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恋の領域  作者: ばあむ
8/15

日常?→超非日常-櫻川 遥の部屋

午後7時30分


一人っきりの夕食を済ました遥は、自分の部屋でその日の学校の課題に取り組んでいた。


夕食は、桐谷家で一緒に食べることもあるが、さすがにそこまで迷惑をかけるわけにはいかないだろうと、桐谷家で夕食を取ることは比較的少ない。


遥は、机の上に広げたノートや教科書、筆記用具を片付けると、壁に掛かった時計を見やった。


もうそろそろ、千尋が来る時間だ。


桐谷家のだいたいの動きを把握している遥は、夕食が終わる時間も容易予想できた。


(にしても……あの倉田とかいう奴……)


遥は、今日の出来事について考えを巡らせる。

倉田 総司は、一体千尋に何の目的で近づいたのか。

あの挑発するような睨み方。

思い出すだけでムカムカする。


普通なら、遥に睨まれたら、あまりの迫力にほとんどの人が怯えるはずだ。

それなのに、倉田はあろうことか、睨み返してきたのだ。

あんな風に睨み返されるとは思わなかった。


何もかもが気に入らない。


年下のくせに、睨み返してきたことも。

千尋に近づいたことも。


(チヒロは、俺のモノ……なのに)


勝手に話しかけるな、触るな、笑いかけるな。

そんな独占欲が頭の中を埋め尽くす。


実際、遥自身、なぜこんな気持ちになるのかわからなかった。

ただ、千尋は小さい頃からずっと一緒で。

当たり前のように側にいて。

自分だけのモノで。

千尋の中の優先順位は、いつも自分が一番じゃないと気が済まなかった。

そんな我儘な独占欲の正体も、遥はつかめないまま……。


ピーンポーンと。

ふいにチャイムのなる音が響いて、遥の意識は現実へと引き戻された。


遥は立ち上がると、窓を開ける。

すると、夜の風が頬をなでた。

下を見下ろすと、千尋が玄関の前に立っているのが見えた。


「鍵、開いてる」


千尋に向かってそう言うと、「じゃあ、入るぞー」という返事が聞こえた。

そのまま、千尋が玄関から入っていくのを見届けると、遥は窓を閉めた。


別に、わざわざチャイムなど鳴らさなくても、千尋にはあらかじめ合鍵を渡してあった。

だが、千尋はあまり合鍵を使わない。

恐らく、他人の家に勝手に入るのに、抵抗があるのだろう。

使うとしたら、朝、起こしにくる時くらいだ。


(ま、別に使わなくてもいいんだけどな)


合鍵なんてなくても、いつだって会える。


そんな、根拠のない確信があった。


「ハル、来たよ」


ノックとともに、千尋の声が聞こえた。


「入れよ」


そう言うと、ガチャリとドアが開いて、ドアの隙間から、千尋の顔が覗く。


「お、お邪魔します……」


初めて入るわけでもないのに、なぜか千尋は緊張した面持ちで部屋に入ってきた。

そして、遥の正面に向かって正座した。


(……そんな身構えなくてもいいだろ)


遥はそう思ったが、あえて口には出さなかった。

なんだか、正座をして身構える千尋がおかしかったのだ。

可愛い、などと思ってしまうくらいに。


「……ハル、もしかして怒ってる?」


そんなことを遥が考えているとも知らず、千尋は少し不安そうに首を傾げた。


「別に怒ってねーけど」


遥はそう言って否定したが、


(本当かよ)


と、千尋は若干疑っていた。


(今日は一日中不機嫌だったじゃん)


千尋は、今日一日を振り返って溜息をこぼす。

確か、遥は一日中不機嫌オーラを振りまいていたはずだ。

今も、なんとなく機嫌はよくないように感じられた。


「……それで?お前は、あの倉田とかいう生意気な後輩に何言われたわけ」


(生意気な後輩って……)


棘のある言い方に、千尋は苦笑いをこぼす。

よほど遥は倉田が気に入らないらしい。


「えーと……告白……された、かな」


千尋が遥の様子をうかがいながら、恐る恐るそう言うと、


「ああ?」


案の定、遥は顔を顰めた。


(告白……?あいつが、千尋に?)


