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想いを想って
赤い薔薇:花言葉で「情熱」
月下美人:花言葉で「はかない美」や「繊細」、「快楽」
あなたが薔薇の花束をもって
わたしの眼前でなにごとかを
いって、誘っているときには
わたしは霞みの先に咲き誇る
月下美人に恋い焦がれている
あなたが差し出した花束は
たしかに赤く芳香が栄えて
美しくはある、あるのだが
しょせんただの薔薇なのだ
薔薇以外のなにになるのか
なにになりえるのだろうか
そよ風にゆらゆら揺られて
一滴の朝露に花弁がふるえ
せわしなく虫と交わりあう
そんな月下美人に恋をする
けれど電子と数式に囲まれた
白衣を纏った私には届かない
ハッブル望遠鏡のはるかさき
熱と宇宙線とゆらぎより遠く
誰も知らない煌めく夢幻郷に
咲き乱れる月下美人に、私は
いつからか恋をしているのだ
ふと私の心はピープ音に引き戻され
あなたは薔薇をゴミ箱に投げ入れて
机に立てていた、月下美人を握った
だれかの笑顔が倒れていくのを見て
自分の瞳をはめ込んだカメラを構え
くたびれた花弁の薔薇を捉えるのだ