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王子の嫁として召喚されたけど、メイクを落としたら見向きもされなくなった話

このお話はフィクションでファンタジーです。

異世界召喚・文明低/ヒロインがざまぁされます/メイクは大事/でもやりすぎ注意/

「美希、それ新しいコスメ? 春の新色でしょ? 可愛い~」

 でもアンタより私の方が似合うと思うけどねー。

 大学のカフェテリアで見かけた美希に声をかけてあげる。

「私、あまりメイクが好きじゃないけど亜紀ちゃんみたいに少しでも可愛くなりたくて」

 言いながらはにかんでるけど、それって私みたいに可愛くないと誰も気付かないよ?それにアンタ、ほとんどすっぴんと変わりないじゃん。マスカラもしてないんじゃ綺麗になんてなれるはずないのにねー。

 ちょっとトロくて頭の鈍い美希は私の友達なの。友達だっていっても私を引き立てる背景みたいなもんだけどね。ネイルだってしないし、メイクだって最低限。付け睫毛どころかビューラーだって怖くて使えないって、何ソレ。ウケる。

 お陰でコンタクトも入れられなくて眼鏡をかけてるんだよ。私なんて黒目が少しでも大きく見えるコンタクト入れて、可愛さに磨きをかけてるのに。

 春の新色使ったくらいじゃ全然変わらないの、いい加減気付きなよー。

「ええ~、美希だって可愛いじゃん。肌、きれーだよねー」

 ソレくらいしか褒めるところないけどねー。きゃはは。

「そうそう、今度さ。コウスケ達と合コンするんだけど、美希も参加するでしょー? 可愛い友達連れて行くって約束したからさー。いいよねー?」

 他にも普通な子は一杯いるけど、友達だから美希を誘ってあげたの。優しいよねー。

 これでメンバーが揃ったわ。私が一番可愛いんだから、きっとコウスケの友達全員が私の隣を取り合うわね。とっても楽しみー。




 会場に一人で行くなんてぼっちと思われるから、美希を誘ってあげた。楽しみだねなんて暢気なことを言ってる美希。ばっかじゃない? アンタなんか誰も気にしないって。

 薄暗くなってきた道を二人で歩いていると、突然目の前が白く光った。あたしは美希の後ろに隠れて目を瞑ったら、いつの間にか西洋のお城のような素敵な部屋にいたの。

 そして茶髪で青い目のもの凄いイケメンがタキシードみたいな服を着て膝を付いてにこやかに微笑んでいたわ。もう一人、黒髪で青い目のイケメンも印象の違う服を着てこっちを見て微笑んでる。映画俳優も目じゃないくらいいい男二人に恥ずかしがり屋な女の子を印象づけようとして美希の後ろに隠れると、美希は説明しろと急に怒り出した。

「美希、きっと何か事情があるんだよ。怒ったりしないであげて」

 タイミングが良いわ。さすが私の引き立て役(笑)。私って優しいから、きっと二人に気に入られちゃうわ。

 そして落ち着いて話を聞いてみると、どうやら女神のカゴ?っていうのを貰うためにイセカイから王子様の奥さんをショウカンしたんだって。でも二人来たのは初めてで、どちらか一人が王子様の本当の奥さんだって言われた。

 だから美希をいつものように踏み台にすることにしたの。

「ごめんね、美希。私があの時美希を掴んだから、一緒にショウカンされちゃったんだよ。ホント、ごめん。美希のことは王子様に言って絶対なんとかして貰うから」

「亜紀ちゃん、謝らないで。亜紀ちゃんが悪いわけじゃないよ。でもいいの? この国の人達は誘拐を推奨するような人達だよ?」

 帰りたいと泣いていた美希の顔は涙と鼻水でグチャグチャで、とっても不細工。涙を武器にするならもっと綺麗に泣かないと、男はひくだけだっていうのに。

「私は王子様に幸せにしてもらうから大丈夫」

 ニコニコと笑っているとイケメン二人が恭しく手を取った。

「姫。お名前を教えていただけますか?」

 茶髪のイケメンがトロけるような笑顔で聞いてくる。

「あ、亜紀……です。巻き込まれたあの子は美希っていうの」

 名前を言うと「アキ様ですね」と嬉しそうに私を呼ぶ茶髪のイケメン。黒髪のイケメンもこっちにくればいいのに、仕方なさそうに美希の傍にいる。優しいのね。後で話しかけてあげなくちゃ。

