第2話 初めての危機
竜になった私は毎日とても楽しく過ごしていた。
私が卵から孵った場所はそのまま私の寝床になった。深い森の中の大きな木のうろ。
お腹がすけば甘い木の実を食べて、小鳥や森の動物たちとおしゃべりをする。
動物たちは物知りで、私の知らないことをなんでも教えてくれた。
前の自分ではできなかったことをやってみる。暑いのも寒いのもへっちゃら。雨に打たれるのはまるでシャワーを浴びているよう。生まれて初めて空を飛んだ時は本当に嬉しくて、私は真っ暗になるまで空を飛び回った。
空から見るこの世界は本当に広くて、私はまだ見ぬ世界を想像してわくわくした。
そんなある日、私は人間を見つけた。
そこは高い山のふもと近くの草原で、綺麗な花が咲いでいるお気に入りの場所。
小さな男の子と女の子が花を摘みながら楽しそうにおしゃべりしているみたい。
私はなんだかその様子が気になって、山の上から二人がその場を立ち去るまでそっと眺めていた。
しばらくして私はまた同じ場所に行った。
今度は若い男の人と女の人がいた。恋人たちなのか、やはり花を摘みながら楽しそうにおしゃべりしている。あまりにも楽しそうな二人に私が思わず体を動かすと、彼等は私に気が付いた。
二人はまるで恐ろしい物を見ような目で私を見て、そして走り去って行ってしまった。
「ニンゲンキケン」
「キケン キケン」
「チカズクナ イケナイ」
「大丈夫よ、私はもともと人間だったんだから、人間の事はよく知ってるよ。」
私は森の動物たちの忠告を聞かず、また同じ場所に行った。
そしていつものように山の頂に降りた時、手に激しい痛みを感じる。びっくりして自分の手を見ると、小さく黒いナイフが刺さっていた。何度手を振ってもナイフは取れない。
「竜だ! やったぞ!」
「生きたままつかまえろ!」
突然目の前に鎧を来た人たちが出てきて私を取り囲み、縄を投げ矢を射った。
私は自分に何が起こったかわかならい。ただ手の痛みがどんどん広がっていく。
「竜が同じ場所に来るという習性は本当だったようだな」
「はい、上手い具合に罠にかかったようです。このまま上手くいけば2、3日で動かなくなるでしょう」
どうして? 私が何をしたっていうの??
激しい痛みは今や体中に広がって、私の思考を奪う。
「竜の生け捕りとは前代未聞のことだ。成功すれば王も喜ばれることだろう」
いやよ、いや、私を離して! 助けて! 誰か助けて!
ーーその時、空が暗闇に閉ざされた。