表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

 火楼は小学生の頃、ほとんど友達がいなかった。

 きっかけは、大怪我である。

 十歳の時、大型トラックに轢かれた。

 小さい町だったので、ニュースはすぐに伝わった。

 火楼という子が、交通事故にあったと。

 現場を見ていたものもいて、その凄惨さも噂になっていた。

 腕が飛んだだの、骨が折れただの、血が沢山でただの。

 それだけなら生きてさえいれば、いずれ治って学校に復帰して友達もできただろう。

 しかし恐るべきことに、火楼は二日で学校に復帰した。

 軽くバンソウコウをつけているくらいで、骨が折れている様子もない。

 最初は皆、火楼の帰りを喜んだ。

 大した事にはなっていなかったのだと。

 しかし確かに、事故はあったのだ、

 血だらけの現場、轢いた運転手、目撃した者たち。

 それらは消えること無く、学校にも噂として広がっていった。

 火楼君は異常だと。

 火楼が誰と仲良くなろうとしても、皆遠ざかってしまう。

 時間がたつにつれ、良くなることはなく、寧ろ噂はひどくなった。

 なぜか他の子よりも事故が多い。そういう星の下に生まれてしまったのかもしれない。

 それでも、すぐに治って登校を続ける。

 目撃者も増えていった。

「やーい、ばけもの。昨日の傷は治ったのかよ」

 容赦無い子供が、ばけものと呼ぶ。

 昨日石を投げてきた子だ。

 それでも、次の日には完治してる。

 どうして僕はこんなに傷が治るの早いんだろう。他の子と同じように育ったのに、どうして他の子と違うんだろう。どうしてみんな逃げたり、嫌がらせをするんだろう。

 父親も母親も働いていて、あまり話をしていない。

 火楼の異常な回復力には原因があった。

 先祖に一人、魔物がいたのである。

 段々と血は薄れ、人間らしくなっていったのに。

 大怪我をきっかけに、その力は先祖返りのように、発現した。

 不死鳥の血だった。

 その事を一家は知らない。

 両親共に、うちの子は逞しいんだとか、医学の進歩だとか、運がいいだとか、事故の現場を直接見ていないので、そんなことを思っていた。

 しかしさすがに、卒業間際になると、噂になっているのを知ったようで、中学を機に別の街に引っ越すことにした。

 その時、ずっとやるせない気持ちで火楼を見ていた当時の教師は、卒業式の日に火楼に言った。

「すまない、最期の最期まで、何もしてやれなくて。でも、聞いて欲しい。君のその強さには、必ず意味があるから。できれば人を守れる大人になってほしい」

 それを聞いて火楼は何かを納得した。

 それからはなるべく事故に注意したり、普通を逸脱しないように、生活した。

 幼い頃のトラウマを抱えながら、教師の道を選んだのだった。


 平凡な日々の一コマ。

 鈴にねだられて、厳道は能力を使っていた。

「ナァ、次はこれやってみて」

 午前中の学校、二時間目と三時間目の間、二十分ほどある休憩時間。

 そこで、三人は物殺しの能力の実験をしていた。

 ノート、書けなくなった。ケシゴム、消せなくなった。定規、メモリが消えた。

 コンパス、なぜか四角を描くようになった。そろばん、玉が全部繋がった。

 灰色の絵の具、どこにも着色しなくなった。お菓子、ゴムのように、口に入れたらいかにも有害そうになった。

「あぁ、僕のお菓子が」

 なんでこいつはお菓子を持ってきてるんだと、厳道は思った。

 次のものに移ろうとした時、双子が通りかかった。

 鎖の音が鳴る。

 特にきにせず厳道は筆箱に手をかざす。

 力を込めた瞬間、そこに鎖があり、殺してしまった。

 どうやら破子が転んだらしい、その拍子に鎖が厳道の手元にいったようだ。

 見る見る灰色になっていき、鎖がなかほどで千切れた。

 ビシリ、と聞こえた気がした。

 破子がよろけたまま、表情も固まっている。

 結子も笑顔のまま微動だにしない。

「あー、おい、大丈夫か?」

 厳道が尋ねる。

 反応がないので、肩を揺すると、動いた。

「きゃああああああああああああああああああああ」

「うおっ」

 この校舎中に響くかと思うほどでかい悲鳴がした。

 普段は、破子はそんな大声絶対に出さないだろう。

「鎖、鎖があああ、どーしようどーすんのどーなるのこれ、結子ちゃんとの繋がりがちぎれちゃった。灰色になって、柔らかくなっちゃった。なんでなの、どんな悪いことしたらこんな目にあうの」

 鎖をくっつけようと、断面を合わせる。

 しかし手を離すとぽとりと二つにわかれて落ちてしまう。

 そんな事を数回繰り返していた。

「な、なんだ今の悲鳴は!?」

 火楼も教室に入ってきて、こちらに近づいた。

 現場を見回す。

 破子が落ち込み、結子が固まり、厳道が難しい顔をして、鈴は現実から目をそらすように、灰色の文房具で遊んでいた。

「悪い。俺のせいだ」

 厳道が双子に向けて謝った。

「結子ちゃん。助けてえ」

 ぶつぶつと呟きながら鎖をいじっていた破子が、結子に抱きついた。

 固まっていた結子はやっと目を覚ます。

「あらあら」

 まだそう言うのがやっとだ。

 おとなしい破子が騒ぎ、結子は動かなくなるなんて、普段と逆だなと、厳道は思った。

 

