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「わーい。御神本さんだ。ほらみなさん、前に言ってた子ですよ」

 休み時間。

 読奈美は、御神本の肩に手をおき、楽しそうに言った。

「な、なんであんたはそんなフレンドリーなのよ。あれだけのことをされたのに」

 たじろぐ御神本。

「えー、だって同じ本の魔物じゃないですか。それに、あれだけ熱烈に私のことみてて」

「同じ本っていっても、あたしのは昔からある紙の本よ。あんたのは最近の、電子書籍でしょーが。そ、それに、別にあんたを見てたんじゃないんだからね。その先の学校を見据えてただけなんだから」

「そんなこといっちゃって」

 言いながら、赤いツインテールを撫でたり、持ち上げたりする読奈美。

「あーもう」

 突如、読奈美の頭上に薄めの本が出現。

 それが降ってきて頭にヒットした。

「あいた。もう、なんですか。あ、これまだ電子書籍化されてない本です。わー、プレゼントですか? 今度読みますね」

「ちがうわよっ」

「やー、仲がいいですな。ご両人」

 夏雪と鈴と蠢がやってきた。

 夏雪は続ける。

「よーこそ。魔物教室へ。学校ってのは授業があるからな。読めない漢字やわからない計算があったら、どんどんこの私に聞いてくれていーんだぜ」

「なんでそんな自信たっぷりなんですか」

 夏雪の学力を知る読奈美が突っ込む。

「あんたにそんな事聞いても、どうせ答えらんないでしょ。さっきの授業みててわかったわよ」

 御神本も知っていた。

「お、やるか? この間は不覚にも、三対一だったからなー」

 ファイティングポーズをとる夏雪。

「こっちだって、前回は焦って力使い果たしちゃったけど、あんたに勝つのなんて、余裕なんだからっ」

 黒い本を掲げ構える御神本。

「あ、私数に入ってないですね」

 読奈美は小さく独りごちる。

「オいおい暴れるなら外でやってくれよ」

「そうだナァ。いくらここが丈夫にできてても、皆がいるからナァ」

 鈴と蠢は戦闘モードに入りそうな二人に、口を挟んだ。

 御神本がこちらを向いたので、二人は軽く挨拶した。

「ハじめまして。よろしくな」

「僕も御神本っちとは、はじめましてだナァ。仲良くしてナァ」

 御神本は二人をじーっと見ている。

 気になることでもあるのだろうか。

 とりあえず、頭を軽く下げて挨拶してから、

「よ、よろしくね」

 初対面の二人に言い放った。

「あんたたち、喋り方おかしいわっ」

 言われた二人は固まる。

 ほんの数秒、辺りは静かになった。

「ソんなこといわれてもよ。自然とこうなるんだよ」

 ようやく動いた蠢。

「生まれた瞬間からずっとこうだからナァ。うちのお婆ちゃんは何も言わなかったけど」

 鈴も同意するように答える。

「そうなの? ちょっと鈴。な、っていってみて」

「ナァ」

「口をこう開けて、な」

「ナァ」

 何も変わらない。

「七七日」

「ナァナァナァぬか」

 人の死後四十九日目のことを言う。

「うーん。どうしたら治るかな」

「このままでもいいんじゃないです? ふたりとも、結構カワイイと思いますよ」

 ね、といって読奈美は鈴と蠢の方を向く。

「オれを含めるな」

 蠢は腕を組み、抗議するように言う。

「ダいたい、治すことなんてできんのかよ。方言とかクセじゃねーんだぜ」

「治す、といえば彼女がいるじゃないか」

 夏雪が提案した。

「もしかして、薬宮さんですか? いくら彼女でも、それは」

「ま、ものはためしさ」

 そう言って、寝ている薬宮の元へいこうとする夏雪だったが、

「あ、夏雪さんは駄目です。起こそうとして、変なところ触りそうなので」

 読奈美がとめて、自分で向かった。

「そ、そんなこと……しねーから!」

 しそうだった。

「薬宮さん、薬宮さん、起きてください」

 ゆさゆさ揺する。

 優しいのか力が弱いのかあまり効果がない。

「彼女、なにかあるの?」

「薬のエキスパートナァのさ」

「ナぜかいつも寝てるんだけどな」

 後ろでひそひそと話している。

 読奈美が頑張って、耳をいじったりつついたり、質より量作戦をしていると

「なぁぁんか、変な夢みたわぁ。誰か用なの?」

 薬宮が顔を伏せたまま、起きた。

「あ、あのー鈴さんと蠢さんの口調を治したいんですがー、いいお薬ありませんかー?」

「そぉんなこといわれてもぉ」

 数秒おいて、

「そぉんなささいなことでぇ起こされてもぉ……」

