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物語
あの窮屈に張った 白い母の
乳房を恋しいと思ったとき
初めて赤子はセカイにいた
そして唐突な死が訪れ
少年は生まれる
明け方の光や 飛行機雲
風と木々の唄を知ったとき
少年の言葉は一片残さず崩れ
完全な二度目の終末から
至った成年への転章
鮮烈な理想と 陰鬱な己に
ただ不満と屈折の叫びを上げ
青も緑も白が 無意味になった
不可逆かつ絶対の折り返し点
中年への望まぬ昇格
黒蟻と歯車 酒精と紫煙
投げられた白い錠剤の上
遠く吸い込まれた笑い声に
懐古と空虚の泪が流れたとき
緩慢な時の流れに髪は草臥れ
老年と諦念の境地に立つ
全てに少年の様には感動はせず
けれど瑞々しさを忘れない言葉で
老人はスフィンクスと戯れている
自然を仰ぎ 摂理を解き 情景を描き
そして明け征く地平と赤らむ雲の下で
私は、朽ちて逝くのだ 終わり無き
積み重ねた物語を綴りながら