猫、フーニャン
次に気がついた俺は、今度はなんだかフワフワした軟らかくて気持ちイイ手に持たれていた。
なんかこう、棒の部分持たれると・・・・・・ヤバイくらい気持ちイイ。一体俺を掴んでいるのは誰だ?
俺の使い手が、俺の星球部分を覗き込んでくる。俺に目はないが目があった気がする。ツヤツヤモフモフな毛並みにピンとのびた髭が3本ずつ左右に。くりっとした青い瞳の猫っぽい顔、人と猫の中間っぽい感じの猫型獣人だ。
ってことは、この気持ちよさは・・・・・・肉球?
『この武器、しゃべるのニャ』
ああ、そうだ。俺が掴まれている限り、俺の思うことは全部お前に筒抜けらしい。なんで俺はお前に持たれてるんだ? 前は鍛冶神のおっさんがもっていたはずだが。
『ボクの名前はフーニャン。あの神様のとこに遊びに来てた猫ニャ』
神様のとこに遊びにってどういうこと?
『僕らは現世で死んだ猫ニャ。霊界で転生を待つ規則ニャんだけど、行列を待つのニャ退屈で、抜け出したのニャ』
ああ、猫っぽいな。
『階段を駆け上がるとそこは神界で、それで好き勝手に遊び歩いていたニャ』
いいな、自由で。
『あの鍛冶神は僕らで遊んでくれたけど、飽きてくるとこの武器で僕らを叩きつぶして始めたニャ』
なんだって!? ダソヌマソの野郎、なんて奴だ!
『所詮、神なんて自分勝手な存在ニャ』
お前、猫のくせにずいぶんと渋い考え方するなぁ。
『たぶん、お前のせいニャ』
何?
『ボクは仲間が光になって消えていくのを見て、悔しくて泣いたニャ。その場から逃げ出して、でも後から戻ってきて、仲間を叩きつぶしたお前が憎くて猫パンチしたニャ』
『猫パンチしてるうちに段々夢中になってきて、興奮して両手で捕まえたニャ』
ああ・・・・・・猫っぽい(笑)
『そしたら、ボクに人間の知識が流れ込んできて、身体が変身してしまったんだニャ』
なるほど、『使い手にこの武器の人格が持つ知識が投影され、使い手は莫大な英知を得ます』ってやつか。英知すげぇな!
『おかげで人間の知識という要らないことを知ってしまったニャ』
『ボクはもう、普通の猫には戻れないニャ』
俺はモニ☆スタ-の使用説明書を良く読んでみた。ちっちゃく隅っこに注釈が書いてあった。なんだよ、この悪徳っぽい説明書は。
どうやら、元の姿には戻れるみたいだぞ。俺も使い手に合わせてサイズを小さくしたり、形状を変化させることが出来るみたいだ。
『ホントニャ!』
やってみようぜ!
『判ったニャ』
俺たちは試してみた。その結果・・・・・・フーニャンはペルシャ猫の姿になった。毛並みはちょっと灰掛かった白、瞳が青色で綺麗だ。俺はまず全体がサイズダウンし、棒の部分が平たくなって首輪状になった。鎖は短くなり、鈴の代わりに星球がぶら下がる形だ。
フーニャン、重くないか?
『大丈夫ニャ。重みは全然感じないニャ』
俺は俺で猫の首にぶら下がってる感じだ。そんなに悪くない。
これなら普通の猫に戻れるのでは?
『姿は戻ったけれど、知ってしまった知識は変わらないのニャ。お前を盗み出してしまったことにもなるし、鍛冶神のところには居られないニャ』
そういや、ここは何処だろう?少なくともあの神殿ではなさそうだ。黄昏色の空が見えて、白い豪奢な建物がずっと並んでいる。でも通りには誰の姿もなく、ここに居るのは俺達だけだった。何か、非常に侘しい光景だ。
フーニャンは人気の無い街路を進み町外れまでやってきた。何が町外れかって、角地に井戸があり、その向こうは雲海が広がっている。フーニャンが試しに角まで言って下を覗き見ると、地面は消えており遙か下方に雲が見える。フーニャンは腰が抜けかけて後ずさりし、俺は俺で球がキュウッと縮まるような感覚がして嫌だった。
高いところ苦手か?
『むしろ好きニャけど、たまに我に返ると怖いニャ』
俺は球の縮まる感覚がなんとも言えずに嫌だわ。アレは女には判らないだろうなぁ。
『ボクも雄だけどそれは良く判らニャイ』
それはさておき、これからどうする?
『これから、この神界を脱出して現世に戻り、伝説のアイテムを求めるのニャ』
脱出できるのか? それって身体貰えるの? それに伝説って何よ?
『町外れの井戸が下界への一方通行らしいニャ。下界に降りれば、僕らのように洗浄されていない魂は転生せずにそのまま受肉するらしいニャ』
受肉・・・・・・難しい言葉知ってるのね。じゃあ、俺も身体手に入るのかな?
『判らニャイけど、たぶんアンタは市場で売られてたから洗浄済みだと思うニャ。その武器のままだと思うニャ』
そうか・・・・・・まぁ、俺としては動ければいいや。一緒に連れて行ってくれよ。
『判ったニャ。』
で、伝説のアイテムってのは何?
『四角くて軟らかくて暖かいモノニャ。全ての猫の桃源郷ニャ!』
それってもしかして・・・・・・
『そう! コタツなのニャ! アンタにも手伝って貰うのニャ。よろしく頼むのニャ!』
なるほど。コタツとミカンと猫はセットだもんな。オーケー! 判ったぜ。猫のお前と一緒なら、俺も悪くない気がするぜ。
『アンタの事はなんて呼べば良いニャ?』
前世の俺の名前は思い出せないしなぁ・・・・・・そうだ、俺の名前は、モニ☆スタ-、通称モニと呼んでくれ。
『判ったニャ、モニ。それでは出発ニャ!』
フーニャンは俺を首にぶら下げたまま、古井戸に飛び込んだ!
こうして、俺のモフモフで肉球まみれな第二の人生が始まった。