世界の真実は身の毛がよだつほど残酷でハプニングの連続である【前編】
軽く読める人類滅亡の話を目指しました。
魔力チートをもらった召喚者は自分の義務を放棄しますが、軽くざまぁされてます。
このお話はフィクションです。
異世界文明・高い/人死に・有り?/基本ハッピーエンド/謎は謎のまま
その日はいつもと同じなんの刺激のない日になるはずだった。
くだらない授業を終え、幼なじみで友人の笹原勇輔と神尾久志は教室でくだらない話に興じていた。部活をすることもなく、適度な小遣いがあるのでバイトをするわけでもなく、かといって勉強が出来るわけでもない二人は暇を持て余していたのである。
正確に言えば暇なのは神尾久志だけなのだが。
「なぁ、勇輔。お前、いつまで剣道続けんの?」
携帯電話を操作しながらの何気ない質問に、日本人にしてはフワフワした茶色の髪を揺らしておっとりした仕草で笹原勇輔は首を傾げる。その様子だけ見れば高校生でこの地方でも1、2を争う剣道の腕を持つとは思えないだろう。
「この学校の剣道部は廃部になったろ。剣道場だって柔道部に取られて……部活の時間に勉強して夜に民間の道場行って。大会に出られるわけじゃねぇのに、なんでそんなにムキになってるわけ?」
他人が聞けば辛辣な言葉なのだが、そこは幼い頃からの付き合いがあるもの同士。俺の言葉に勇輔はにっこりと微笑んで手に持っていた本を閉じた。
「高校名では出場できないけれど道場の方での試合もあるし、高校を卒業すれば社会人の大会にも出場できるからね。それに俺、剣道好きだし」
「……良い子ぶってんな」
心から打ち込めるものを持つ勇輔に嫉妬とも侮蔑とも付かない視線を送る。思春期特有の何かをしなければならないという不安感と大人に対する反抗心で、高校入学後半年で剣道を辞めてしまった俺は、当たり前の意見を口にした。
「努力なんて格好悪りぃのに」
熱血なんてダサいだろ。小さな胸の痛みと共に続けようとした言葉は、容赦のない意識喪失にあっさりと消えていった。
「…し。…久志」
「なん…だよ…」
「大丈夫か? 生きてるか?」
「死んでたら返事しねーよ」
突然の意識の混濁と浮上に、酷い乗り物酔いのように地面が回る。身動き一つ出来ないのに容赦なく回る世界は、目を瞑っていても俺を苛んだ。
「少々お待ち下さい……」
突然聞こえた女の声。あまりの近さに慌てて身を起こそうとして、額に当てられたひんやりとした手に押し止められる。そして身体の中を薄い膜がゆっくりと抜けていく感覚に鳥肌が立った。
「やめろ! なにして…」
目眩とは異なる気持ち悪さに額に当てられた手を振り払い、身を起こした俺が見たのは真っ白な少女。床まで真っ直ぐに流れる白い髪と黒に近い茶色の大きな目、肌の色も抜けるように白く、身に付けているシンプルなワンピースも白い。背後には岩をくりぬいたようなでこぼこの壁が見え、床だけは磨かれて黒い鏡のようにツルツルだ。そんな床にペタリと座り込んでいた少女の体勢に、今まで自分の下にあった柔らかな枕がなんなのかようやく理解した。
「ご気分はいかがですか?」
「久志……」
鈴を鳴らしたような軽やかな声が部屋に響き、幼なじみの心配そうな声が続く。問われて先程までの車酔いのような症状がまったく消えていることに気が付いた俺は、自分を落ち着けようと大きく息を吐いた。
「もう……平気だ。それよりここがどこで、あんたは誰だよ」
いつまでも靴を履くような場所に座りたくなくて立ち上がれば、身長が俺の腹までしかない少女も一緒に立ち上がる。
「ご無事でなりよりでした。異世界より召喚されし勇者様」
そう言って能面のような無表情で丁寧に頭を下げた少女はこの部屋唯一のドアを開けたのだった。
その後のことを簡単に纏めれば。
俺と勇輔がいた部屋は召喚の間と呼ばれる聖域だったらしい。離れた場所にあった神殿にて金髪碧眼の皇子とアイドルもビックリの美皇女に、融通の気かなそうな雰囲気の堅物騎士団長とテンプレ悪役っぽい小太りの神官長を紹介され、二人は王城へと招かれた。
