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天敵
夜が崩れ、鐘の余韻と共に地平より罅が産声を上げた。等高線の中に身を埋めた兵士達の瞳がまた一つ一つと岩間の光を写す。ただ無機質に。地図が導いた夥しい血流の上、更に上を辿る軍馬の足は欠けているがまだも鞭は振り上げられている。風に潜む嘶きと鎧の輝きはその彼方に映る墓標をいまだ知らぬ。太陽は人々の本能と器官に刻まれた軌跡の通りに槍の穂先を地へ垂らし、角笛を模した楽器が増幅させる振動が鼓膜へそして矢と共に弦を引き絞らせる。雲はやがて草と交わり雨粒が一つの地層を刻む。
そして、そして、全てが憂鬱の中に沈むだろう(月が紺を引き連れて)
等しき停滞の中にて、微睡みは至る(星座が堕ちる)
兵士は、諦念の朝焼けを迎える事は無い(白はまだ巡る)