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 双子はベッドの上で、しっかりと抱き合っていた。

 もちろんパジャマ姿だ。

 鈴が枕を持って、ノックをしてから、部屋に入った。

 双子の側に座る。

「ナァんだか、急に二人と寝たくナァっちゃったナァ」

 白々しく言う鈴。

 破子は何も言わない。

「まぁそれは良いですわ。私達、誰かと同じベッドで寝るなんて、初めてですもの」

 結子は狙いに気づいているのか、ノリノリだ。

 まだ破子は何も言わないで、顔を結子の胸に伏せている。

「しょうがナァいナァ」

 鈴は破子とつないでいる方の、結子の手を掴んだ。

 そちらを動かすと、手を離さない破子の手も当然ついてくる。

 そのまま、双子の手を自身の耳に持っていく。

 ふわりとした毛が、双子の手を刺激した。

 手に合わせて、くにくにと耳が動く。

 やや温かい。

 その感触は、はっきりいって快感だ。

「ふあ、柔らかいですわ」

 結子はご満悦だ。

 破子もぷるぷる震えている。

 ついに顔をあげ、開いている方の手で、猫耳を触りだした。

「私も」

 そう言って結子も同じように、触れた。

 同時に両方の猫耳をいじられる鈴。

(これって、こっちとしてはそんナァに、気持よくもナァいんだよナァ。人間も耳を触られると、こんナァ感じナァのかナァ)

「僕の耳を触ったのは、お婆ちゃん以外だと初めてだよ。初めて同士だナァ。ナァはは」

 双子が満足して手を離してから、鈴は笑いながらそう言った。

 先ほどの結子の台詞に合わせたようだ。

 やがて、三人は枕に頭を預けた。

  