そして皇帝に謁見し、この世界はフェキテスという名で、この国はエレンダール皇国だと教えられる。百年に一度、勇者を召喚して魔王のいる地へと赴かせ、魔王城にて魔王を封じる結界を張り直してもらっているんだとか。
なぜ自分達でやらないのかという俺の質問に魔王城には広大な結界が張ってあり、それを通り抜けるのは異世界人だけだからだと答えられた。この世界の生き物は人間も魔物も通さない壁らしい。
もとの世界に帰れるのかという勇輔の問いに皇帝自ら自身の名をかけて帰ることができると言い切った。俺たちとそう歳の変わらない子供がいるとは思えないほどの覇気を纏った皇帝は悔しさを滲ませながら語る。
「自分達の世界のことだ。自分達で解決したかったが、今はまだ結界を越えて再封印する手段がない。お前達に頼む以外にこの世界を滅びから救うことは出来ないのだ。お前達が平和な国から来たことも知っている。戦いや生き物を殺すことができないことも。だがそれでも頼む。この国を、世界を救って欲しい」
皇帝の言葉に勇輔が「判りました。お引き受けします」と軽々しく肯いて、俺は黙ったまま目を伏せて謁見は終了した。
そこから俺達は勇者としての力の確認をし、勇輔は武力を、俺は魔力をその身に宿していると判明する。過去の勇者はすべて一人で、武力も魔力も両方持っていたというから、俺も勇輔も両方勇者なのだろうということだ。
俺は魔力の扱い方を学びながら城の連中を観察した。そして能力が高いと噂される連中でも、俺の魔力の半分以下であることが判った。もちろん勇輔も皇国の英雄と讃えられるような相手に引けをとらない身体能力を有しているのだから、勇者というのはやはりチートなのだろう。
そして一通りの基礎と密かに自分で開発した魔法を修得した俺は、闇夜に乗じて城から抜け出したのだった。
「世界が滅ぼうがなんだろうが、見ず知らずの人間の為に命をかけてたまるか。俺はこの魔力で好き勝手に一人で生きてやる」
マントに付いたフードを目深に被り、転移門を使って初めて訪れた街を見回す。この国では城の周りは森と山だけで何もなかった。城下町ですら城に務めている者が生活し、必要最低限の店があるだけ。そこからこの世界の通貨や文明度合いを推測していたのだが……
「なんだ、これ」
そこにあったのは一見するとファンタジーに出てくるような素朴な街並み。店が建ち並び食欲をそそられる匂いと共に様々な品物が売られ、平和そうに行き交う人々の頭上には十五センチほどの色とりどりの珠が浮かんでいた。
「なんだ、兄ちゃん。蓄魔球が珍しいのか?」
あんぐりと口を開けてみていたのが面白かったのだろう、人の良さそうな男が笑いながら話しかけてくる。
「蓄魔球?」
初めて聞く単語を復唱すると男は自分の群青色のソレを目の前に引き寄せた。
「余剰魔力を貯めておく道具だよ。魔力は一定時間で回復するだろ? だから全快しても供給され続ける余剰魔力をこれに貯めて、日々の生活に使っているってわけさ」
「へ、へぇ。明かりを付けたり、火を付けたりするような?」
城での生活を思い出して知ったフリをするが、男は目尻を下げて朗らかに笑う。
「そりゃどこの田舎の話だ? 普通に転移したり、念話で買い物の注文したり、娯楽に使ったり……そうだなぁ、皇国情報や周辺諸国の情報を手に入れたり」
「なんだい? 何をそんなに当たり前のことを話してるんだい?」
屋台の前で立ち話をしていたせいか、暇だったらしい女店主が話しに混ざってきた。
「この兄ちゃんが蓄魔球の使い方が判らねぇっていうんで教えてた所だよ」
「なら見せてやればいいじゃないか!」
女店主はそういうと自分の黄色い蓄魔球を俺の目の前に浮かべる。その表面にはこの国の言葉が規則正しく並んでいて、女店主はその太い指で文字を移動させた。
