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憂鬱
憂鬱だ。全てが、憂鬱だ。
緯度と経度が隔てる国境、波長により区別される肌の色、樹から削れらた紙幣、化学合成された雲、聞き得ぬ氷河の悲鳴、紫煙けぶる陽炎、形而上のパタンが導くグラフ、それら全てに惑い弱り過ごす人間―――或いは、それら全て―――が。
例えば私が今この肌を黒く塗りたくって硝煙燻る銃を片手に聖歌を口遊んだとして、友人の誰が私を私と認めるのか。赤子の皮を剥ぎ鞣し端を整え貨幣にする事は出来ない。過ぎ逝く者どもの硝子質な輝きは私の国籍を見抜く事が出来なければ、私が私のDNAをどう辿れようか。
だというのに全てを区別し群れ集い敵対する事の、この言い得ぬ愚かさ!全ては確率に分岐された帰結であるというのに、結び付けようとする、この無意味さ!また、それらに支配された人類の虚栄による全能という名の無知!
なにもかもに意味が無いというのに―――ああ、この虚しさまでもが虚しい。
いっそ、全てが停滞するべきだ。あるいは眠るか。
そうすれば、この憂鬱さも、また―――