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まえへ、征く
過ぎ去っていくばかりだ
楽しいことも悲しいことも
思い出はけしてふえずに
すこし離れたところから
ぼろぼろ風化をして
黒い衣をたなびかせたのが
時の矢をとめどなくつがえ
僕をつらぬいていて
おびえて後ろをむいてみても
ふとそいつの影が目にはいる
それでも光はさきにある
あんな真っ黒いやつのうしろに
らんらんと、さんさんと
かがやいているから怯えている
僕はいま、うでを伸ばすのだ
振りかえらずまえをむいて
一歩をふみだしたから
どうせあの鎌からは
逃げられやしないのだから
僕はいま、走りぬくのだ
誰もがおそれる速さで
なにもかもを振りきって
息もわすれて光のなかへ
倒れこんでゆけたなら
僕はもう、なんにもいらない
きっとやつも笑うだろうさ
骨の顔で、それでいてにんまりと
大の字に寝ころんだまま
おなじように笑ってみたいから
僕はいま、まえへ、征く