「こうやって必要な材料を注文したり、市場価格を確認して値段を決めたりするんだよ。他にも余剰魔力が余るなら国に売ってもいいし、必要な人に分けてもいい。そうやってこの国は成り立ってるのさ」
思った以上の文明の高さに俺はただ唖然としていた。そんなの城で習ってなかった。なんであの城はあんなに豪華なのに油のランプを使っていたんだろう。
「なぁ。この国の城でランプを使ってるって聞いたんだけど、それはなんで?」
城の連中も蓄魔球など持ってはいなかったはずだ。さすがに身分の高い人間に乾電池もどきは付けられないかもしれないが、侍女や下働きの者まで持っていない理由にはならない。
俺の疑問に通りすがりの男は深く肯く。
「皇族方は古いものを大切にするんだ。この国の伝統を守っていらっしゃるんだよ。だから城は前時代的な作りと様式になっているのさ」
「あんたも蓄魔球をレンタルしたらいい。役所に行けば旅行者用のものを無料で貸し出してたはずだよ。転移のポイントも登録されているはずだから、魔力さえあれば観光だって楽ちんさ! 商業ギルドにお金を預ければ、大概の場所では蓄魔球だけで支払えるから現金を持ち歩かなくて済むしね!」
俺は軽いショックを受けながらも親切な二人に礼を言い、役所に行ってみるといってその場を離れながら混乱していた。
なんなんだ、ここは。うっかりすると俺のいた世界より便利じゃないか。それに魔力だって街を歩く人々より飛び抜けて多いって訳でもない。平均よりは多いだろうが、チートと言える程じゃないのだ。なんだって城の連中はあんなに程度の低い奴らばかり集まっていたのだろう。あんな魔力だから誘拐までしてこの世界の問題を押しつけようとしていたのか。
「ねぇ、君。ちょっと質問していいかな」
裏切られた思いで一杯の俺は突然話しかけられて足を止める。フードを上げてみればどこかで見たことのある女が、まるで見えないイスに座るように宙に浮いていた。腰まである黒髪は大きくうねり、目は黒に見える茶色。ノースリーブの黒いタイトなドレスには深いスリットが入っていて、スラリと伸びた足は黒いストッキングに包まれている。足下を包むヒールの高いパンプスはいかにも高そうだ。
「お前……誰だ」
ビリビリと感じる危機感に今自分が張れる最強の結界を巡らせると、女は楽しそうに笑いながら目を細める。
「この世界の人間からは魔王と呼ばれている。そして勇者を召喚した張本人でもあるよ」
答えを聞いて転移で逃げようとするも、あまりの実力差に指一本動かすことが出来ない。詠唱破棄とはいえ予備動作は必要なのだ。まずい、このままだと殺され――
「は? あんたが召喚…した?」
思わずといった形で口にした疑問は、脳裏に閃く女の姿で自己解決する。
「お前、召喚の聖女と似てる…」
「ああ。アレは私の記憶と魔法陣を組み込んだ人形だよ。記憶を組み込むのにどうしてもこの世界のホムンクルスじゃ定着しなくてね。私の遺伝子情報を使って作られているから似てるんじゃないかな?」
そこまで答えてから魔王は邪気のない顔で首を傾げた。
「それでね。君にはいろいろと聞きたいことがあるんだよ。君、世界が滅ぶかもしれないと聞いて、解決方法も判っていて、自分が実行できることも理解しているのにどうしてどうにかしようと思わないわけ?」
心底不思議そうに首を傾げる魔王と相対しながら、俺はなんとか時間を稼いでこの街の憲兵に押しつけようとするも、彼女の話は俺の心を読んだかのように先へと進んでいく。
「滅ぼされるってどういうことなのか想像できないみたいだね。今時の子供は想像力がないのかな? それとも私が世界を滅ぼすことはないと甘く見てるのかな?」
そう言って楽しそうにクスクス笑う姿に戦慄する。この女は俺が手も足も出ないことを知っていて嬲って楽しんでいるのだ。魔王の顔は平凡だ。もし俺の世界にいたらな、その辺で普通に生活しているんじゃないかってくらい日本人に近い。それなのに内側から溢れる何かが、この女を禍々しい者にみせていた。
