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完全への迷走(或いはスズランの白さ)
私は表現者として
<完全>の影さえ
踏むことが叶わぬほど
未熟なままであるから
こうして今、
言葉で留めている
未だ夜を懐かしむ雲が群れ
空白を隠した あの苛立ち
自然の美であるはずの
簡易な空の方程式さえ
まるで古代異国地方語
抵抗者たちが掲げる炎に
苛烈に秘められた鼓動や
割れた大地から噴き上がる
地球の息吹の温度のように
私の心は赤く、熱く
顔に横たわった裂傷から
いまだ、滴り堕ちている
それでもどうして
私の紡ぐ世界は
こうも欠落だらけなのか
この窪みに拓いた世界は
この両の穴に響く世界は
そうではなくて
ただ、この美しさを
私が糧としているからだ
頑として抱留めているからだ
そうでなくては この心に
咲いた一輪のスズランへ
光を与えてやれないのだ
だから私は、今を生きる
この言葉から奪った感動を
ゆらと立ち昇る煙と共に
吸って、吐いて、
噛みしめている
私はまだ、表現者として
完全では無いからこそ
あの蕾は純粋なままで
そして私はまだ、十分だ
ただ一輪だけでいい
いっそ、粗末な白さで
ここに儚く咲くならば