番外編 Rizer Sharp beginning(5)
角を曲がると、目の前にはだいぶマズい光景が広がっていた。
折れた電柱、ひっくり返ったゴミ箱、ちぎれたフェンス、散らばった植木、盆栽、屋根瓦、えぐれた壁、そして何事かと怒り心頭に玄関から出てきた近隣住民たち。
「何だこれ、何があったんだ、事件か?」
「なんか変な乗り物に乗った男が荒らしていったって。お向かいの篠田さんが見たって」
「何だよそれ……どこのキ××イだよ……おいこれ警察沙汰なんじゃないの」
「申し訳ない。警察沙汰ではなくヒーロー沙汰です」
足元から口を挟んだ俺を住民たちは一瞬驚いたように固まってから見下ろし、矢継ぎ早に質問の雨を降らせてきた。
「びっくりした……何ですか、あなた。足、どうかしたんですか、大丈夫ですか?」
「変な乗り物男にやられたんですか?」
「ヒーロー沙汰って事は、あいつ何かの敵ですか?」
おいおいおい激しく勘違いされているぞ賢太郎……。
「いえ……俺は関連機関の者で、車椅子を破壊されましたが、正確に言うと上に乗っている奴は敵ではなく、ヒーロー研修生です。下の乗り物部分だけが敵です。ご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。じきに現役ヒーローが誰かしら到着すると思われますので、一般の皆さんはそれまで向こうの公園に避難していてください」
説明して先を急ごうとすると、引き止められた。
「ちょっとちょっと、あんたは避難しないの?歩けないなら手伝おうか?」
「どうも。しかし無用です。生徒が待っていますから」
しょうもないナメクジ歩行しか出来なかろうと、俺は講師だ。賢太郎を見届けてやらなくてはいけない。俺にはその責任がある。これはこだわりだ。妥協はできない。
通りの向こうから激しく金属の衝突する音と悲鳴が聞こえてきた。近づいてくる。死んでねーだろうな、おい、
ガシャン、
ガシャ、ガシャン、
乱れた足音と共に、交差点から機械獣が姿を現した。
「……乗ってない、だと」
賢太郎は円盤の上にいなかった。俺は凍り付く。振り落とされたか?だがよく見ると機械獣は2本の後ろ脚だけ使って、とてつもなく不安定な格好で歩いている。
1本、断線しているのだ。
ちゃんとやってんじゃねえか。
1本だけとは言え、賢太郎が「為すべき事を為した」のは驚くべき進歩だった。
俺は街灯からの逆光で暗くなってよく見えない円盤の腹側に目を凝らした。腹側の、後脚に近い位置にぶら下がっている賢太郎のシルエットをようやく確認し、俺は息を吐く。とりあえずのところは無事か。
だが依然、危機的状況であることには変わりない。ここからではどこに掴まっているのかまでは判別できないが、機械獣の腹側に、腕を引っ掛けて安定するような突起は無かった筈だ。だらんとぶら下がったままの賢太郎はちょっと振り回されたら直ぐに落ちてしまいそうに見えた。振り落とされる前に残り2本を切らなければならない。それなのに、
何やってんだよあいつは!
