚す闇の魔法だ。闇の魔法は闇の力を持つ物しか使えない」
そう言うとその人は忌々しげに首を振り、吐き捨てるように言った。
「我が眷族の力が人間に使われ、よりによって白き竜を汚すとはな!」
あまりの剣幕に私がびっくりしたのがわかったのか、その人は表情をゆるめて私の顔を見た。
「私の名前はシュヴァルツ、ルツだ。お前の名は?」
「ええと、私は森川悠里、悠里です。」
「モリカワユーリ、ふむ、ユーリだな。」
あれ? そういえば私、竜になってから自分の名前一度も呼ばれたことなかったよ。ってことはこれが文字通り生まれて初めての自己紹介だね。
なんだかおかしくなって私は思わずくすっと笑った。
「どうした、何を笑ってる」
シュヴァルツさんはなんでか少し不機嫌そうな顔になった。
「だって私、生まれて初めて名前を聞かれました」
「……? ではその名前は誰が名付けたのだ」
「この名前は、なんていうか……私には竜になる前の記憶があって。えっと前世ってわかります? とにかく前の世界の両親がつけてくれた名前です」
「ふむ、前世の記憶持ちか。……ということはユーリ、お前竜になってからの名前はまだないのか?」
「えっと、そういうことになりますね」
するとびっくりしたのか急に慌てた顔になるシュヴァルツさん。
え? 私、何変な事言った?
4話目にしてようやくヒロインちゃんの名前がっ!・・・ちょっと不憫な主人公。