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 ここは今はまだ使われていない、何も置いていない某教室。

 そこで、夏雪と鈴は対峙していた。

「寒いにゃあ。色々な場所に、ここへ誘導する紙が貼ってあって面白そうだから、来てみたけどにゃあ。一対一かにゃ?」

「ああ、そうだ。いいかげん探すのがめんどうだから、来てもらったぜ。私はここでずっと待機していたから、貼ったのは厳道だけどな。能力もスピードも役にたてないから、せめてこれくらいはだとか、しおらしいこと言いやがって。もしかしたら、今も貼り続けてるのかもな」

「そんな厳道っちを放っといて、夏雪っちは何を企んでたんだにゃ」

「別に何も企んじゃいねーよ。酔っぱらいの鈴一人くらいなら、私だけで余裕さ。いやー今まで対峙できなかったのが残念だぜ。会うのが早ければ早いほど、このイベントはすぐにかたがついたってのにさ」

「いつもにゃがら凄い自信だにゃあ。じゃあ僕にさわれたら、おとにゃしくするよ。おいかけっこ? おにごっこ? しばらくこの教室からでにゃいであげるにゃ」

 そういって会話を打ち切るように、鈴は夏雪へ近づいた。

 夏雪も反応し、氷をとばす。

 が、当然のように当たらない。

「にゃはは、絶対当たらにゃいにゃー。さっきの自信はどうしたのかにゃー」

 鈴はうろうろ夏雪の周りをうろつく。

 夏雪は何も言わず、氷を飛ばし続ける。

「それじゃあいつまでたってもきりにゃいにゃ」

 駆けまわる鈴。

「鬼ごっこってにゃ、別に鬼を倒してもいいとは思わないかにゃ?」

「はん、鬼はあいつだろう。しかしまあ、倒せるものなら倒してみろ。今だけは私が鬼を名乗ってやる」

「たっちされないように気をつけないとにゃあ」

 そんなことを続けていると、鈴の動きが鈍くなってきた。

「あれ、足が」

 鈴の吐く息は白い。

 服はだんだん凍り始めている。体温は低下し、体力を奪う。

 夏雪は氷を飛ばすのをやめた。

「いやあ、来るのが遅いからさ、待ってる間、ちょっと好みの部屋にしただけだぜ」

 鈴が部屋に入った時には既に、室温は零度ほどだったが、戦闘中もどんどん下がっていた。

 今やマイナス何十度だかわからない。

 ついに鈴は動かなくなってしまった。

 コタツでもないのに丸くなるように。

「よーし。捕まえたぜ。罰ゲームは何にしてやろうかな」

 勝利を確信し、そんなことをいっていると、厳道が部屋に入ってきた。

「おーい。鈴来たか? って寒っ。何だこの部屋。しかもそれ鈴じゃないか」

「ああ、今終わったところだ」

 厳道が鈴の様子を見る。

「おい、やばいぞ。早く温かいところへ移動させないと」

「え、え?」

 すぐに近くにあった保健室へ連れ込み、春だけど暖房をつけ、布団をかけた。

 保険の先生は用事があるのか今はいない。

「なぁ、そんなやべーのか?」

「ああ、あんな汗もすぐに凍るようなとこにいたら、いくら人間じゃなくてもな」

「そうなのか。私は全然平気なんだけどな。他の奴はそういうもんなのか」

 納得するように言う夏雪。

 部屋が暑くなり、夏雪が汗をかいたところで、鈴は目覚めた。

 心配そうに見つめる、夏雪と厳道。

 しかし目覚めた瞬間、掛け布団を跳ね飛ばし、鈴は逃げ出した。

「にゃははは」

 笑い声がして、布団がふわりと、二人の頭に落ちた。

 まだ酔っているようだ。

