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世界の真実は身の毛がよだつほど残酷でハプニングの連続である【後編】

一話前の話の続きです。

軽い人類滅亡描写があります。

このお話はフィクションでファンタジーです。

異世界文明度・高い/人死に・有り/可もなく不可もなくノーマルエンド/謎は謎のまま

「まぁ、簡単に終わる話じゃないから座ってお茶でもどうぞ」

 そう言ってソファを俺達に勧めているのは封印されているはずの魔王本人。黒髪と濃い茶色の目を持つ見慣れた顔で平凡な容姿の女性。けれど時折内より滲み出る何かが、得体の知れない悪寒となって背筋を走る見た目詐欺な存在だ。

「神尾君はこの間ぶりだね。そして今代勇者の笹原君、初めまして。名乗ろうにも名前は忘れたし、種族もあやふやなので取りあえず魔王と呼んでちょうだい」

 相手の名乗りに勇輔が腰を上げて腰の剣に手を伸ばすも、俺は黙って用意されたお茶を飲んだ。

「久志。ずいぶん落ち着いてるね。知り合いだったりする?」

 柔和な雰囲気のまま、魔王から目を離すことがない勇輔が聞いてきて。

「話しただろ。魔力をお前に返すために街で会ったって」

「魔王だなんて一言も聞いていないよ?」

「言ってないからな」

 俺が話したのは『召喚の聖女に似た女』だ。

「神尾君、酷いな。私はちゃんと魔王を名乗ったのに」

「アホか! 街中で封印されているはずの魔王に会ったなんて言えるか! 少しは考えろ!」

 俺の対応に文句を言う魔王を見て、勇輔は目を細めて再びソファに座ると出されていたお茶に指をかける。

「笹原君、信じてくれたのか」

「お前みたいな得体の知れないものを信用するか! 勇輔が信じたのは俺だよ」

「皇帝から頼まれていたのは魔王の再封印だからね。討伐じゃない。それに方法は魔王城に行けば判るって言われてたから何らかの説明はあると思ってた」

 隠し事をしていた俺を信じたわけじゃないと多少の苛立ちを含ませて反論され、正直な友人の言葉に若干落ち込みつつも俺は魔王に話の続きを促した。

「なんで俺達を……いや、勇者を召喚した。説明するって言ってたよな。それが返還の条件だと」

 カチャリと微かな音を立てて魔王の茶器がテーブルに戻る。30代くらいの男がポットからお茶のおかわりを注ぎ終えるのを待って魔王は足を組んだ。

「勇者を召喚する理由は私の話を聞いて欲しいからだ。最後まで聞けば、私がなぜ貴方達を召喚したのかが判るだろう。信じる、信じないはどうでもいい。とにかく記憶の片隅にでも私の話を覚えておいてほしい」

 懇願するような、それでいて何もかも諦めたような声音で魔王は語り始めた。




 私が住んでいた世界は、前触れもなくある日突然終わった。

 理由は判らない。様々な憶測が流れる前にほとんど全ての人が死んでしまったのだから。

 その中でなぜか私だけは死ぬこともできずに喉から血を吐きながら泣き叫んでいたんだ。家族も、友人も、ありとあらゆる人々が衰弱し、眠るように死んでいくのに私だけが生き残っていたからね。

 多分その頃が一番狂っていたと思う。ほとんど記憶がないんだ。憶えているのは庭に穴を掘って家族を埋葬し、その横に寝転がって脱水でも栄養失調でもいいからなんとかして死のうと思ってたことくらいかな。

 それからしばらく経っても死ねなくて、仕方がないから誰か他に生きている人がいないか探しに出かけたんだ。

 何かの本で読んだんだけど、核戦争後の世界でも耐性がある人は生き残るらしい。その確率は百万人か一千万人に一人とかなんとか。

 だから大きな都市に行けばもしかしたら生きている人がいるかもしれないと思ったんだ。一人はとても辛すぎて、一人はとても悲しかったから。

 そしたらいたんだ、生きていた人が。

 でもその人はもうダメだった。多分孤独に耐えきれなくてビルの屋上から飛び降りたんだと思う。その後もそんな感じの死亡時期がみんなとずれた人達を幾人か見つけて、私は再び狂ったんだ。




「それから何千年経ったんだろうね。私はいつの間にか正気に戻っていて、周囲には新しい生態系ができていた。新しい能力として生まれた生体魔力を使い、生命の進化を妨げる旧世界の根源をここに封じ込めたんだ。そして私のような思いをすることがないよう、過去の人間を召喚して注意喚起していたってわけさ。人類滅亡なんて起こらないに越したことはないからね」

 話している最中の魔王はこちらを見ているようで焦点が合っていなかった。当時の、狂った記憶が彼女の目に写っていたのかもしれないと同情しながら俺はお茶を飲む。

 重苦しい沈黙が広がった室内に落ち着いた声が発せられたのはその時だ。

「勇者様方。今の話だととても素晴らしい行いのように聞こえますが、とんでもないことを彼女はしでかしております。実は離れ行く月を元の軌道に戻そうと生体魔力を使ったら二つに割れてしまって、とてつもない異常気象を引き起こしたり」