 そんな風に名前を教えたり話を聞いているうちにイケメン二人が何かに気付いて私から離れ、ドアに向かって恭しく頭を下げた。するとノックの後にドアが開き、金髪の超絶イケメンが部屋に入ってきたの。

 映画俳優なんて目じゃないくらいの美形に思わず見惚れていると、茶髪さんが「王太子殿下。こちらが召喚された乙女アキ様とミキ様です」って紹介してくれたわ。だからすかさず少し怯えた振りをしてデンカをそっと見上げてみたの。

「美希は私に巻き込まれてしまったんです。どうか美希に酷いことしないで下さい!」

 今日は合コンだったからアイメイクは完璧。だから大きな目で見つめればデンカは優しく微笑んでくれた。

「見目麗しい乙女が召喚されると聞いていたが、これほどとは……どうか私の物になって欲しい」

 私だけを見つめるエメラルドの瞳は微かな熱を孕み、抱き込まれそうになるほど近くに身を寄せられると、服の下の逞しい身体が感じられて。

 美希に見向きもしない様子に私は勝ち誇った笑みを浮かべながら、最高の男と贅沢な暮らしをゲットしたー!と頭の中で叫んでいた。




 あの後別の部屋に案内されて王子と夕食を食べた。慣れない食べ物に苦戦してたら王子があーんって食べさせてくれて、私達すぐにラブラブになったの。きっと王子も私のこと一目惚れしてたんだわ。

 「貴女を手に入れる日が待ち遠しい」なんて抱きしめられたらもう我慢できなかったんだけど、安い女だなんて思われても嫌だから返事をしないでじらすことにした。

「それではアキ、おやすみ」

 甘いムスクの香りがする王子に紳士っぽく頬にキスされて今日は見送る。そしてメイド達にお風呂に入れられて、マッサージまでされちゃった。さすが王族よね。こんな贅沢が毎日受けられると思うと、美希には悪いけどこの世界に来て本当に良かったと思う。

 頭の先から足の先までピカピカにされて、シルクっぽいナイトドレスと天蓋つきの凄く柔らかくて広いベッドに横になる。明日が楽しみすぎてなかなか寝付けなかったけど、仕方ないよね。コウスケなんか目じゃないくらいの美形が私を好きになったんだもん。

 ワクワクしていたらいつの間にか寝ちゃってたみたい。まだ凄く眠かったんだけどメイドに優しく起こされて、ベッドの上で朝食まで食べたわ。本当にお姫様扱いでドキドキしっぱなしなの。

 朝食の後はドレスが用意されてドレッサーの前に連れて行かれたんだけど……何、コレ。白い粉に下品な色の口紅しかないんだけど。

「ねぇ。もっとマシな化粧品はないの? 化粧下地とかリキッドファンデとか。チークやマスカラは?」

 眉だって描けないし肌荒れをカバーすることもできないじゃない!

 怒鳴る私にメイドは頭を下げて言い訳を始めたの。

「こちらは王妃様もお使いの我が国で最高級品でございます」

 こんな大昔のメイク道具でどうしろっていうのよ。私は王子の妻なのに!