 ようやく元に戻った結子が説明に入った。

 破子はまだ結子にだきついている。

 結子が席につき、その上に破子が座り、机を他の皆が囲う形となった。

「ナんかおもしろーなことしてんな」

 いつのまにか蠢もきていた。

「まず、この鎖の役割から。この鎖は私達を物理的につないでいるだけでなく、二人の運を調和してくれるんです。だから普段は何もおきないんですが」

「ホほう」

「つまり、どゆこと?」

 納得している蠢と、よくわかっていない夏雪」

「この鎖が切れた今、破子ちゃんは不運になり、私は運気が上がるんです」

「ヘえ、なら結子にはいいことなんじゃねーか」

 と、全く何の遠慮もなく蠢は言った。

 キッっと結子が睨む。

「確かに運は良くなりますが、大事な破子ちゃんを不幸にしてまで、得るものなんてありません」

 そう迷いなく蠢の言い分を切り捨てた。

 そのとき、カキーンと遠くから聞こえた。

 たまたま、窓が開いている。

 数瞬して、野球の弾がとんできた。

 それは双子の方に飛び、破子の顔ぎりぎりのところを通って、バウンドしたあと、床に転がる。

「うう」

 破子は泣きそうになる。

 全員が今のをみて、少し黙った。

 厳道が咳払いをする。

「で、だ。その鎖、直せないのか? もしくは新しい物を用意するとか」

「ええ、それが、よくわからなくて。普通の鎖とちがって、今まで何が起きても千切れなかったし、千切れるはずがないと思っていたので。でも、私たちはそういうふうに生まれた魔物ですから、時間がたてば戻ると思います」

「それは良かった。どれくらいなんだ?」

 火楼が聞いた。

 結子は手錠があった部分を、手でさすりながら答える。

「この魔力の感じだと、おそらく三日くらいかと。破子ちゃんも感じる?」

 破子はこくりと頷く。

「ただ問題があって、離れてる時間に応じて、だんだん運の調和が乱れていくと思います」

「つまり破子っちはどんどん?」

「どんどん運が悪くなっていって、どんな怪我をするかわかりません」

 鈴の質問に答える。

「だから、皆さんには破子ちゃんを守って欲しいんです。私だけじゃとても」

「もちろんだ」

 火楼は即答した。

 あまりに早すぎて、安請け合いにも聞こえたが、火楼は至って本気だ。

「俺も、責任があるしな」

 厳道も賛同する。

 他の皆も乗り気だ。

 そこでチャイムがなり、休み時間がおわった。

 普通に授業が進む。

 窓は閉め、授業中は物音や飛来物に注意した。

 休み時間はさながらSPのように破子を守る。

 鎖が切れてからは、常に手を繋いでいるので、前よりも生活しづらそうだった。

 片手で書いたり、ケシゴムを使っている。

 給食の時間。

 既に双子は給食当番じゃなかったのが、不幸中の幸いだった。

 そして夕方。

 朝のメンバーが朝と同じように机に集まり、相談をはじめた。

「今日の破子の不運をまとめてみるか」

 と、火楼。

「えーと、朝ボールが当たりはしなかったが、顔すれすれのところに飛んできて、三時間目以降全ての教科書を間違えて持ってきていて、給食には髪の毛が数本入っていて、別の人がこぼした牛乳を雑巾で拭いた後、持っていた奴がこけて雑巾が顔に当たりそうだったのと、トイレの紙も切れてたと」