 昨晩から雨が続いている。

 風も強く、雷まで鳴っていた。

それでもなんとか六人は登校した。

 一時間目が始まったが、雨風の強さで休んだ者も数人いて、生徒はまばらだ。

 学校に対する、そのあたりの意識はまだまだ弱い。

 二時間目も終わり、双子がトイレから戻ると、教室にも周りにも誰もいなかった。

「皆、どこいったの」

「あれじゃないかしら」

 そういって結子は黒板を指さす。

 そこには、三時間目は理科室に移動と書かれていた。

「もう皆向かったの?」

 破子がつぶやいて、双子は理科室へと足を進めた。


「ん? 誰だこれ書いたの、次は理科じゃないぞ」

 職員室から戻ってきた火楼は、黒板の文字に気づき、消し始める。

 火楼とともに、数人生徒も教室に戻ってきたが、誰も知らないらしい。

「先生、双子と一緒じゃないのか?」

 厳道が尋ねた。

「え? 双子はお前たちといると思ってたが」

 二人の脳裏に、嫌な予感が走った。

 さらに蠢や鈴も帰ってきたが、やはり双子は見当たらない。

 些細な思い違いの結果、双子は二人きりになった。

「やばいぞ、もうすぐ鎖が戻るはずだが、不運も限界のはずだ」

「どこにいったかわからないのか?」

 焦る火楼に、厳道は聞いた。

「そんなのわかるわけ……」

 答えながら、ついさっきのことを思い出す。

「理科室だ」

 火楼がそう言って教室を出ようとした時、ずずん、と校舎が揺れた。


 少しだけ時間が遡る。

「どうして誰もいないの」

 理科室についた双子は、そこにも誰も居ないことに気づく。

 この校舎の理科室は三階にあり、他の実習室とおなじく、綺麗に設備が整っている。

「なんだか、においますわ」

 破子も結子に言われて気づき、とりあえず換気をしようと、窓に近づいた。

 その時、カッと逆のほうの窓が光った。

 双子が振り返る。

 凄まじい音。雷が落ちたようだ。

 それは、機器を急速に誤作動させ、蛍光灯が点った。

 ばちばちと音をたてる。

 雨で薄暗い部屋に明かりがつく。

 が、それはほんの一瞬だけで、理科室は爆発した。

 締め忘れたのか管がやぶれたのか、ガスが漏れていたのである。そこに引火したようだ。

 猛烈な爆風とあっという間に充満した黒い煙で、双子は呼吸ができなくなる。

 一応体は無事なようだが、げほげほと咳の音が響く。

「なに、これ。何もみえないの。そうだ」

 幸い窓の近くにいたので、破子は力を振り絞って、開けた。

 その瞬間、酸素が入り、後ろでさらに爆発がおき、ふりふりの服もあいまって、破子は外に投げ出された。

 手を繋いでいた結子は、ぎりぎりで窓の縁に留まった。

 結子が腕一本で支え、破子が宙ぶらりんな状態になる。

 こんな状況でも、手は離れていなかった。

 お互いが状況を確かめた。

 共に煤でところどころ黒い。

「う、うう」

「破子ちゃん、泣かないで」

「このままだと、結子ちゃんも落ちちゃうよ」

「私は余裕よ。破子ちゃん、軽いわ」

 もちろん二人の体重は同じだ。

 ツッコミ役はいない。

「うう、もう嫌なの。結子ちゃんや他の人に迷惑ばかりかけて、もうこれ以上」

「破子ちゃん」

 破子の言いたいことを、途中で遮る結子

「怒るよ?」

 体を支えながらも、痩せ我慢するような笑顔で結子はいった。

 そんな結子の迫力に、一瞬たじろぐが、それでも破子は言う。

「怒ればいいの。このまま二人落ちるくらいなら、怒ってでも生きてくれたほうがいいの」

 そう言った時、強風が二人を煽った。

 二人の手の繋がりは、心の繋がりだ。

 どんな時でも離れないなど、恐らく人間には不可能だろう。

 それが今、破子の想いによって、離れた。

 空中に放たれる破子。

 破子に手をのばす結子。

 何かを諦めた顔と、驚愕した顔。

 三階の高さから落ちれば、恐らく死体しか残らない。

 スローモーションのように遠ざかる二人の間に、それは起きた。

 雷よりも温かい、そんな光だった。

 輪っかが二つついていて、その間を小さい楕円の鉄のようなものがいくつもうねる。

 きっかり七二時間。

 双子の手首に手錠が戻ったのである。

 一メートルほど落下して、ぐんと鎖に引っ張られる破子。

 結子のほうにも同様の衝撃が訪れた。

 雨にあてられ、支え続けて体力の減った結子には抑えきれなかった。

 落ちそうになる結子を、際どく、火楼と厳道が掴んだ。

 教室から急いで駆けつけたようだ。

 そのまま双子を引っ張り上げる。

 こうして、災厄のような三日間は、終わりを告げた。

 

「本当にすまなかった」

 鎖を殺した厳道が、再度謝る。

 教室に戻り、双子が落ち着いてきた頃だった。

 理科室の方は、学校側が消火したり、原因を探ってたりしていた。

 学校の規模にあわせるように、実働部隊がいるようだ。

 勿論しばらく理科室は使えないだろうが。

「いいの。いいの」

 これまで何度か謝った厳道に、そう返す。破子は続けた。

「それに、悪いことばかりじゃなかったの。皆でお泊りは楽しかったし、先生は料理作ってくれたし、鈴は耳を触らせてくれたし」

「なにっ」

 火楼が最期の言葉に反応した。

「ふふふ」

 と結子は破子を撫でた。

「ソれにしてもよく無事だったもんだ」

 と、蠢。

「ええ、本当に。私達だけでは、命を落としていたでしょう。でも、みなさんがいてくれたおかげですわ」

 そこで、休み時間の終わりを告げるチャイムがなった。

 皆授業のためにそれぞれ席に向かう。

「ところで、破子ちゃん。怒ってもいいって、いってたわよね」

 隣同士の席。

 破子にしか聞こえないくらいの声で言った。

「ひっ」

 後日破子がどんなおしおきを受けたのかは、知る由もない。

 こうして、日々の一コマは幕を閉じた。 

 鎖が千切れる前のころよりも、手を繋ぐ頻度がふえた双子だった。


「これからテストするぞー。プリント回してくれ」

 火楼はそう言って、席の列の先頭にプリントを数枚渡していく。

 だんだん魔物達も読み書きを覚えていったので、そろそろいい頃合いだろう。

「テストってなんだ?」

 夏雪が素朴な疑問といったふうに尋ねる。

「テストっていうのはナァ、ほらあれだよ、この学校に来た時にやったやつ。紙に書かれた問題に答える奴だよ」

「あーあれか。なんかよくわかんねーから、好きなこと書いたけどそういう勝負だったのか。はん、だったらもっと本気でやるべきだったぜ」

「勝負っていうか試されている立場だよ」

「おいおい……、まあ本気でやってくれるならいいけどさ」

 夏雪の言い分に呆れる火楼。といっても、魔物にテストを受けさせる事自体がこれまでの歴史にないので、それも仕方のないことか。

「まああの時は生まれたての世間知らずだったからな。今回は違うぜ。ここで全てを学んだから、今回は全問正解だ。そしたら今度は私が出す問題を先生に解いてもらおうかな。これで勝負が成立するぜ」