「アキ、どうかした?」

 メイドを怒鳴りつけていたら王子が心配してきてくれて、私は慌てて両手で顔を隠したわ。すっぴんなんて見せられるわけがないもの。

「どうして顔を隠すの?」

 不思議そうな王子にちょっと苛つく。

「私、まだメイクしてないの。だから……」

 メイク前だから眉もほとんどないし、昨日のエステで付け睫毛もコンタクトも取ったのに。

「ああ、そんなことか。大丈夫だよ。化粧などなくてもアキはうつく……」

 両手をそっと取られて振り払うわけにもいかなくて促されるままに手を避けたら、王子の言葉が急に止まった。

「王子?」

「君は誰だ」

 低い声で聞かれて驚いた。

「え? 私、亜紀だよ?」

 ちょっと顎を引いて上目遣いで見上げても、美麗な王子の顔は怖いままだ。つながれていた手は今は痛いほどきつく握りしめられていて訳が判らない。

「衛兵! 急いで王宮を閉鎖しろ! 召喚の乙女が攫われた! それと審問官を呼べ! この女がどこの家の者か早急に調べろ!」

「王子様! 私が亜紀なんです! メイクをしていないだけなんです!」

「ふざけるな! どう見ても別人ではないか。お前は自分の顔を鏡で見たことがないのか? お前などアキの足下にも及ばない」

 王子は私を見下しながら汚い物を触ったかのように手を離し、変わりに騎士みたいな人に背中に手を回されて床に這わせられる。痛い! なんなの? どうして? なんでこんなことに!!




 それから美希が慌てて飛んできて、私は亜紀だと怒れる王子に向かって言ってくれた。そして王妃様と王女様も来て、王子を宥めると部屋には女性だけにしてくれたの。

 落ち着くようにって紅茶を飲みながら、美希がどうしてこんな騒ぎになったのかを王妃様に説明してる。よく見ると王妃様と王女様は薄くしかメイクしてない。それなのに睫毛も羨ましくなるほど長くて、肌もツルツル、真っ白で染み一つないのに気が付いた。

 美希から理由を聞いた王妃様はとても美しく微笑むと、頬に手を当て首を傾げる。

「困りました。この国では昔からありのままの自分を見てもらうという風潮が根強くて、素顔に近い化粧をするのですわ。化粧道具もそれに合わせた物しかありませんの」

「わたくしは未婚なので口紅も塗りません。潤いを保つために保湿クリームは使用しておりますけれど……」

 申し訳なさそうに付け足すのは王女様の唇はパールピンクでプルンとしててとっても可愛いのに、本当に何も塗ってないの? 私を王子と結婚させないために嘘を言ってるのかも……

「この国の者は女性というのはそういうものだという常識がありますから、息子も素顔の貴女を見て大変驚いたのでしょう」

 この人達は私が嫌いなんだと思った。だってこんな意地悪なこと言うんだもん。ちゃんとしたメイク道具さえあればこの人達より私の方が可愛いのに。

 むかつきながら美希を見ると……いつもより綺麗になってる気がする。本当に少しだけだけど肌もツルッとしてて、王妃様たちほどじゃないけど綺麗な真珠色で。

「美希、メイクしてる?」

 思わず聞くと美希は不思議そうに、けれどすぐに首を横に振った。

「私がメイク嫌いなの、亜紀ちゃんは知ってるでしょう?」

 どうしたの?と笑う美希の睫毛は豊かで長かった。王女様と比べても同じくらい。それに比べて私の睫毛は付け睫毛をしたり、マスカラを塗ってメイク落としでこすったせいで短くて痩せていた。

「なによ……なによ。アンタはメイクが嫌いなんじゃないわ。女として手を抜いてるだけなのに! アンタは私の引き立て役なの! そんなドレス着たって似合わないに決まってるじゃない! それにショウカンされたのは私でアンタはおまけでしょ! 王子と結婚するのは私なの! 王子と結婚したらアンタなんてこの城から追い出してやる!」