 そんな事が起きている間、結子にはそこそこの幸運が起きていたが、今それは問題ではなかった。

「雑巾はぎりぎりで止めれて良かった」

 厳道が思い出すようにいう。

「トイレは私がいつも一緒だから、大丈夫だったわ」

 いつも一緒なんだ、と皆が呆れて双子をみる。

 元々鎖でつながれてるので、今更ではあるが。

「髪の毛が地味に一番嫌だったの」

「ああ、スプーンに何本も髪の毛が絡みついているのは、壮絶だナァ……」

 げんなりしている破子に鈴が同意する。

「まあ、さほど大した事にならなくて、良かったよ。もう下校時間だけど、どうする?」

「できれば、三日ほど、うちに泊まってくださいませんか? 何が起きるかわからないので。もちろん、全員泊まれるスペースはあります」

「双子たちの家かー。どんナァんだろう、楽しみだナァ」

 鈴は既に家の事を考えている。

「それはいいけど、いいのか? 男が」

 そういって火楼は数える。

「三人も行って」

「ええ、もちろんですわ」

「ジゃあ、ちょっと連絡いれねーとな。うちのうるさいんだ」

 そう言って瞬は携帯電話を取り出す。

「へー、蠢、携帯なんて持ってるのか。そういえば、どんな家に住んでるんだ? 寮ではないみたいだが」

「タだの人間の女の家だよ」

 既に携帯電話を耳につけて応答をまっている。

「アぁ、オレだ。三日間帰らないから。じゃあな」

『えええ、どういうことそれ? さーびーしー』

 二十代と思われるそんな声が電話から聞こえたが、蠢は途中できった。

「ナんかよくパソコンいじってて、しょっちゅうバグらせるんだ。そのせいかオレが生まれた。これも、学校がきまったとたん持たされたんだ」

 そう言って携帯を見せる。

「はは、元気そうないいお姉さんじゃないか。いや、お母さんかな?」

「ケっ」

「たしかに、家の人に連絡は大事だな。鈴と厳道も携帯貸してもらって、電話入れなさい。厳道は、寮だったか。まあ、男子寮の寮長なら、特に止められる事もないと思う」

「わかったナァ」

「ああ、貸してくれるとありがたい」

「ホらよ」

 と言って携帯をとりあえず鈴に渡す。

 連絡を終えて、四人と双子は、家に向かった。


「うちよりおっきいナァ」

 洋館の中では小さい方だったが、それでも二階建て日本家屋よりは大きいらしい。

 玄関を通ると、四人は通れそうな階段が見えた。

 二階建てで、一階と二階に四つずつ人が泊まれる部屋がある。

 さらに書斎や、キッチンや、リビングだ。

「いやー大きいな、何十人も生徒の家庭訪問したことはあるけど、こんな家に入るの初めてた」

 火楼も首を動かして、家の中を見る。

「お前たち以外に人はいないのか?」

 六人が入るまで電気も消えていて、人の気配がなかったので、火楼は双子に尋ねた。

「わからないの」

「ええ、気づいたら二人でここにいたんですけど、まだこの家で誰も見たこと無くて。人が住んでいた形跡はあったんですが」

 破子と結子が、開いている方の手を頬にあてながら答えた。

「なんだそりゃ。いったいどこにいっちまったんだ」

「ハん、お前たちが生まれたのにも、理由があるはずだ。待ってりゃそのうち戻ってくるんじゃねーの。それより、どっか座ろうぜ」

「ええ、そうですね。こっちがリビングです」

 そう言って結子は案内した。

 四人はリビングのソファーに座った。

 火楼と蠢はキッチン側、鈴と厳道は窓側で、大きめのテーブルを挟む。

 双子はお茶を用意している。

 待ってる間に蠢が口を開いた。

「ナんか洋館でこうしていると、殺人事件でも起きそうだな。絶海の孤島だったり、嵐の中の山奥だったり、よくあるだろ」

「よくあるのは物語の中だけだ。そういうのばかり読んでるのか? 外は普通に街だし、晴れていて夕日がまぶしいよ、窓からみえるだろう」

「マったく先生はお堅いぜ」

 蠢は両手を上げて肩をすくめる。

「ジゃあ、こういうのはどうだ? 薄暗い洋館、怪しい白い影、いつのまにか濡れて髪の毛のこびりついた枕、聞こえるひたひたとした足音。っ痛え」

 ごす、と音がなりそうなチョップが蠢の頭に降ってきた。

 ドクロの髪留めが揺れる。

「ナにしやがる」

 双子がいつのまにか後ろに立っていた。叩いた方は結子だ。

 笑顔だが少し青くなっている。

「今のは蠢が悪い。人の家を怪談のネタにするな」

 厳道が言う。

「デもよ、オレたちみたいな魔物がいるなら、幽霊だっていてもおか……」

 言いかけて、結子の威圧感が大きくなるのを感じた。

 しかも震えながら、また手をあげはじめている。

「オかしいです。いるわけないです。すいません」

 普段態度の大きい蠢も、さすがに平謝りだ。

「結子ちゃんは本当に怖いものが嫌いなの」

 破子は涼しい顔でいった。

 それから双子はキッチンに戻り、お盆にのせたティーセットを、それぞれ開いている方の手で持ち、リビングにきて机の上においた。

 お互いの片手が少しでも高さを違えば、ティーセットは落ちてしまう。

 凄まじい共同作業である。

 彼女たちなら、二人羽織など余裕だろう。

 揃って席についたので、今後のことについて話し合った。

「運のほうは何が起こるかわからないから、なんとも言えないが、三日間ここに泊まるとして、さすがに急に四人もふえたら、食事が大変だよな」

 火楼がいう。

「一応、二人が生活できる分は元からあったんですが」

「そうだよな。よし、買い出しに行こう。えーと、誰かついてきてくれ」

「はぁーい。僕はいつも、お婆ちゃんの料理を手伝ってるんだ。食べ物のことナァら、まかせるがいいナァ」

 鈴が立ち上がった。

「荷物持ちなら、俺も行こうか?」

 厳道がそう言うが、

「オい、それじゃあオレと双子だけになるだろが。何かあったらどうすんだ」

 体の小さい蠢が抗議した。

「わかった。先生が留守の間、破子と結子と蠢は、俺が守ろう」

「ソこにオレを含めるな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