 残ったのは空になったベッドと、唖然とする二人だけ。

 厳道は頭に手をやり、何かを諦めたように振る。

 夏雪はたまらず布団をどかし、叫んだ。

「こーらー!。スーズー!」


 結果として、読奈美は無事だった。

 相手がぶつかる直前に止まったのだ。

「えへへ。私はここでは悪いことしてませんからね」

 焦りを隠すように、へへへと笑う蠢。

 小刻みに動き、蠢に向かおうとするワクチン。

 しかし、読奈美が邪魔で通れないらしい。

 諦めるのを待とうかと思った読奈美だが、蠢が声をかけた。

「オイ、どけ読奈ミ」

「どきませんよう」

「イイカらどけって。お前が邪魔で撃てねーんだヨ」

 そう言う蠢のほうに、何とかして目をやると、彼は小さい体で、二脚を使い、対戦車ライフルを構えていた。

 全長約二百二十センチ、重さ約五十キロ、六十五口径、最大で二十ミリの鉄板を貫通するという。

 名前はラハティL-39。

「ひいいい」

 そんな物騒なでかい銃をみて、一気に怯える読奈美。

 それでもどかずに、言った。

「い、一発で止められないと、蠢さんが、あ、危ないですよ」

「ハン、この期に及んでオレの心配かよ。おめーはどいたらすぐ耳を抑えてりゃいいんだヨ」

「わ、わかりましたよう。いいですか? いきますよ? さん、に、いち」

 合図とともに、素早くどき、身を屈めて耳を抑える読奈美。

 蠢に突っ込んでくるワクチン。

 迷わず蠢はトリガーを引き、ぶっぱなした。

 射出された長さ十三センチの弾が、装甲を貫き、内部をずたずたに陵辱した。

 かくして、ワクチンは動きを止めたのだった。

 いつの間にかしていた耳栓を捨て、動かなくなった獲物を足で踏みつける蠢。

 そうしてから、またハンマーを持ち、破壊活動を再開しようとした。

「ちょ、ちょっと蠢さん。同じのがまた来るかもしれませんよう。早く帰りましょ」

「マタキたらまた倒すだけさ。お前は帰ってもいいんだぜ。あんまりしつこいと、お前も壊すゾ」

 頑なな蠢に、読奈美は言う。

「わかりました。そこまで言うのなら、奥の手だしちゃいます」

 そういって液晶パッドをいじる。

「オマエにどんな奥の手があるっていうんだ。それだって電子書籍が読めるだけジャ」

 画面を見せられて、蠢は固まった。

 手に持っていたハンマーを落とす。

「私のこれは、別にそれだけじゃないんですよ。無線のネット接続で、通信だって出来ちゃいます」

 読奈美が蠢に見せた画面には、蠢が一緒に暮らしている、二十代の女性が映っていたのだった。

 髪は長く、茶色。ピンクのカーディガンを羽織っている

「きゃー蠢君。顔あかーい。かわいいー」

 そんな声が、画面から流れた。

 向こうの家にはカメラもあるようで、画面の女性は随分動いている。

 ボディランゲージさながらだった。

「ナ、ナ、なんでお前が、これに映ってるんだヨ。ここはインターネットに繋いでないはずじゃア」

「学校は関係ないですよ。私の個人的な回線ですから」

「トイウかなんで、読奈美がこいつのこと知ってるんダ」

「驚いてる蠢君もかわいー」

 画面では女性が手をばたつかせている。

「先日、鈴さんに聞いたんですよ。蠢さんが大人の女性と暮らしてるって。それで、ここに来る前、この方のパソコンから部屋にでて、協力してもらう約束をしてたんです。入り口はこの液晶パッドですよ。蠢さんも通れますよね? 今は直通ですから」