蛍光灯の明かりに輪郭を照らされた賢太郎のシルエットは、口をぱくぱくさせている。何か喋っているのか。俺は耳をすました。
「……そんでオレ手術の一部見ちゃったんだ、機械とか入れててさ、そん時はすげーびっくりしたんだけど、いまは全然しっくりきてんのね……だからさ、……形が変わることは、そんなに怖いことじゃなくて……だからさ、だからさ、そんなに……ううう……でも怖いよねぇ、オレも手術超怖かったもの……」
え?ちょっと待てちょっと待ておい何してんだ、機械獣相手にナチュラルに世間話してんなよ何のつもりだ。何考えてるのか全くわからねー……。そりゃセットで敵と間違えられる訳だよ!駄目だ、そんな悠長なことしてたらお前、
その時、機械獣がいやいやをするように体を揺すった。
「あ、うそ、怖い怖い怖いやだやだやだキケンキケン!ニャアアアア!」
掴まっていた突起から賢太郎の片手がはずれた。くっそ、言わん事じゃない、バカ野郎。俺はでき得る限りのスピード(所詮這いつくばっている訳だから大した速さは出ないが)で地面を引っ掻いて1人と一匹に近づきながら、声を上げた。
「落ちるな!片手で脚のコード掴めっ!」
「あっ、ししょ~!こわいよ~!落ちそうです~!」
「見りゃわかる!あと一息だ、何とかしてコード掴んで引きちぎれ!」
機械獣はよろめきながら尚も激しく体を振る。賢太郎は指の先まで腕を伸ばすが、振動でなかなかコードまで届かない。機械の頭が電信柱に触れ、ガクンと大きく円盤が揺れる。だめだ、もう手が離れそうだ、
飛び出して助けてやりたかった。けれど俺にはそうできる足がない、
頭の中で賢太郎が機械獣に踏み潰される様子が再生されかけ、それを振り切るために俺は声を上げた。
「畜生、落ちるんじゃないっ!頼むから死ぬな、がんばれ!」
怒鳴った直後のことだ。賢太郎が何か、言葉を呟いたように思った。
「……ねえそしたら、絶対買うから、毎日買うから、お願いだから止まってくれないかなぁ……」
誰に言ったのか、何の為の言葉だったのか、俺には判らなかった。だが、その一瞬だけ、機械獣の動きが、ほんの僅かだが、止まった、気がした。0.5秒。止まったうちに入らないかもしれないその0.5秒はしかし、時間としては充分だった。ちょこまか動くためだけに徹底的にやらせた訓練は、賢太郎の体内の安っぽい機械の反射神経に確実に成果をもたらしていると、俺は自信を持って言える。
飛べ、
と言うまでもなくちゃんと、0.5秒で賢太郎は飛んだ。
「ていやっ」
掴まっていた突起から手を離し、僅かに見えるコードに両手で飛びついた。加速をつけて掴まれた細いコードは、一瞬、ピンと伸びてパチンと青い火花を上げ、あっけなく、切れた。
「あ、やだやだうそ落ちた!」
まあそりゃそうだ、両手で掴んだコードが切れたんだから当たり前だ。だが賢太郎はなぜか落ちることを予期していなかったようで、逆さに近い、ひどく変な落ち方をしてしまった。
「いたっ」
その途端、1本脚になってバランスを崩した機械獣がグラリとよろめき始める。良し、倒れる。幸い賢太郎の落ちた地点にかぶさって倒れ込む形にはならない。俺は安堵のため息をついた。
が、
賢太郎のとった次の行動によって俺の背中は再びゾワッと総毛立った。奴は、機械獣の円盤が今にも倒れてくる場所に向かって、跳んだのである。
「うおおおおい!なにしてんだ!!くっそ……」
ぎりぎりと音を立てて倒れてくる機械獣めがけ、
「待て馬鹿こんにゃるぁあ!」
腕の力だけで、俺も跳んだ。そうするしかなかった。
人間が咄嗟に取る行動から、そいつの性根に何が一番染み付いているのか判断できる。
俺の場合は「生徒に対する過保護」だろう。自覚はしているがこればかりはどうしようもない。生徒が潰れてしまわぬよう、何としても機械獣の円盤を受け止めなければならない、と、頭で思った時には既に、俺は低い跳躍で円盤の下に滑り込み、両腕を地面に突っ張って背中で円盤を受け止めていた。
「でっ……」
スクーター1台の値段にも満たない最も安価な部類の改造人間である賢太郎よりはマシな手術を受けているとは言え、俺もかなり旧式の改造型であり、しかも装甲の老朽化が進んでいる。正直、もういい歳の改造人間のする仕事ではないと思うが、やってしまったものは仕方がない。俺は目だけ動かして賢太郎を探す。