「それじゃ、見に行こう!」
あまりにも軽い言葉に恐怖を感じる。この街を滅ぼしてこれが滅亡後の世界だとか言い出しそうだが。
「大丈夫。他の大陸だけど『そう』なったところがあるから」
少し黄色がかった華奢な手がパチンと音を立てて合わさり、俺達の周囲の景色が一変する。
今、俺と魔王がいるのは荒涼とした焼け野原のど真ん中だ。見回すと建物の残骸らしきもの、炭となった樹木などが点在していて、遠くでユラユラと小さな何かが動いていた。
「これが滅亡した世界だよ。君程度の力だと、余程運が良くなきゃ生き残れないね。生き残ったとしてこんなところでどうやって一人で生きていくつもりだったの?」
食料もない、着る服も、住むところも、水もない世界。ユラユラと揺れている影は人にも見えるけれど、それは何かを探すように休むことなく彷徨いていた。まるで有名なゾンビ映画のように。
「そうそう。今は私が結界を張っていてあげてるけど、日差しも毒だからね。一時間もここにいたら皮膚がベロリと剥けちゃうんだ」
まるで他人事のように話す魔王は黒茶の目に狂気を漂わせて艶やかな笑みを浮かべる。
「これがいつ起こるか判らない。君がこの世界で生きていくのは構わないけれど、将来できるだろう友人や愛した人、愛し合って産まれた子供、もしかしたらその子供まで、ある日突然無慈悲に死ぬんだよ。『異世界のことなんて俺には関係ない』なんて主張する勇者のせいで」
「そんな! この世界の問題を別の世界の人間に解決させようってのが、そもそもの間違いだろうが!」
噛みついた俺に魔王は表情を変えずに小さく肯いた。
「まったく関係ないってわけじゃないんだけど……その辺りは勇者君と魔王城に来たら話してあげる。それが元の世界に帰すための条件だからね。ただ、そうだな」
異様に乾いた風が俺と魔王の間を吹き抜け、彼女の髪とドレスが大きくはためく。それから綺麗に整えられた指を顎に押し当て、しばらく考えてから言葉を選んで語り始めた。
「君の世界にも生物に有害な物質ってあるだろう? マスクなんかじゃ防げないくらい有毒なやつ。際限なく放射されて拡散し、元を絶たなきゃどうしようもない。それでもその毒が消えるまでとてつもなく長い時間がかかるような」
言葉に誘導されるように思いついたのは放射能だった。まるでその存在を知っているような魔王に何が言いたいのかと睨むと、彼女は「たとえ話だよ」と笑って話を続ける。
「それが何かの拍子で君達の世界に蔓延しそうになってるとする。それを止めるには濃厚な毒の中を進んで蓋を閉めればいいだけなのに、その中に入ってしまえば君達は確実に死んでしまう。蓋を閉めるために一人か二人の犠牲者は出せるけれど、その蓋が腐食してきたら? 封じ込めるための箱も劣化したら誰が直す? そのための人員……人身御供はどのくらい必要だろうね? その犠牲者に君が、君の家族が、友人達が選ばれない保証はないよね?」
見透かすような真っ直ぐな視線が、真摯な声が、思考の停止を許さない。
「けれどその君達にとって毒になるものが、この世界の人間にはまったく影響を与えないと判ったら? この世界の人間を安全に呼びだし、帰す術があったとしたら? 劣化する前に呼び出して補修することができるとしたら君の世界はどちらを選ぶかな? 自分達の犠牲か、異世界人の助力か」
ユラユラと揺れる影が徐々に近付いてくる。それも一つだけじゃなく、二つ、三つと徐々に増えてくる。蛇に睨まれたカエルのように逃げ出すこともできず、俺の脳は魔王の問いに答えを出していた。
そしてそれが聞こえたかように魔王は人好きのしそうなにこやかな笑顔を浮かべたのである。
気が付けば元の街並みの中に戻っていた。人々はまるで何もなかったかのように歩いていく。いや、実際にここではなにもなかったのだ。世界崩壊の種を抱えながら、それでもなんとかしようと足掻いた人々が世界を守っていた。