 寝不足でイライラしていたのもあって遠慮なく本音をぶつけてやる。傷付いたって構うもんか。最初に私を裏切ったのは美希なんだから。怒鳴りながら手に持っていた紅茶を顔にぶっかけた。これでメイクも落ちるでしょ。醜いアンタなんて誰も相手にしないわ。

 驚いた王女様が悲鳴を上げて騎士っぽい人達がなだれ込んでくる。王妃様が落ち着くように言ってるけど、一番最初にいた茶髪と黒髪のイケメン二人が美希を守るように抱きかかえて私を睨んできた。

「私は悪くないわ! だって王子の妻になるんだから! それとも私のカゴがいらないっていうの?」

 そう言えば私を捕まえようとしていた男達は手を出せないようだ。愉悦感に笑っていると王子が部屋に入ってきて、冷たい目で「連れて行け」と指示を出す。すると周りにいた男達が私の腕を掴んで私の部屋から連れ出そうとした。

「王子! 私は亜紀です! ちょっと、離して! 私は王子の妻になるのよ!」

 どうして? どうして王子は私を見ないの? どうして美希の前に跪いてるの? アンタは私のモノでしょ!

 それから連れて行かれた部屋は最初の部屋より狭かった。日当たりも悪いし窓も小さくなった。硬いベッドに机とイス、チェストと家具はそれだけ。部屋のドアを入るとタイル張りの小部屋になっていて浴槽とツボが置いてあった。お風呂は一週間に一度だけ。あとはたらいに張ったお湯が運ばれ来るの。エステもなくなったし、メイドもちやほやしなくなって怒鳴り散らしたら、次の日からもっとみすぼらしいカッコの女が来たわ。

 ドレスは用意してあるんだけど、髪も結ってくれないしメイク道具もないから外に出ることもできない。

 王子を呼んでと叫んでいるのに、メイドは無視するし、扉の前の兵隊も無視するの。だから美希が私と王子の仲を引き裂こうとしてるんだって判った。仕方なく王子に直接会って説明しようと思って部屋を出たの。

 部屋を出ても止められなかったし、やっぱり私は大事だからか護衛も付いてきた。

 それに気が付いてもしかして王子が守ってくれてるのかも?って思った。美希の本性を暴いて、私の安全を確保してから会いに来ようとしてるんだって思ったら我慢できなくて王子の元に急いだのに。

 聞き覚えのある笑い声に廊下の外を見ると、綺麗なドレスを着て、髪も綺麗に結い上げた美希を囲むように茶髪のイケメンと黒髪のイケメンが笑っていた。大事そうに手を取ってエスコートする二人に、美希は困ったような笑みを浮かべてる。そこに王子が現れて美希の前に跪くと真っ赤な薔薇を恭しく差し出した。美希はすぐに受け取らず、しばらく会話を交わしてから仕方なさそうに差し出されていた薔薇を受け取ったのだ。

「それは私のよ!」

 我慢できなくて中庭に飛び出ると王子が美希を抱き寄せ、茶髪と黒髪のイケメンも私と王子の間に立ちはだかる。

「あんた達は騙されてる! 美希はおまけなの! 私が本物なの! 王子! 私は亜紀です! 美希に騙されないで!」

 後ろから駆け寄ってきた護衛が私の腕を取り地面へと伏せさせるが、口に土が入っても私は訴え続けた。

 「亜紀ちゃんに酷いことしないで!」とか「お願い、亜紀ちゃんと話をさせて!」なんて美希が言ってるけど、王子やイケメン達は「美希の方が大事です」といって取り合わない。私もアンタなんかと話をしたいなんて思わない。私が話したいのは王子だけなんだから。

「アンタの悪事を暴いたら、王子は私を奥さんにしてくれるんだから! そんな風に笑ってられるのもあと少しなんだから!!」

 引きずられながら叫ぶと、王子が私を見て……笑顔を浮かべたのを見た。


次回:美希視点で騒動の決着と王太子のざまぁがあるよ!

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