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 そろそろ夕日も沈み、すっかり暗くなった。

 月と街頭が道を照らしている。

 火楼と鈴が道を歩く。

 暗くても、桜の花びらが多少落ちているのが見える。

 人も車もあまり通らない。

 このあたりはまだ、家も店もぽつぽつある程度だ。

「結構遠いな」

「そうだナァ」

 二人は歩き続ける。

 鈴は他に人もいないし、思っていたことを聞いた。

「先生は、ナァんで教師にナァったんだい? しかも、魔物しかいナァい教室の担任だ。正直、大変じゃナァいのかナァ? ほら、前も凍らされてたし、それに夏雪っちに聞いたけど、本で骨を折られたんだっけ。普通の人間だったら、逃げ出してもおかしくナァい」

「鈴は、なんていうか、大人びてるよな」

 それにたいし火楼は関係ない感想をもらす。

「僕は魔物としては生まれたばかりだけど、猫としてはそれナァりに生きてるからね。それに、一緒に暮らしているのがお婆ちゃんだからかもしれナァい」

「なるほどな、甘えてるだけじゃないってことか。俺は、まあ、昔色々あってさ。こんな体質のせいでさ、と言っても、今ではお世話になってるわけだが、昔、嫌なことがあったんだよ。普通とは違うってだけで、それがプラス方向ならいいが、マイナス方向に評価されると、子供は容赦がない」

「たしかにナァ」

 鈴も相づちをうつ。人間の子供の何かを、見たことがあるのかもしれない。

「それに、小学時代の最期に教師が言ってくれたんだよ。正義のヒーローでは無かったし、良い人かどうかもわからなかったけど、良い事は言ってくれた。だから教師を続けているのかもしれない、って、なんで俺は生徒にこんなに語ってるんだろう」