「ははは。いいぞーその調子だ」

 この短期間でそこまで学べるわけもないのに、どうしてそんなに自信たっぷりなのか。

「それと読奈美ー。無いとは思うけど、その端末でカンニングとかするなよー。なんなら預かるぞ」

「えうっ。だ、ダメですー。これは渡せません。身体の一部みたいなものです。どうしてもというのなら、眼鏡を渡します」

 ばたばたと焦るように言った後、眼鏡を外してみせた。眼鏡のない読奈美が珍しいのか、周りが注目する。

「いや、それがないとお前が困るだろう」

 そんなやりとりの影で双子も話し合っている。

「破子ちゃん。テスト中はこっち見たらダメよ」

 手はつないでいるのに、結子は厳しく言う。むしろ距離が近いがゆえの配慮なのかもしれない。

「え。結子ちゃんを見ちゃだめなんて、拷問なの」

「そんな、しょっちゅう見つめ合ってるわけじゃないでしょ? 数十分の我慢よ」

「でもでも、見るなって言われたら、見たくなるものなの」

 押すなと言われたボタン。立入禁止と書かれた看板。怖いもの見たさ。いや、破子の場合は愛するもの見たさか。

「じゃあこうしましょう。お互いが答案を書き終えて、プリントを裏返したらこっちを見てもいいわ」

「わかったの」

 即答である。

「でもだからといって、空欄のままだったり適当な答えじゃだめよ。それしたら後でおしおきね」

「おしおき……」

 ごく最近うけたおしおきを思い返したのか、青ざめている。

 双子の会話を複雑な表情で眺める蠢。あの二人、今更ではあるけれど、それでも仲が良すぎである、とでも言いたげな表情だ。

「マったく、よくああも似た存在を受け入れられるもんだな。それとも、兄弟や双子っていうのは、どこもああなのか?」

 表情だけでなく結局悪態もついた。それが聞こえた厳道が、話に乗る。

「俺は知らんが、あんまりいないんじゃないのか。そもそも、物理的に繋がれてるんだから仲悪かったら困るだろう」

「ソんときはてめえがまた切ってやれよ」

 にやにやしながら厳道に振る。最近あった厳道のミスをつつくのが楽しいといった様子だ。

「……またあの惨事を繰り返したいのか」

「シかしオレにも端末持たせてくれねーかな。テスト中だけでいいからさ」

 先ほどの火楼と読奈美のやりとりのことを言う。

「このクラスの誰に持たせられても、お前にだけは持たせられないだろう」

 電子書籍どころか、世界中のあらゆる情報を抜き出してテストに利用しそうである。それも堂々と。

 ちなみに薬宮はいつものように寝ている。プリントも、周りの生徒がしかたなく配っている。

 そしてテストが始まった。 

 さすがに皆静かである。むしろ、この教室始まって以来の静けさとも言える。

 その様子を教師用の椅子に座り、火楼は眺める。しかし、暇なのだ。

 生徒はプリントと熱い戦いを繰り広げているが、教師としてはすることがない。

 せいぜいカンニングを防止することくらい。それも、真面目な生徒たちが前では用をなさない。

 そろそろ各々問題に対する反応が変わってきたので、火楼は見回りを始めた。

 内容は数学のテストだ。いや、まだ中学レベルではないから算数か。

 席と席の間を歩いて行く。

 読奈美は難しい顔をしている。理系は不得意そうだ。

(うおっ)

 さらに回り、その一帯を通ろうとした時、全身が凍えた。

 夏雪のまわりだけ、雪が降っているような幻覚が見える。よく見れば机の足が凍っていた。

 眉間に見るからに力が入っている。プリントを睨めつけて、今にも破り捨てそうな勢い。いや、凍らせて砕きそう。

「か、夏雪? あんまり根を詰めるなよ。まわりの温度下がってるぞ」

「ん? ああ、先生か。いやー、つい熱くなっちまったぜ。ここまで私を本気にさせるとは、この紙切れなかなかやるなー」

「はは、冷静になったほうが解きやすいぞ」

 周りの生徒の邪魔にならないように、すぐに注意を切り上げる。

 薬宮は当然のように寝ている。

(おわっ)

 厳道もまた、夏雪とは違ったオーラをまき散らしていた。気のせいか身体が一回り大きくなったような、角が伸びたような。

 物殺しの鬼だというのに、生物まで殺しそうな殺気。

 シャーペンはミシミシと音をたて、机は腕で押し付けられすぎて足が床にめり込みそうだ。

「厳道も落ち着け。プリント殺したら0点だぞ」

「おう」

 と、プリントから目を話さず一言。

(本当に大丈夫か? あっちの双子はなんだかもうラブラブ空間になっているし)

 むしろ授業がない分、いつもより過激にいちゃついていた。

 やがてチャイムが鳴る五分前、火楼は手を叩く。

「はい、じゃあ終わりだ。後ろの人回収してくれ」

 火楼の指示で、プリントが集まっていく。それとともに、安堵やら雄叫びやら歓声やらがあがる。

「やーむずかしかったですね。夏雪さん。今まで読んだ電子書籍には載ってないような問題ばかりで、苦戦しました」

 手元のプリントを渡し終え、読奈美は夏雪に話しかけた。しかし、反応がない。

「夏雪さん?」

 よく見れば白目だ。さらに口から白い何かがでている。

「はは、はれ、ほ? ああ、なんだヨミナミか」

「大丈夫ですか? ていうか、テスト受けただけでなんでそんな事になっちゃってるんですか」

「いやいやいやいや、これは別にテストが難しすぎたとか精神力削られたとかじゃねーぜ。ちょっと昔あった悲劇的な別れを思い出してただけだ。断じてテストにやられたわけじゃねえ」

 すっかり復活している。

「昔って、夏雪さんも生まれたばかりでしょ」

「そうだったか?」

「なんでそこで疑問形なですか。今からこれじゃあ、テストが返ってきた時どうなっちゃうんですか。点数が書いてあるんですよ」

「そんなの満点にきまってる。私は満点しかとったことない。でももし万が一のことがあったとしても、最後に笑うのは私だぜ」

「?」

 にやりと怪しく言う夏雪に、読奈美は疑問をうかべるばかりであった。

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