「こら! まて、ゼロ!」

 慌てて止める魔王を気にも留めず、執事らしい男は無表情で暴露を続ける。

「大陸が分かれているのが面倒だと一つに繋げようとして片方を割って沈めてしまったり」

「ちょ、それはお前も悪いだろ!」

 災害どころか天災規模に俺も勇輔もドン引いた。

「ある日突然、『私は天空の城に住みたい!』とおっしゃってとある島を空に浮かべたのはいいのですが、しばらくたって飽きると放置して魔力切れで島が墜落したり」

「下に人は住んでいなかったんだからいいだろう!」

 それは言い訳できないだろ。なに逆切れしてるんだよ!と突っ込んでやりたい。

「自分の記憶を頼りに過去から人を召喚して未来を変えたいと仰ってたくせに、肝心の過去をほとんど憶えておらず、だいたいこの辺りだろうという適当さで召喚陣の座標を組んだのも見ていましたから」

「仕方ないじゃないか。当時の私は普通の人間だったはずなんだ。時間まで含めた空間座標なんて見れるわけがない。だから――――」

 魔王とは言い難い言い訳を口にしていた彼女は小さくはにかんで。

「『異世界』から来た君達の未来が、私の話した未来だとは限らない。それでも今からでも良い方向に変えることは可能なはず」

 魔王と執事を中心にグニャリと曲がる景色。一度体験したことのある不快な意識の混濁と強烈な目眩に襲われて。

「まだ、話が」

 伸ばした手すら真っ直ぐに保つことはできず。

「君達の歴史が未来永劫続くことを願っているよ」

 まるで耳元で囁かれたような優しい声を最後に、俺は意識を失った。




 夕日が教室に射し込む強烈な光で目が覚めた。

 俺が起き上がると同時に勇輔も目を覚まし、二人で教室を見回す。

「帰って…来た、な」

「ああ」

「夢じゃ、ないよな」

「ああ」

「久志が一緒じゃなかったら夢だと思って忘れられたのに」

 珍しく勇輔が愚痴を零す。滅多にそういう態度を見せないヤツだから、俺は驚いてその苦虫を噛み潰したような顔を見ると。

「記憶の片隅でいいから覚えておけって言ってただろ。多分それで良いんだよ。俺達が未来の破滅を阻止するのを望んでるわけじゃない。きっと」

 立ち上がり帰り支度を始めた勇輔が自分に言い聞かせるように魔王の言葉を繰り返した。俺は胸の内のモヤモヤを閉じこめて同じように帰り支度をすると、沈んだ夕日を見ながら思わず呟く。

「魔王のヤツ、けっこう好き勝手してたな」

「あの世界の月が二つに割れてたのって魔王のせいだったとは」

「アレ、確かあの世界の創世神話になってたぜ。この世界を作るときに神様が頭をぶつけたってことになってた」

「あはは、なにそれ。間抜けにも程があるんだけど」

「他にも神の怒りに触れた大陸が一つ沈んだとか」

「ソレってこっちの世界にもある話だよな。意外と歴史ってそんなもんなのかもなぁ」

「それとも――」

「あはは――」




「無事帰せましたね」

 二人の消えたソファを見ながら魔王は重くなった身体でため息を吐く。身の内にこもる魔力が薄くなり、割れる直前の水風船のような緊張感が霧散した。元の世界に勇者を帰す――これがこの世界の破滅を救うことになるなど、あの二人は気付かないだろう。魔王自身が破滅の種であり、本来ならまだ汚染されていたはずのこの世界を救った代償なのだと知ったらこの世界の人々はどのような反応を返してくるのだろうか。 

 この瞬間は何度経験しても慣れることはないなと頭の隅で考えながら、重くなった空気をフォローしてくれたゼロに微笑んだ。

「ああ。あまり深刻な話をして帰ってから悩まれるより余程いいだろう。ゼロもありがとう」

 グッタリと力の抜けた身体を男が抱きかかえると、魔王は閉じていた目を開けて精悍な顔を見上げる。

「さて。この身体はあとどのくらい持つかな? 形を保っている間に遊びに行かねば!」

「……オリジナルの細胞を使った複製なのに一年も持たないとは……」

 テンションの高い魔王は男の悲哀を含んだ呟きに呆れたような返事を返す。

「仕方ないだろう。本体を換えてから魔力の総量が増えてオリジナルの複製ですらキャパを越えてるんだ。地道に複製を作っていけばそのうち突然変異して頑丈な身体が作れるようになるって」

 なんとも軽い返事にゼロと呼ばれた男は微かに笑い、主の希望を叶えるべく建物の出口へと足を運んだ。ごっそりと持っていかれた魔力が回復しつつあるのを感じながら、強烈な睡魔に襲われた魔王は彼の逞しい胸に頬を寄せる。

 自分の過去を話すたびに底のない狂気に晒される魂が悲鳴を上げていた。だから今だけは、この存在にだけは甘えて良いのだと自分に許し……

「何があっても傍に……」

 後半が吐息だけの小さな呟きに、眠りについた華奢な身体を宝物のように抱きしめたゼロは、柔らかな笑みを浮かべて掠れた声で応えた。

「もう二度と、貴女を一人にはしません。神尾久志はその為に私を残したのですから」


書きたいことを書きたいように書いたらカオスになった。

どうしてこうなった…



この話の裏話に興味のある方は割烹にて。(H26.2.5)

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