 最期に素にかえった火楼。

「ナァははは」

 しばらくするとスーパーが見えてきた。


「さて、あー誰が料理するか決めてなかったな、ま、俺でいいか。双子はああだしな。大したものはできないけど、今日はカレーか、チャーハンか、焼きそばか」

「魚肉カレーか魚肉チャーハンか魚肉焼きそばかナァ?」

 そこそこ大型のスーパー。

 専用の音楽も流れている。

 中をうろつきながら、火楼は献立に迷う。

「そんな選択肢は出してない。お前さっきとキャラ変わってないか?」

「僕はいたっていつもどおりだよ」

 言いながら、魚コーナーの前で目を輝かせている。

「よだれたれてるぞ」

「おいおい、レディにナァんてこというんだ」

 そう言いながら、体で隠しながら、魚をカゴに忍ばす。

「さりげなく魚をカゴに入れるな」

「いいのかナァ? 買ってくれたら、お婆ちゃん直伝の、買い物術を教えてあげてもいいのにナァ」

 悪い商人のような表情で、取引を持ちかける鈴。

「ほほう、それは興味深い。ま、サンマの一匹くらいは買ってもいいけどな」

 現在、サンマは一匹大体百円もしない。

「いいかナァ。しっかり聞くんだ。ずばり、ちゃんと日持ちのするものを考えてまとめ買いすることだよ」

 もったいぶって、ドヤ顔で言い切った。後には何も続かない。

「ってそんだけかい。そんなこと、俺でも知ってるぞ。一人暮らしだがコンビニ弁当ばかり食ってるわけじゃない」

「ナァはは、取引は成立済みナァ」

 なんだかんだで、結局カレーに決まったようだ。

 肉、野菜、米まで揃えた。

 それから数日分の食料。

「甘口よろしくナァ」

「わかったわかった」

 リクエストに答え、甘口の箱をかごに入れる。そうして、二人は洋館に戻った。


「かえったぞー。何もなかったか?」

 二人が戻ると、部屋の中はどこか、少し荒れていた。

「お、おう。おかえり」

 厳道は何やら疲れた表情で、ソファーに座っていた。

 破子がソファーの上で、膝を抱えて顔を伏せている。

 それを結子は撫でていた。

「あー、何があったんだ?」

 火楼が改めて聞く。

「破子ちゃんしか見てないみたいだけど、今日初めて、アレがでたみたいなのよ」

 結子がまず答える。

「アレ?」

「黒くて速くて多くなっていってわさわさしてて病原菌いっぱいもってて殺虫剤に対して異常な速度で進化していって」

 顔を上げた破子が早口で言った。

「く、詳しいな。最近暖かくなってきたから、しょうがないか。ゴ」

 破子が手で顔を隠しながら、目だけ出して睨んだ。

「それで、厳道君にたおしてもらおうと思ったんだけど、蠢君が止めるの。アレについてしゃべるから詳しくなっちゃったし」

 破子がふらふらと言いながら、また顔を伏せた。

「そうなのか?」

 他の三人と同じくソファーに座り、何やら携帯をいじっていた蠢に目を向ける。

「ン? ああ、虫は別に嫌いじゃねえしな。それに、バグの語源でもあるし。生き物の命は尊ばないとな。好きってほどじゃねーが」

 忘れがちだが、これでもバグから生まれた存在である。そうはいっても、データ上のバグのことだが。

 命を尊ぶとか正しい事を言ってるのに、やってることは悪人に見えた。

「探しだして潰してだとか、殺すなだとか、騒がしかった」

 ふう、と厳道は気疲れしたように言う。

 二人の板挟みになっていたようだ。

「しかし、常に一緒にいるのに、破子だけ見ちゃったなんて、これも不運のうちか」

「こんど、煙のやつやるの」

「この家でか!?」


 とりあえず皆無事だったようなので、さっそく火楼はカレー作りにとりかかった。

 米をたき、野菜の皮をむき小さく切り、肉を焼き、全部煮込む。

 普通の火楼らしく、ルーのパッケージの裏に書いてあるような、普通のカレーだ。

 その間に、キャベツを千切り、トマトやきゅうりを切り、コーンの缶を開ける。

 初めて使うキッチンだったが、なんとかなった。

 家の大きさに比例して、火楼の家のそれより大きい。

 鈴の要望で作業に一行程増えていた。

「おーい、できたぞー」

 他の五人は最初、トランプをしていた。

 でも運の関係で結果があまり変わらなかった。

 最終的には、洋館内の探索だったり、読書になっていた。

 リビングの机にカレーが並ぶ。それに、ふた皿に盛ったサラダ。

 そして、皆が席につく。

「オー、カレーか」

 蠢は嬉しそうである。

「お手伝いしなくてよかったでしょうか」

「ああ、これくらい簡単だよ。それに今二人は片手が使えなくて、危ないしな」

 結子の気遣いに火楼はそう答えた。

 厳道はカレーを前に複雑な顔をしている。火楼はそれに気づく。

「大丈夫だよ。よく見てみろ、厳道のには野菜は入ってない」

「すまない、知ってたのか」

「まあ、それくらいはな」

 蠢がそれを聞いて、笑いを堪えるように震えている。

 しかし、そんな間違い探しのようなささいな部分より、食卓にはおかしいところがあった。

 誰も言わないので、突っ込む破子。

「なんで、鈴のカレーには焼きサンマがのってるの」

「スーパーで頼まれてな、はは」

「取引の結果ナァんだよ」

 鈴は満足気だ。

 皆ぱくぱく食べ始めた。

「ヤっぱカレーは甘口だよな」

「そうなのか?

 と、蠢と厳道。

「ええ、どれがいいかと言われたら、甘口ですわ」

「辛いのは駄目なの」

 双子も答えた。

「辛いのはナァ、舌が焼けるよナァ」

 鈴も話に乗っかった。

「そうなのか……」

 厳道はやや気を落とす。

「甘口カレー食べたのなんて、何年ぶりだろう」

 火楼は子供時代を思い出していた。

「そういえば」

 火楼は双子の方を向く。

 食事の席の雑談の一つとして、聞いてみた。

「お前たちは、何かできるのか? 厳道のあれみたいなのとか」

 いわゆる能力について。

 意味を汲み取り、結子が答えた。

「ええ、今回の件については役にたたないんですが、一応あります。破子ちゃんが人の運を剥がして、私が別の誰かにそれを貼り付けるという」

「剥がされた人は不幸になり、貼り付けられた人は運が良くなるってことか……。それなら、破子に運を張り付ければいいんじゃないか?」

「それが、この技は私達には使えないんです。私達は、あくまで運を運べるだけでして」

「なるほどなあ」

「『流れる命運』って書いて、ライフロウラックっていうの」

 どこか得意げな顔の破子に、火楼は気づいた。

「……もしかして、それはお前が考えたのか?」

 こくりと肯定する破子。

「おかしかったの?」

 破子は首を傾げる

「あー、まあいいんじゃないか? ローラックが不運っぽくて」

「それじゃあ赤ちゃんが座る椅子なの」

「そうなのか」

「でも、まだ使ったことはないの。生まれた時からそれができることは、理解できてたんだけど」

 