「……無事か、おい」
ダンゴムシよろしく体を丸めていた賢太郎は、俺の声に驚いて起き上がろうとした途端、後頭部を強打した。もうちょっと周りを確認してから起きろと思う。円盤は這いつくばった俺が背中で支えているのだから、高さもそれなりに決まっているではないか。
「み」
妙な声を上げてへたりこんだ賢太郎は、俺と地面と円盤を順繰りに見て
「ししょースゲー……」
などと呑気な言葉を吐いた。俺は何だかがっくりした気分になる。
「お前なぁ……言いたいことは山ほどあるが……先ずは早く最後1本の脚の線切ってこい」
そう言うと賢太郎は慌てて匍匐前進をして脚の付け根のコードを切りに向かった。不思議な事に、機械獣は残り1本の脚を振り回して抵抗したりはしなかった。
「ごめんねじゃあ外すね」
とコードに触れた賢太郎に対しても何の攻撃反応も起こさない。ただ、ピピッ、と小さな電子音を上げたのみである。コードを切った賢太郎は
「んーほんとごめんね」
と言ってサワサワと円盤の隅を撫でた。
咄嗟に取る行動には、そいつの性根に染み付いたものが出る。俺の場合は「生徒に対する過保護」だった訳だが、賢太郎の場合はきっとこういう、ナチュラルに機械の化け物を撫でたりするような部分なのだと思う。俺はその様子を見て、こいつがなぜ、倒れる機械獣の下に飛び込んだのか、何となく予想できた。
たぶん、コンクリの上に倒れ込んだ衝撃で機械獣の電子頭脳が壊れてしまうのを恐れたのだろう。深く考えもせずに緩衝材にでもなればと飛び出してしまったのだ。
無茶な事をする。俺がいなかったら潰れていたかも知れないのに。まったく、本当に、しょうがない奴だこいつは。
機械獣の動きが止まったのを確かめ、俺は苦労して円盤の下から体を引き抜くことに成功した。手伝ってもらって何だが、非力な賢太郎は案の定、あまり役にたたなかった。まあ、いい。もう、そういう部分はこいつに求めても仕方がない気がする。現役が到着するのを待つ間、俺は賢太郎に言った。
「あのな……今度から、一般人の家やら電信柱やらを壊すのは、できるだけ避けろ……。お前のところは……特に、予算が、無いんだから……弁償する事になると、運営が大変だ…まあ、一番は人命だからな、できるだけ、でいいが、もう少し…意識を持ったほうが、いい…お前なら、ものを壊される側の気持ちも……わかるだろ」
傷に加え、激しい疲労と心労で、もう体が限界近かったが、やっぱりこういう指導はその場その場でしておかないと身につかないと思う。性根が過保護だと色々損だ。
「は、はい……ごめんなさい」
賢太郎は心配そうに俺を見つめながら素直に返事をする。俺の言葉がしっかり糧になればいいが。
「それから、お前は非力なんだから……あんまり……無理な事をしても、悪い結果を、招くだけだ……。俺がいなかったらお前、潰れてたんだからな…その辺り、よく考えて、やる事だ……」
「はい……」
「それから、敵に同情しすぎるのも…問題だ……相手が話を聞くとは、限らない……機械獣相手に、何を話してた?」
「あ、それはあの……改造は怖いかもしんないけど意外と大丈夫って事と……和菓子製造機のボディ作ってもらうのとかどうかなって……そしたらオレ絶対和菓子買いにいくからって、あのこに話してみてました」
賢太郎の答えを聞いて、俺は笑わずにはいられなかった。和菓子製造機って、何だよ。
「……変だったすかね……」
「……まあ…お前の場合は、いいか……そういうのも」
返事したかあいつは、と訊くと賢太郎は
「やーわかんないですけど、機械語わかんないし」
などと言った。わかんないで喋ってたのかよ。しょうがねーなおい。
11時過ぎになった頃、ようやく、対応ヒーローであるスピリットガンナーが到着したが、奴の仕事は近隣住民に、ご迷惑をおかけしました、と頭を下げて回る位しか残っていなかった。夜に呼び出されてそんな事をしなくてはならなくなった真田一斗は、しかしもと講師である俺には直接文句を言うことが出来なかったようで、代わりに賢太郎に向かってイライラをぶちまけた。
「キミはまだ研修生なのに何でこんなまどろっこしいやり方したんだ?住宅に被害が出たのは、悠長に脚のコードなんか切ってたせいなんじゃないのか?」
