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プロローグ

 それは、静かな地方都市に突如降って湧いた出来事だった。ある夏の夜、街のあちこちで次から次へと人が姿を消す事件が発生した。失踪者は予備校帰りの高校生、バイトに向かう大学生、残業を終えて家路を急ぐOLと、その年齢、職業は多岐にわたっていた。

 最初この異変に気づいたのは、女子高生の保護者であった。門限を過ぎても一向に帰らない我が子を不審に思い、早々と警察に捜索願を出している。しかしその一方で、身寄りのない者、また一人暮らしをする者は失踪者と認定されるまで、いくらか日数を要することになる。

 最終的に判明した失踪者は男女合わせて十七名。彼らは一晩のうちにこつ然と姿を消してしまったのである。

 しかし翌日になって、この事件は急展開を見せる。失踪者の自宅の電話が次々と鳴り始めたのである。それは身代金を要求する犯人からの連絡であった。

 何と、この事件は一つの街で起きた、同時多発誘拐事件だったのである。

 犯人の要求額は一人一億円。この日、電話連絡のあった家庭は十五を数え、身代金の合計は十五億円まで跳ね上がった。

 しかし不思議なことに、犯人の指定する身代金受け渡し場所は一つとして同じではなく、それどころか日本各地に点在していた。このことから事件には大がかりな犯罪組織が関与していると考えられた。

 当初、この事件は地元の警察によって失踪事件として扱われており、それが全国を股にかけた誘拐事件へと発展した途端、警察内部は大混乱を生じる。それが各都道府県警への協力要請を大幅に遅らせる原因となったのだが、それが当初から犯人の狙いだったとすれば、警察はまんまと出し抜かれたことになる。

 結局、警察はいずれの取引場所においても、犯人と接触することはできなかった。それは、誘拐事件における犯人逮捕の最大のチャンスを逃したことに他ならない。

 その後、犯人からの連絡は途絶え、十七名の人質も安否不明のまま、一人も解放されることなく現在に至っている。

 当時、この事件は日本列島を震撼させるのに余りあるものとなった。新聞やテレビは連日報道合戦を繰り広げ、小さな街は日本中の関心を集めることになった。

 しかし時は流れ、人々は次第にこの事件のことを忘れ始めている。

 今は、残された家族だけが失踪者の生存を信じて、その帰りを静かに待っている。

 そして今年、五年目の夏が訪れようとしていた。

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