「じゃあ、皆おやすみ。何かあったらすぐ呼べよ」

 そろそろ夜も遅く、寝る時間。

 それぞれ決めておいた部屋に入る。

 一応、すぐに駆けつけれるように、火楼の部屋は双子の部屋の隣だ。

 部屋の広さは八畳ほど、簡単なベッドがおいてある。

 クローゼット、大きめの窓にカーテン、ベッドのそばに台とランプ。

「どの部屋もベッドがあるのか……?」

 ベッドに座りつぶやく。

 寝転ぶと、窓から月がみえた。

 月明かりで、夜空に雲がそれなりに見える。

 破子の不運のこととか、明日の授業のこととか、御神本のこととか。

 そのままカーテンもしめず眠りについた。

 

 火楼は朝が苦手だ。

 陽の光は雲に隠れている。

 頭がまわらない。

 それでも体はトイレに行きたくなり、寝ぼけ眼でぼーっとしながらふらふらと部屋を出た。

 火楼の家ではトイレはすぐ隣だったのだ。

 扉を開ける。

「きゃああ」

 破子の叫びで若干目が覚めた。

 まだややゆるい頭で現状を確認すると、昨日から双子の家に泊まっていて、それは双子の部屋の隣で、目の前の破子は着替え中で、長い間放置されていた部屋と違って、この部屋は不思議な甘い匂いがして。

 結子はまだパジャマだった。左手に、いつも双子が着ている、ゴシックロリータのドレスを持っている。

 破子は結子と手をつなぎながら、ヘッドドレス、キャミソールに短いドロワーズ姿で立っていた。

 やや振り返りぎみだったので、背中の肩甲骨がみえた。

 少女らしいすらりとした体型に、すこしだけ膨らみがある。

 キャミソールは手錠でつながれながらでも着れるように、横側にパチっとはめれるスナップボタンがついていた。もちろんドレスにもだ。外すとひらける。

「あのー先生、でていってくれませんか」

 結子が笑顔で言った。ただただ怖い。

 それが、本日最初の破子の不運だった。

 

 朝、火楼が朝ごはんを作り、それぞれ準備して、六人は家をでる。

 今日は曇っていて、やや暗い。

 生徒達はみな指定のカバンを持っている。

 今度はちゃんと教科書を間違えないようにチェックした。

「なあ、破子。許してくれ、わざとじゃないんだ」

 火楼は朝から謝りっぱなしである。

 破子はじーっと火楼を見るのみ。

 特に何も起きず、学校についた。

 

 午前の休み時間。

 鎖が死んでから丸一日たった。

 ちょうどその瞬間、遠くの音とともに、野球ボールが二つ、破子のそばに飛んできた。

 たまたまその時、空気の入れ替えをしようとしたのか、生徒の一人が窓を開けたようだ。

 何がどうなって二つ飛んでくる事態になったのか。

 昨日と同じような、それでいて昨日の倍である現象に、六人は唖然とした。

「今から二日目か。昨日より恐ろしい事が起こるんだろうか」

 火楼が状況を確認する。

「ええ。恐らくそうなると思います。皆さんよろしくお願いします」 

 結子が神妙そうな顔で言った。

 次の不幸はまたも給食中におきた。

 事前に調べて、何も入ってないことは確かめたが、食べた後食中毒になったのである。

 魔物教室の中では、破子だけだ。

 泣きそうになりながら、お腹を抑えている。

 近くのトイレにいくと、いつのまにか、すべて故障中の札がかかっていた。

 しかたなく遠めのトイレにいく事になった。

 それでもなんとか、本日の学校は無事終わった。

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