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 とりあえず、蠢が言っていた、コンピュータールームに向かったが、誰もいない。

 しばらく校舎を探していると、突然火災報知器がなりだし、頭上のだけ、スプリンクラーが作動した。

「つめたっ。な、なんだ?」

 水でびしゃびしゃになっていると、目の前から教師の一人がやってきた。

「火楼先生、大変です。学校内の制御システムやネットワークに異常がおきてるんです」

「それはどういうことですか?」

「つまり、機械が誤作動したり、授業でつかうプリントの内容がめちゃくちゃに印刷されてたり、生徒の成績表が改ざんされてたり」

「なっ、大変じゃないですか。原因は?」

「学校の実働部隊が調べているんですが、どうやらウイルスのようなものに侵入されたようで。でもおかしいんです。うちの学校のシステムは、特別な場合を除き、物理的にインターネットには繋がっておらず、学校内のみのネットワークのはずですから」

 規模の大きいこの学校には、魔物教室のある校舎に、特殊なクラスが他にもある。

 一般の生徒にはあまり知られていない。

 前回の理科室のような後始末、学校内での事件の処理、訓練などなど。

 噂では、寮を取り締まるものも、ここに所属している。

「システム、ウイルス、まさか」

 火楼の頭に一人の生徒がうかぶ。

「先生、もしかして、蠢さんなんじゃ……。私と同じ電子の魔物なら、パソコンの中に入れるのかも」

「中で暴れてるってことなのか?」

 火楼が考えていると、また別の教師がやってきた。

「ここにいたんですか、火楼先生。なんだか、生徒達が騒いでいて」

「また何かあったんですか?」

「なんとも要領がつかめないんですが、風がふいたとか、何かが通ったとか、突然服が破れただとか、手に持っていた魚肉ソーゼージの揚げパンが消えただとか。もしかしたら、魔物のしわざなんじゃないかって」