 そう言って、液晶パッドを近づける読奈美。

「ヒッ、や、やメ」

 押し付けられるように、画面の中に入れられた蠢だった。

 その瞬間だけ、画面が大きくなったように見えた。

 そして、蠢は女性の部屋に飛び出たのである。

 女性は蠢を受け止めた。

 大きな胸をおしつけたり、頬をこすりつけたり、キスしたり、蠢と女性は一つの塊のようになっている。

「あはは、蠢君からお酒の匂いがするー。大人だあ」

「オメーはなんで、酔ってもいないのに、そんなテンションなんだヨ」

「だってー、蠢君が学校言ってる間、寂しくて。ほらうりうり」

「ワップ、苦しいってノ」

 胸の中で酸素を求める蠢。

 画面から、読奈美もでてきた。

「えへへ、蠢さん。いいお姉さんじゃないですか。この物語の姉と弟よりも、親密そうですよ」

 そう言って、恒例となった動きをする読奈美。

「ウルセえ、みてないで、助けやがレ」

「こらこらー、お友達にそんな態度じゃ駄目だぞう」

 と言って、瞬の腋の下で、手を動かす。

「ウヒャひゃひゃ、や、やメ」

 それを放っといて、読奈美は大事なことをつげた。

「これじゃあもう悪さできないとおもいますけど、一応これ、酔い覚ましの薬です。飲ませてあげてくださいね。これがなくても、しばらくすれば覚めるとは思いますけど」

「えー、もういつもの蠢君に戻っちゃうの? でも、わかったわ。蠢君はわたしが責任を持って、預かります」

 読奈美と女性の間でそんな約束が交わされ、読奈美が帰ろうとすると、

「ア、オい。置いてくな読奈美。今すぐ飲むから、その薬よこせ。そうだ、学校はちゃんといかねーとな。まだ今日の授業は終わってなイ」

 蠢は焦る。

「えーまだ物足りなーい。あと十分、いや五分だけこのままでいて」

「ゼッタい嘘だろそレ」

「このまま時間が止まればいいのに」

「オソロしいこというナ!」

「えへ。ごゆっくり~」

 言い残して、読奈美は去った。


 鈴はとある場所にきていた。

 そろそろ三時間目も終わりが近い。

 給食室には、沢山の食料が運び込まれていた。

 本日のメニューに、白身のフライがある。

 それが、見るからに人為的に、大きなカゴに、山盛りになっていた。

 匂いに抗えない鈴。

 我慢しきれず、その山に近づき、フライを取ろうとした瞬間、中から手がでてきて、鈴の腕を掴んだ。

「んにゃあっ」

 さらに山の中から、一応ビニールで汚れないようにして、寝転んでいた、火楼がでてきた。

「捕まえたぞ鈴。さあお薬の時間だ」

 火楼は怪しい笑みを浮かべる。

 鈴は逃げようと、暴れだした。

 その瞬間、二人は暗闇に包まれた。

 隠れていた御神本が、厚く大きな本で包み込んだのだ。

「さあ先生、やっちゃって」

 御神本が言うのが聞こえたのか、本の壁の中から変な音と声がなりだした。

 にゃふだの、ぐはっだの、んはっだの、ざしゅっだの、こいつめっだの、そこはだめっだの、尻尾は反則にゃだの、んふぅだの。

 しーんとしたので、御神本が本を消してみると、そこには、血まみれの火楼と、安らかそうに眠る鈴の姿があった。

 深いのも浅いのも、全部引っかき傷のようだ。

「やったの?」

 御神本が恐る恐る、尋ねる。

「ああ、成功だ。薬は飲ませた。今は疲れて眠ってるみたいだな」

 そう言って、火楼は鈴の頭を優しく撫でた。

 

 鈴は目が覚めたら、ちゃんと元の鈴に戻っていた。

 蠢も歩いて、学校まで戻ってきたようだ。

 どちらも若干服が乱れていたが、魔物が生まれた時から着ていた物なので、勝手に元通りになった。

 蠢の肌についたキスマークは、しばらく戻らなかったが。

 鈴は制服を破いた生徒へ、蠢は職員室へ、火楼と共に、それぞれ謝りに行った。

 その後、校長室でも反省した。

 そうして、また平和な日常に戻る。

 後日。

 夏雪が罰ゲームとして、一日パッドをいれさせられて巨乳になっていた。

 本人も案外楽しんでいた様子。

 それから、蠢のバグの影響で、火楼の給料が一桁減っていた。

 火楼は驚いたが、すぐ直してもらえたようだ。


 少しづつ、勉強したり、交流したりして、人間の社会の常識を学んでいく魔物達。

 それでも、まだまだ野放しになっている魔物は多い。

 せめて目の届く範囲は守ろう。

 人間だろうと、魔物だろうと、淋しい子供が一番いけないことだから。

 そう火楼は思う。

「先生早くー」

「ああ、今行くよ」

 生徒の呼ぶ声に、考え事をしていた火楼は答えた。



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