Vermilion Red
瞼の裏にまで届く朱い光が眩しくて、目が覚めた。
伸びをしながら、上体を起こす。いつの間にか寝てしまっていたようだ。体は、しっかり毛布まで被ってベッドの上にあった。これといって特徴のない、白いベッド。強いて特徴を挙げるとすれば、白すぎることぐらいか。目が痛くなるほど、病的なほどに、それは純白だった。
そこに一筋、窓から差し込む朱色の線が通っている。それが妙に鮮やかに見えて、なんだか不思議な気分になった。郷愁か、寂寞か。切ないような、それでいて安心しているかのような。そんなノスタルジックな感情が湧き上がってくる。
窓から見える空は、太陽を手放しかけていて。消えようとする陽光の揺らめきが、そんな心の動きを誘うのだろうと思った。月の引力が地球に潮の満ち引きという現象を引き起こすように。そんなこともあってもいいのだろう、と。
「……はは」
なんだ、これ。
斜陽に酔わされたか。ワイン、といえるほど深みのある色ではないのだが。
こういった感傷に浸る行為も悪いとは思わないが、とりとめのないことに頭を使っても何の意味もないということは確かだ。
……それに、もう僕には時間がない。
……さて。僕の物語はこれにて幕引きだ。
僕は、そろそろ退場しなくちゃいけない。
「未練がましく、この世に縋る理由もないしね」
あとは頼むよ、と空に呟く。
そしてーー。
ーーそれは……私にとっては、ごくごくありふれた行為。
すうっ、と。それこそ日が沈むような自然さで。しかし確かな気品を持った所作で。
私は――いや、彼は――その瞼を閉じた。