「あーそれはうちの生徒だと思います。すみません、すぐ捕まえますんで。生徒には、戸締りをして、教室に待機するように伝えてください」

「心当たりがあるんですね。わかりました」

 火楼の対応をみて、二人の教師は去っていった。

「別の校舎で暴れている鈴と、パソコンの中にいる蠢か。なかなか厄介なことになったな」

 頭をかく火楼。

「すぐに鈴をおいかけよーぜ。なんなら、私が一瞬で凍らせてやんよ」

「ふん、あんたじゃあの動きは捉えられないわよ。あたしが本で閉じ込めてあげるわ」

「なにー?」

 こんな時にも、諍いをはじめる夏雪と御神本。

「薬をのませれば、元に戻るんだろう。なら、一度捕まえないとな」

 厳道が言う。

「あ、あのー、蠢さんのほうは、私が追いかけて、飲ませるしかないかもしれないです」

 読奈美が、勇気を振り絞るように言う。

「確かに、あの中に入れるのは読奈美だけだが、大丈夫なのか?」

 心配する火楼。

「はいー。頑張って説得してみます。それに、ちょっとだけ思いついたこともあるので」

 弱々しくガッツポーズをとる読奈美。

 ほんの少しだけ頼もしくみえた。

「よし。じゃあ蠢はお前に任せるぞ。こっちは二手に別れよう」

 読奈美は軽く走って、コンピュータールームの方へ。

「じゃあミカモト、どっちが先に捕まえるか。勝負だぜ」

「いいわよ。負けたほうが罰ゲームなんだからね」

「お前ら、遊びじゃないんだぞ」

 二人を窘める。

「よーし。ガンドーいくぞ。まずは第一校舎だ」

 ビシッとその方角を指差す。

「わかった」

 二人は走り去った。

「あ、強そうな方とられちゃった」

「ははは」

 厳道をとられて若干肩を落とす御神本。

 残された二人は第二校舎へと向かった。


「こっちにきたのは久々だけど、あんま私らの教室のある校舎と、変わんねーな。生徒もあんまいねーや」

「既に教室に避難してるんだろう」

 第一校舎の二階の廊下をふらふら歩く夏雪と厳道。

 何も起きずにここまできてしまった。

「おーい、スズー。いたら返事しろー。大人しく出てきたら、優しい夏雪さまが柔らかい胸でだきしめてやるぞー」

「……」

 厳道は突っ込まない。

「は。もしかしたら、こっちの校舎にはいねーのかな。三分の一を外しちまったか。いや、いるかいないかだから二分の一か」

「そんなわけないだろ」

 今度は突っ込んだ。

「えー、なんでだよ。目の前にはスズがいる校舎といない校舎があって、私がそれを確かめるまでは、二分の一でー。まぁいいや、そんなことより、厳道って腕ふといよなー」

 あっさり話題を変える夏雪。

「お前の頭くらいはあるかもな」

「今度腕相撲しよーぜ。手加減はちゃあんとしてやっからよ」

「なぜそう変な自信はあるんだ」

「腕相撲ってあれだろ、机に手がつかなきゃいーんだろ? 地面から腕まで凍りついちゃえば、もしかして必勝なんじゃないか?」 

「それじゃよくて引き分けだ。それに、腕折れてもしらんぞ」

 そんなふうに雑談しながら、進んでいく二人。

 教室の中の生徒たちは、青髪と大男の変な会話を気にせずにはいられなかった。


 前方に下着姿の女子中学生がいる。

 どうやら今さっき制服が破れたようで、その残骸が足元に落ちている。

 中学生にしては発育がよく、スポーツブラを卒業していた。

 ピンクに近いカラーで、フリルが多少ついている。

 上下お揃いのようだ。

 廊下には他にだれもおらず、女子生徒が火楼達を確認して、若干涙目になる。

 トイレにでもいく途中だったのだろうか。

 火楼がそれを視界に入れたかどうかのところで、目に本がぶつけられた。

「ぐは、なにをする御神本」

「見ていいわけないでしょーが」

 目元を抑え、うずくまる火楼。

 そんな火楼から、上着を強引に奪う。

「ほら服貸しなさいよ」

 火楼の容態など無視して、女子生徒に近づく御神本。

「ほら、これで隠しなさい。一人で出歩いたら危ないよ」

 そのまま教室に誘導する。

 御神本が女子生徒を入れると、女子が庇ったり、中は軽く騒ぎになった。

「鈴ー。近くにいるんでしょ。でてきなさいっ」

 被害者がいたので、当たりをつけてそう呼びかけた。

 すると、彼女は姿を表した。

 距離は大体十メートル。

「にゃあは。先生と、御神本っちじゃにゃいか。どうしたのかにゃ」

 まだふらふらしている。

「鈴。おとなしく、これを飲んで、教室に戻るんだ」

 立ち上がり、カプセルを見せる火楼。

「にゃら、つかまえてみるにゃ。課外授業だにゃ。鬼ごっこならぬ、猫ごっこだにゃあ」

「窮鼠が猫を噛む遊びってわけね」

 御神本が得意げにいう。

「そんな授業はないし、そんな変な遊びもない。大人しく捕まるんだっ」

 そういって火楼は全力で走った。

 手をのばし、触れるかどうかというところで、鈴はあっさり避けた。

 火楼がどう動いても、ふらりふらりと触れられない。

 見かねた御神本が、三冊ほど本を出現させ、飛ばす。

 軌道は正確だったが、三冊とも切り裂かれておちた。

 見れば鈴の手から爪が鉄の鉤爪のように伸びている。

「この姿の爪は便利だにゃ。何でも切れるし、長さも自由自在。猫の頃は、短くて、犬相手にも苦労したもんだにゃあ」

 遠くを見るようにいう鈴。

 隙をついて、また数冊飛ばすが、簡単に切り落とされた。

「これならどうなのよ!」

 まったく当たらない鈴に、御神本はキレたように言う。

 前回の読奈美達相手のように、すぐに怒って奥の手を開放してしまう。

 御神本が黒い本を両手でもち、前に掲げる。

 すると、円を描くように本が出現し、それで鈴に狙いを定めた。

