愛玩道具
少年
「あいされたい。あいされたいんだ」
少女
「それは、まぁ。どうして?」
少年
「犬をみたんだ。すてられた子犬を」
少女
「捨てられていたの。それは、可哀そう。それで?」
少年
「ぬれたアスファルトの目。目が……」
少女
「目が、どうしたの?」
少年
「目が……いや、目に、ぼくはいたんだ」
少女
「いたの。映っていたのではなくて?」
少年
「うん、いたんだよ。たしかに、あのとき、ぼくは、そこに、いた」
「そしてぼくの目には子犬がいたんだ」
少女
「……いたの、ね」
少年
「いっぱいの人があるいていくなかで、ぼくだけが立ちどまっていた」
「だれも、ぼくが、犬が、そこにいることに気づいていなかった」
「ぼくたちだけがたがいを見てた」
少女
「……だから」
少年
「だからあいされたいんだ」
少女
「それは、どんなふうに?」
少年
「え? どんなふうに、って……」
少女
「それは、いったいだれに?」
少年
「え? だれに、って……」
少女
「それは、いったいどうして?」
少年
「だから、ぼくは子犬を」
少女
「あなたはただ見てもらいたいだけ」
「みんなの繰り人形。それで、いいのよ」
「だってそこにいるって判ってもらえるだけでいいんだもの」
少年
「は? なにを言って……違うよ。違う違う違う違う!」
「ぼくはそんなんののぞんじゃいない!」
「ぼくはただ、ふつうにあいしてくれるのなら、それで……っ」
少女
「だったら、その子犬とやらを殺しなさい」
少年
「え? いったい、なにを、いって」
少女
「だってあなたは醜いもの。恋に恋する女どもよりもずっとね」
「彼女たちは自分をうりこむわ。とうぜん、それ相応の覚悟をもって」
「だからあなたも覚悟をしめしなさい、と言っているの」
少年
「ころしたからってなんの覚悟になるんだよ!」
少女
「あなたは従順な子犬にもなれないのね」
「吼えるだけの野良犬のままなのね」
「そう……なら、私はいくわ」
少年
「どういう、ことだよ」
少女
「わからない? 飽きたもの。愛玩道具はいつか捨てるものよ」
「思ったより、時間は潰せたし、さて」
少年
「ねえ、まって、まってよ……まてよ!」
子犬
「わん!」
少年
「ああ、ぼくは、お前を」
子犬
「わん! わん!」
少女
「ちがう型になったら……今度はかざってあげる」
7月投稿文。