「ごごごめんなさい~」
「それでキミこいつどうするつもりなの?」
「あっ、えっとオレは和菓子製造機がいいと思うんすけど、本人にきかないと……」
「本人、だって!?人って何なの、キミなに言ってるの?大丈夫?」
「えええ?な、えっ、オレなんか変なこと、」
「鵜堂さん、こいつ大丈夫ですか?なんか住宅はブッ壊すし、敵の仲間だと思ってた住民もいたし、言うこと意味わからないし、問題あるんじゃないですか?」
まあ正直、言いたいことは分かるが、そもそも真田が電話に出なかったせいもあってこういう事態になったのだから、賢太郎ばかり責めるのも酷な話だ。
「あんまり突っ込んでやるな。そいつは改造が低予算だから少し特殊なヒーローに育ててる。お前とは方法論が違うんだよ。そんな事よりお前は耳か携帯のどっちかを直せ、どんだけ連絡つかねぇんだよ」
俺はそう言って真田を黙らせた。
だが結局、賢太郎は事後処理のために来た委員会の連中や、委員会から報告をもらって電話をかけてきた覆面ライザー運営部からも散々叱られてしまったようだった。連中は「機械獣を救う」事に重点を置いたのが相当気に入らなかったみたいで、賢太郎が時々、あの、とか、でででも、とか小規模な反論を試みて激しく言い返されているのが聞こえてきた。
委員会やライザー運営部に、賢太郎のヒーローとしてのやり方を理解してもらうのは時間がかかるとは思う。俺だってまだ手探り状態なのだ。色々と言われるだろうなとは予測していたが、俺も事後処理やら報告やらの仕事があったので擁護してやれなかった。なので全てが終わって帰る頃には賢太郎はすっかりしょげかえってしまい、カフェオレの缶コーヒーをすすりながらものすごい猫背になっていた。
「おい、もう電車無いから今日はうち泊まってけ」
委員会に持ってきてもらった慣れない仮の車椅子を操作し、俺は自販機の横で肩を落とす賢太郎の隣に並んだ。
「うう……ありがとうございますししょー……はああ~」
でかいため息をついたあと、賢太郎が訊いてきた。
「なんか……オレやっぱりヒーロー向いてないんですかねえ……」
この様子だと、誰もこいつを誉めてやらなかったに違いない。まったく委員会も運営部も、ヒーローを育てるという事が全然わかってやしないのだ。育成には鞭だけでなく飴も必要なのである。その配分も生徒によって違う。鞭8、飴2で成長する奴もいれば、鞭1飴9で完成する奴もいる。賢太郎の場合は心根がやさしくて反骨精神の無い奴なのだから、あまり鞭ばかりでは萎縮してしまい、潰れてしまうではないか。
「連中に色々言われたかもしれないが、」
俺はポケットから煙草を取り出し、火を点けた。ヒーローとして印象が悪いからやめろと現役時代散々叱られたものだったが、今でも時々、吸ってしまう。考えてみたら俺もあまり模範的なヒーローではなかったな、と思う。
「あまり気にするな……百点じゃあないが、お前の場合は、あれでいい。自信を持て。今日はよくやった」
そう言ってやると賢太郎はパタパタと涙をこぼして、小さく泣き声を上げた。
「泣くなよ、誉めてんだぞ」
「わ~ん」
「おい……カフェオレこぼしてるって…」
まあいいか、
膝の上にこぼされたカフェオレを見ながら、俺は、新しい形のヒーローがここにほぼ、完成した事を、心の中で祝った。
おめでとう
お前はきっと、普通のヒーローには真似のできない、特別なヒーローになる。
俺が保証してやるよ。
数ヵ月後、賢太郎は無事に修了証書を受け取った。例によって修了式にはわんわん泣いていたが、説教はしないでおいた。もう今更、である。
機械獣の一件以降のメニューには、気絶狙いの峰打ち訓練をやたら長時間ぶち込み、当てれば死に至るツボを反射的に避けて攻撃する練習すらさせた。あとはとにかく回避。ゴキブリのように壁を登って逃げるのも、屋根伝いに逃げるのもかなり上達した。水を得た魚、という訳でもないが、やはり本人に合っていたのだろう。
こうして完成した32代目覆面ライザーは、運営部からライザーシャープという名前をもらって現役デビューを果たした。鋭利、という意味と捉えるとあまり似合わない名ではあったが、音楽記号のシャープなのだと捉えると、こいつには合っていると思う。変な鼻歌は相変わらずだったからだ。