「これまで勇者が二人召喚されたことはなかったんだ。私といえど万能ではないから、どこかに術式の穴があったんだろう。そして君が召喚され、君と話せたことは何か意味のあることだったのだと思いたい」
そう告げて立ち去りかけた魔王が振り返った。
「あ、そうそう。もう一つ用事があったのを忘れていた。君に与えた勇者の魔力だが、申し訳ないけど返してもらうよ。アレは巻き込まれた君を保護するために勇者から一時的に与えただけだからね。そのままなら君は危なくブロック状の肉塊になるところだったんだ」
朗らかに笑いながらゾッとするような言葉と共に魔王が人差し指をクイッと曲げると、俺の胸から小さな光の玉が飛んでいく。魔力で維持されていた結界が解けるのと同時だったから、魔王にとって結界はなんの意味もないものだったのだろう。
「おい! こんな魔力なしでどうやってこの世界で生きていくんだよ! 間違って召喚されたんなら今すぐ俺を元の世界に帰せ!」
ほとんど空になった魔力に青ざめていると、多少めんどくさくなったらしい魔王がピラピラと手を振った。
「勇者に魔王城まで連れてきてもらいなよ。それまでに一人分の召喚魔力でどうやって二人も召喚されたのか調べておくから。魔力を戻せば勇者一人で君を持ち運べるだろうしね。君達は友人なんだろう?」
それだけ言うと魔王の身体は空中に消えていったのだった。
それから、魔力を失った俺は街の住民に保護された。こんなお人好しばっかりで大丈夫なのかと心配になるくらい、沢山の人に親切にしてもらったのだ。
俺を迎えに来た騎士も勇輔も、無事で良かったと喜んだ後にこってり叱ってきた。外が見たいならいくらでも連れて行ったのにとも言われ、実際街に出てみると騎士連中の魔力の多さに驚いた。
どうやら城には大きな魔法陣が敷いてあり、中にいる人間の魔力を使って国全体に網のような結界が張られているらしいのだ。だから城の人間は王族でさえ城にいるだけで常に魔力全量の20%程度しかないと教えられた。
その上、勇輔に戻った魔力は本来のチートを発揮して城の騎士達と同じレベルにまで増えたのだから、俺の魔力が借り物だったことが証明されたわけだ。神官長などあからさまに勇者の魔力が増えたことに安堵しているところを見ると、俺の魔力量ではかなり不安だったらしい。
見た目ハゲデブオヤジで悪役顔なのに、俺の手を取りまるで息子に語りかけるようにしみじみと「一般人のような魔力量で何があるかわからない結界の中に送り込むことはできないと反対しておりましたが、今の勇者様がいれば神尾様も無事に異世界にお戻りになられるでしょう。本当に、本当に安心いたしました!」と涙目で語られてしまえば反発などできるわけもなく。
テンプレよろしく皇女と仲良くなった勇輔だが、なぜか皇子にも追いかけられていてざまぁみろと笑ったり。その時、騎士団長が「勇者様、こっちの世界に残って皇子をもらってくんねーかなー」と遠くを見ている背中を生温い目で見守ったり。
召喚の聖女様と茶飲み友達になって魔王のちょっと恥ずかしいプライベートな話を聞いたり。俺が召喚されて気分が悪かったのは勇者じゃなかったからで、体調を戻すための魔法で身体の不調な部分――下半身の「わーーーー」なところももう大丈夫ですよと微笑まれて恥ずかしさに悶絶したり。
いろいろあったが皇帝陛下が結界ギリギリまで送ってくれて、俺達は無事魔王城にたどり着くことができたのだが。
「これ……が、魔王城? なのか?」
見上げるソレは俺達のよく知る鉄筋コンクリートのマンションで。驚いたまま自動ドアをくぐり抜けてフロアに入れば、黒いレザーのソファに座った魔王と白い髪と赤い目の執事らしき男の姿があった。
「いらっしゃい、二人とも。早速この世界の真実を話しましょう」
にっこり笑った魔王が告げて、後ろの自動ドアが音もなく閉まったのだった。
後編もこんなノリ。