ムカつく。

ますます気に入らない。

一体誰の許可があって勝手に……っ‼


表情を険しくさせながら、遥は尋ねる。


「で、お前はなんて答えたんだよ」


「答える前に、ハルがいきなり乱入してきたんだろ」


「じゃあ、なんて答えるつもりだった?」


「それは……俺は男だし、断るつもりだったに決まってる」


そう言った千尋に、遥は少し安心していた。

これでもし、千尋があいつと付き合うなどと言い出したら……。

考えるだけで腹が立つ。


(千尋を独占して良いのは俺だけだ)


「もう、あいつとは関わるなよ」


遥が言うと、「?なんで」と千尋は首を傾げる。

千尋としては、せっかくできた後輩とは、なるべく仲良くしたかった。


(そんなこと、いちいち訊くなよ)


そんな千尋の様子に遥は苛立ちを覚える。


「あいつはお前のこと好きなんだろ、その意味、本当にわかってんのか」


「わ、わかってるよっ‼」


まるで責めるような遥の言い方に、千尋は思わず、大声で言い返してしまった。

サッと遥の顔つきが、変わる。

それを見て、


(あ、やば……)


と思った時には既に手遅れで。


ばんっと。

次の瞬間には、千尋は遥に床に押し倒されていた。

背中に衝撃が走って、息がつまる。


「……っちょ、ハル‼」


(いきなり、なんだよっ⁉)


千尋は、慌てて上にのしかかる遥をどけようとしたが、体格差からして、到底無理だった。

同じ年なのにどうやったらこんなに差がつくのか。

千尋は自分の貧弱さを呪った。


「わかってねぇだろ、チヒロ」


真剣な顔の遥が、すぐ目の前まで迫った。

吐息がかかるくらいの距離。

遥の端正な顔が、なぜか苦しそうに歪んだような気がして、千尋はハッと息を飲んだ。


(ハル、本気で怒ってる……?)


だっていつものハルじゃない。


千尋の知る幼馴染は、いつも余裕たっぷりで、こんな風に怒ったりしない……はずなのに。


怖い、なんて。


一瞬そんな言葉が浮かんで。

体が震えた。


すると、「はぁー」という長い溜息が聞こえて、急に、のしかかっていた遥の重みが遠のいた。

そのことで、安心したのか、千尋の体から力が抜ける。



「そんな怯えた顔すんな」


そう言いながら、遥は立ち上がった。

あまりの出来事に、千尋は床に転がったまま、放心状態だ。


「俺、今から風呂入るけど」


そんな千尋を一瞥して、前髪を掻き上げると、遥は何事もなかったかのように言った。


「あ….……お、俺、も、帰る」


一方、放心状態から脱した千尋は、なんとかそれだけ言うと、立ち上がって遥の部屋から飛び出した。


『わかってねぇだろ、チヒロ』


(わっかんないよ……‼)


自分の家へ帰る間、先ほどの遥の言葉を思い出して、千尋はカアっと体が熱くなるを感じた。


なぜ、いきなり遥があんなこと言い出したのかまったくわからない。

あんなに真剣に怒っている遥を見たのも、初めてだった。


(なんで、俺、こんなドキドキしてんだよ……)


押し倒された時のことも同時に思いだして、妙な気持ちになって、千尋は胸を押さえる。


わからないわからないわからない。


今はまだ、わからないことだらけだった。

遥の考えてることも。

倉田 総司のことも。


(もう、わけわかんねー‼)


自分の部屋に戻った千尋は、これから遥や倉田と、どう接したらいいかもわからず、頭を抱えた。







今回は、けっこう話進んだと思います‼

千尋と遥の微妙な関係?が変化し始める場面ですかね。


なんだか、キャラ(特に遥)が勝手に暴走してる気がします……( ̄◇ ̄;)

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