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処刑台の下で  作者: 七つ夜
第一話/シト、新生
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その少年、狂犬につき

 「やあ、ナラカ」

 「……?」

 廊下を歩いていると、自分を呼び止める声が聞こえた。

 よく通る、高い声。少年的なそれに、覚えがあった。

 「僕だよ、狛枝一樹だ。忘れちゃった?」

 コマエダ、カズキ。――ああ、狛枝一樹か。

 「……ああ、狛枝か。忘れるわけないだろ」

 さっきまで記憶喪失してたのは棚の上に上げておく。

 「ふふ、男みたいな口調だね……」

 「お前は女みたいだけどな、なよっとしてて」

 身長は百七十センチ程度――目に少しかかるぐらいの長さの、色素の薄い髪――中性的な容姿――。

 「きっと女性ホルモンのが多いんだよ、僕は」

 「知るか、男は男だろ」

 加えて――。

 「最近じゃあ、性同一性障害って病気もあるじゃないか。心は乙女なんだ、許してよ」

 「……………………」

 ――こういった冗談が得意技だ。

 「あは、そんなに引かれると傷つくなあ……。でもね、ナラカ。人間は誰しも、男性ならその中枢に女性が、女性ならその中枢に男性が、それぞれ存在してるんだよ。人はその相反する性質を持ち合わせるが故に、儚くて、脆い」

 そうそう、狛枝はこんな奴だった。

 会話の中に突然放り込まれる科学的、哲学的な、どうでもいい薀蓄。

 俺も知識量としては対抗できるレベルなのだけれど、ここまで情熱的に語ることはできない。そして、正直言って……ウザい。この上なく、ウザい。

 「で、完成された物質なんてこの世には無い……神でさえ、こんな不完全な世界を造りたもうたのだから」

 やれやれ、といった具合で狛枝は首を軽く横に振った。

 「話の横取りなんて酷いね。……ああ、以前のナラカはそんな人間じゃあなかったのに」

 「悪かったな、長い薀蓄は聞き飽きてるんだ」

 「はは、悪かったね。でも、語りたくて仕方ないんだよ、君に」

 すれ違いざま。

 「君ほど面白い人間も、いないからね」

 囁くように言って、隣を抜けていく。

 「じゃあ僕は授業があるから。またね、ナラカ」

 振り返りざまにそう続けて、狛枝は廊下の向こうに消えていった。


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