 その円の中心から、大量の本が濁流のように飛び出した。

 これでは切っても割いても、間に合わない。

 当たれば全身打撲じゃすまないだろう。

 極太のレーザーのように本が連なる。

 火楼の掴みを避けていた鈴は、それでもなんなく体勢を直す。

「にゃはは。これはさすがに逃げるしかにゃいにゃ」

 本が到達する直前、御神本の方に向かうようにして、猫のように手も使い、状態を低くして、壁を走った。

 そして、そのまま天井まで走り、火楼達が元きた道を戻るように去ってしまった。

 しかたなく、本をすべて消す御神本。

 跡には本を避けきれず、ぼろぼろになった火楼が座っている。

「きゃっ、先生。ごめんなさい、怒ると周りが見えなくなって」

「はは、そういうところ、夏雪にそっくりだ。知ってると思うが、先生は、これくらいすぐ治るんだ。すぐ鈴を追ってくれ」

 そうは言うが、口以外ほとんど動かせていない。

 側に座る御神本。

「あたし一人行っても、どうせすぐ逃げられるわ。作戦タイムよ。べ、べつに先生が心配なわけじゃないんだから」

「わかったわかった。ありがたい。じゃあ、あの暴れ猫をどうするか考えようか」


 思いついた秘策の準備をしてから、読奈美がパソコンの中に入る

 狭くも広くもなく、距離感がつかめない。

 目の前のものに手を伸ばしても届かなかったり、遠くにみえるものに少し近づいたらすぐ触れられたり。

 教科書やら文房具やらボールやらフラスコやら、色々と変なものが落ちていたり、浮いていたりする。

 それでも、ネットワーク内の、どのパソコンからでも出られる。

 そんな外とは違った空間を歩いていると、何かを壊すような音が聞こえてきた。

 そちらに向かうと、顔が赤くなって湯気がでてそうな蠢が、大きいハンマーでその辺りを殴りつけていた。

 外では、重くて絶対に持てないだろう。

 さらに足元にはドリルやらチェンソーやらマシンガンが落ちている。

「ひゃあ」

 驚き声を上げた読奈美に気づく蠢。

「ナンダ読奈美か。やっぱり来たのか。別に待ってたわけでもねーけどサ」

 興味を失ったように作業に戻る。

「あ、あのー、蠢さんがそんなふうになっているのは、お酒のせいなんです。これを飲めば覚めるはずです。飲んでくださーい」

 読奈美はポケットから、持ち込んだカプセルを取り出す。

「ハン、やなこった。今はなかなか気分がいい。見ろよこの道具。この中ならいくらでも出せるんだゼ」

「だ、だめですよう。こんなことしてたら、皆に迷惑かけちゃいます。さ、まだここのシステムも直ると思いますから、出ましょうよ」

「オレヲ入れたんだから、学校側も、これくらい予想してたサ。だったら、やりたいようにやるだけだ。それにしても、初日にあれだけ怯えていた奴が、変わったもんだナ」

 蠢がそういった時、遠くから何か来た。

 救急車のような、戦車のような、新幹線のような、何か。

 赤いパトランプを光らせて、こちらに向かっている。

「もしかして、ワ、ワクチンプログラム?」

 読奈美が一歩引いた。

 逆に蠢は楽しそうだ。

「アレガこのシステムの用心棒ってわけだ。だったらそいつもバグらせてやるヨ」

 そういって、ハンマーを構える。

 ところが目の前に、庇うように読奈美が腕を広げて立った。

 ワクチンはもうかなり近くまできている。

「オイ、邪魔だ。どけッ」

「どきません。わ、わたしのほうが、体が大きいお姉さんですから」

 震えを我慢するように言う。

 そのまま、ワクチンと読奈美は――。


 火楼達は、いくつか作戦を思いついた。

 その内の一つを実行するべく、火楼は待つ。

 廊下にしかけたのは、紐を引くと網が降ってくるしかけ。

 エサは魚肉ソーセージ揚げパンだ。

 カレー風味をつけた魚肉ソーセージをパンで巻いて、揚げたもの。

 購買で三番目に人気のパンである。

 袋を開け、匂いを放たさせてある。

 するとしばらくして、鈴がゆっくり現れた。

 明らかに罠を見ている。

 しかし、スピードに自信があるのか、ひょいとパンを拾い、食べた。

 網の真下である。

「今だ」

 火楼の合図とともに、鈴は本に閉じ込められた。

 鈴を中心に、廊下の両側、手を広げるのも難しいくらいの距離で、大きく分厚い本が出現している。

「にゃ、にゃ、狭いにゃ」

「さあ、そこで大人しく、酔いが覚めるのを待つんだ。鈴」

 火楼と御神本が出てきた。

 廊下の外、窓のそばに隠れていたのである。

 もとから網の紐など握っていない。

「先生、そんなとこにいたのにゃ。これで閉じ込めたつもりかにゃ」

「ああ、その本はさすがに破れないだろう」

 窓越しに会話する二人。

「それじゃー甘いにゃ」

 鈴は突進してくる。

 窓を破るつもりだろう。

 にやりとする火楼。

 そして同じく鈴に突進した。

「この状況なら、誰だってそうするだろうさ」

「にゃっ」

 鈴が窓を切り裂き、飛び出す瞬間、火楼はカプセルを持った手を、鈴の口に突き出した。

 しかし、ぎりぎりのところで、躱されてしまった。

「にゃはは。危なかったにゃ。まだまだこの追いかけっこは終わらないにゃー」

 嬉しそうにしながら、鈴はどこかへ逃げた。

 作戦は失敗に終わる。

「悪い、御神本がこれだけ力を使ってくれたのに」

 大きい本を出して、疲れ気味だが、御神本は言う。

「これくらい平気よ。しばらく休めばいいだけだわ。次の作戦の準備しましょ。先に夏雪に捕まらないといいけど……」

 少しの間、二人は休み、その後ある場所へと向かった。

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