初めての対怪人戦がありそうだ、という日に、気を遣ってくれたのか何故かライザー運営部が連絡をよこしてきた。相手は怪人セグロセキレイ男だとか。こっそり見に行こうかとも思ったが、十中八九、手を出してしまいそうな気がしたのでやめた。横から出てきたもと師匠が車椅子で怪人を轢いた、なんて洒落にもならない。
年度が変わる前ではあったが、現在俺は次の生徒を受け持っている。少々せっかちで慌て者のきらいはあるが、リーダーシップのある熱血漢で、飲み込みも早い、良い生徒だ。前が賢太郎だったから余計に出来が良く感じるのかもしれない。しかしまったく軟弱さが無い分、どうも想像力というものに欠けているようで、ヒーローたるもの弱者の気持ちがわからなければ駄目だ、ということを近々よく話して聞かせなければならないと思っている。その時はシャープ先輩に来てもらうのも良いかもしれない。
ところで賢太郎の影響か、俺は最近、甘味を食べるようになった。もともと妻は結構な和菓子ファンだったらしく、私の分も買ってこいと頼まれる事も少なくない。店名は忘れてしまったが、今日も商店街に寄って帰ることにする。「考える和菓子製造機」は、なかなか良い仕事をしていて、特に皮に大和芋を使用したかるかん風の一口饅頭が大変に美味で、評判になっている。今度、賢太郎のアパートの近くにも支店ができるらしい。
まあ、あれもあの和菓子屋がスポンサーの一つになっているヒーローの運営部やスピリットガンナーのところに俺が掛け合ってやって実現した訳だが、その甲斐があったというものだ。
ぶん投げた時の事を覚えているのか、俺が店の奥を覗くと、もと機械獣の和菓子製造機は時々変な電子音をたてる事があり、少し面白いので、今日も覗いてみようと思っている。妻は可哀相だからやめなさいよと言うが。
事件後に購入した車椅子で通りを流していると、電気屋のショーウィンドウのTVでちょうど覆面ライザーの番組を放送しているのが目に入った。
あの番組は賢太郎の良いところを全然映さず、あいつが言ってもいないような台詞を後から吹き替えで入れたりするので初めて見た時、俺は随分腹を立て、もう見ない、とまで宣言したのだったが、今日は何となく気が向いて、車椅子を止めた。
相変わらずくねくねと、回避に特化した賢太郎の戦い方は格好良いという言葉からはかけ離れていて、まあ道行く子供達も、何だシャープか……といった風で足を止めて見るに至らないような状態ではあったが、10分番組のほんの最後の方でちょっとだけ、賢太郎がライザーシャープの姿のまま119番を回すシーンが映ったので、俺は少し嬉しくなった。
すると、隣で俺と同じようにTVを眺めていた婆さんが、
「うちの孫はあんまり好きじゃないみたいだけど、わたしシャープちゃん好きでねぇ、こんなオバーサンなのについ見ちゃうのよ」
などと話し掛けてきたので俺は
「自慢の教え子です」
と、つい口走ってしまった。言ってから俺、病的に親バカじゃねーのか?と、急に気恥ずかしくなり、適当に頭を下げて逃げてしまったが、
ああ、
あいつを必要としている人間はちゃんといるんだなぁ、と思ったら、今更ながら何だか、自分が現役時代に守っていたこの世界はなかなか素晴らしい場所だったのかもしれない、という気持ちになって、俺は樹上の鳥の声など聴きながら少しばかり目頭が熱くなったことだった。
(了)
この番外編を書く前に、超短編番外編みたいなものを掲載していたので、そちらもあわせて以下に貼っておきます。
ケンちゃんの進路
眼鏡ごしに紙切れを眺めて、ケンが
「まっぴ、コレどう思う?ダメかなぁ」
僕を呼んだ。紙は、学校のPCで見つけた求人情報らしい。
「よりによってその職種!」
「向いてね~!」
僕が何か言う前に、よくケンをからかう女子達が口を挟んだ。もちろん彼女らは僕をシカト。僕は俯く。仕方ない。そもそもクラスで僕に話しかけてくれるのはケンぐらいだもの。
「な、何だよう~まっぴもそう思う?」
やおらケンが僕に泣きついた。
「え、ど、どうかなあ……」
「松崎君、こいつ甘やかしちゃイカンよ」
「ねー」
女子達はごく普通に僕を会話に入れてくれて、僕は驚く。そして思った。
●変身ヒーロー急募!
弱きを助け強きをくじく軽作業です。未経験可。
ケン、やりなよこれ。
おしまい




