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模写
心を空っぽにして帳を下す
神経は平常のままを保って
顔や名前さえ知らぬ誰かの
ただ忠実な操り人形になる
あの絵に滲んだ想いなど
遥か遠く僕には届かない
ひたすら無感情を貫いて
炭素を白紙に擦り付ける
脱個性を掲げた線たちが
導き出した最適解なんて
ただの劣化版に過ぎない
重みは宿らないのだから
誰かが通り整えた道を
僕はなぞり続けている
外さぬようにゆっくり
模倣こそ幸福と信じて
ある時に鉛筆の芯が折れて
僕にぷつりと突き刺さった
すると風船が如く僕は割れ
初めて己の空虚さを知った
それでも続けるしかなかった
その他の方法を知らなかった
僕が僕と認めてもらえる術を
だから仕方ないと独り呟いた
模写をすれば褒められた
だから僕は今日も無個性
誰かが定めた線路の上を
賢い犬の真似をして歩く
誰も知らない部屋の中で
己も知らない少年は一人
積み上げられた紙は軌跡
世界が創ったカラクリの