 頼みがあまりにもしょうもないので、どこか対応もぞんざいにみえる。

「ね、ねないでくださーい」

 見ていられなくなったのか、御神本も来た。

「これならどうだ」

 両手で、自身の赤いツインテールの先を掴み、毛先を薬宮の首筋にあて、わさわさした。

「ん、あ、んふぅ」

 なぜか色っぽい声が聞こえる。

「ん~、あなたはぁ?」

 若干顔が赤くなった薬宮が、御神本をみる。

「あたしは御神本だ。お願いだから、あの二人に合ったお薬を譲ってちょうだい」

「んも~、しょょうがないな」

 いい加減諦めたのか、薬宮は胸のあたりから二つの小瓶をとりだした。

「おやぁすみ」

 御神本に渡してから、薬宮はまた眠りについた。

 御神本はそれを戦利品のように掲げ、二人に渡す。

「さぁ、ぐいっとやっちゃって」

 受け取った二人は、少し迷いつつも、一気に飲んだ。

「いいんですかねえ。せっかくの個性をなくしちゃって。普通とは違う喋り方の人も、よく物語にでてきますよ。これとか、これとか」

 そう言って、液晶パッドを御神本の目に近づける。

「あ、これ私も読んだわ。面白いよね。主人公がかっこ良くて、敵も強大で」

「は、話を聞いてください。でも、読んだことある人に出会ったのは初めてかも」

 まんざらでもない読奈美だった。

「ほら、これがその原書」

 広げた手のひらに、ぽとりと落ちてきた本。

 それを掴み、読奈美に見せようとした。

 が、紙を切り裂く音がして、その本は、みっつに分断されて落ちた。

 二人の間を、何かが通り過ぎた気がした御神本。

 読奈美は、今の現象を不思議がっていた。

 気づくと、鈴が先ほどとは全然違う位置にいた。

 外見は変わっていないが、顔を下に向け、ふらふらしている。

「鈴?」

 御神本が恐る恐る名前を呼んだ。

 それに反応するように、顔を上げる鈴。

 ほおは紅潮しており、目はとろんとしている。

「にゃあはははははは」

 そして、笑った。

 切り裂くように、埋め尽くすように、這い回るように、降り注ぐように、その笑い声は、響いた。

 ひとしきり笑ったあと、消えた。

 目の前から一瞬にして移動したのである。

「チョッくら、コンピュータールーム行ってくるワ」

 謎の小瓶の液体を飲んだもう一人の方の蠢も、どこかおかしくなりながら、体を若干揺らしながら、出ていった。

「なに、今の」

 御神本は驚きながら呟く。

「な、なんか怖いです。口調が治ってるようにもみえませんし」

「むしろ悪化してるじゃないの」

「スズってあんなに速く動けるんだ。私、滾ってきたー」

 夏雪は両手を握りしめ、嬉しそうにしている。

「ちょっとそこの黙ってなさいよ」

 御神本は夏雪を制し、薬宮につめよる。

 起こそうとしていると、火楼と厳道も鈴の笑い声をきいてやってきた。

「何だ今の鈴は。なんかあったのか? あれじゃあまるで」

 火楼は思い当たるフシがある。

「ふたりともどっかいっちまったか」

 厳道は周りを見渡す。

「あ、先生。ちょっと薬宮に聞いてみるから」

 喋りながら色々していると、起きた。

「おはぁぁよ」

「もう遅いわよ。さっきあんたに貰った薬飲ませたら二人共おかしくなっちゃったんだけど、 何渡したのよ」

「ん~さっきのはぁ…………」

 そのまま動かない。

「喋ってる途中でねるなー!」

 御神本の大声に、やっと動きを再開した。

「さっきのはぁ、百薬の長よぉ」

「百薬の……? そ、それってお酒じゃないのよ」

「あーやはり、あの二人は酔ってるのか」

 火楼が納得する。

「変な頼みでぇ、眠いし、めぇんどくさいしぃ、百薬の長っていうぐぅらいだからぁ、いいかなぁって」

 さらりとめんどくさいと言いのけた。

「いいわけないでしょーが」

 肩を揺する御神本。

「ごぉめん」

 変な頼みをした本人は、なぜか強気だった。

「何か、ないのか? 酔い覚ましみたいなもの」

 火楼が聞く。

「そんな最近の医学書にも載ってないようなもの、あるわけ……」

 御神本は本についてそれなりに詳しい。

 薬宮がごそごそ動く。

「はぁい」

「あるのっ?」

 カプセルを二つ、取り出した。火楼は受け取る。

「あとはぁ、がんばってねぇ」

 そのまま深い眠りについた。

「よし、二人を探すぞ」

 火楼に続き、御神本、厳道、夏雪、読奈美は教室を出た。


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