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処刑台の下で  作者: 七つ夜
第一話/シト、新生
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朝霧が隠す

 「やあ、堂島さん。調子はいかがかな」

 今日は、よく声を掛けられる。

 「……ええと」

 医者のような風貌をしている優男が、俺に向かって歩いてきた。

 またか。名前が、どうにも思い出せない。

 「朝霧玲人、ですよ」

 アサギリ、レイト。朝霧玲人――ダメだ、思い出せない。

 「よく遅刻とかなさりませんか」

 駄洒落で自己紹介に答える。……何をしてるんだ、俺は。

 軽い自己嫌悪に陥っていると、薄い笑いが聞こえてきた。

 「はは、やっぱり君は面白いですよ」

 嘘だろう、絶対笑えないぞ……さっきの駄洒落は。駄洒落の域にさえ達していないぐらいのレベルだぞ……あれ。

 「君は、どうあれ私を見てはいないんですからね……」

 笑いのツボが浅すぎるだろう――っと。

 「今、何か仰いましたか?」

 俺としては、何気なく聞き逃した言葉を問い直しただけだったのだが……。俺の言葉が、どうも気に障ったらしい。

 くしゃりと顔を歪めた彼の目は――。

 ――怯えてる?

 ……そこに、見て取れるほどの恐怖を孕んでいた。

 理由は分からない。ただ、この男は今、俺に対して恐れを感じている。

 貼り付けたように不自然な笑顔の裏には、こちらの一挙動、一呼吸、更には思考までも穿とうとする意思が見て取れた。

 「どうなされました?」

 歩み寄ってくる男。

 未だに、笑みは崩れていない。

 もしかすると、声をかけてきたときから今まで、ずっとこの男は俺の腹を探ろうとしていたのではないだろうか。そんな疑念さえ抱いてしまう。

 「……少し、体調が悪くて」

 嘘ではない。この男を見ていると、気持ちが悪くなる。胸の奥から止め処なく滲む不快感が、吐き気さえも催させる。

 「ああ、それは大変だ。部屋に戻る途中だったのなら謝ります。ゆっくりお休みになってください」

 ……この文字列の、どこまでが本心なのか。

 「……はい、そうさせてもらいます」

 では、とお互いに声を交わして対称の方向へと歩き出す。

 ――風にあたりたい気分だ。

 屋上にでも行こうか。

 ちょうど日が沈んだ頃だから、涼しい風が浴びられるはずだ。

 日が沈んでいるというのに、窓は驚くほどに綺麗で。

 そこには――自分の姿さえ、映っていなかった。

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