日常?-帰り道
午後5時40分ごろ。
千尋と遥は、地元の駅から家に向けて帰路についていた。
お互い何も話さず、無言で歩き続ける。
「あの……さ、ハル?」
ついに無言に耐えられなくなった千尋は、恐る恐るといった様子で、遥に声をかけた。
すると、遥は千尋の方を見て、足を止めた。
「なんだよ」
「ちょっと、質問があるんだけど……」
言いながら、千尋は視線を下に落とす。
正確に言うと、遥の右手と千尋の左手へ。
「なんで、手を繋いでるのかな、俺達」
(しかも、これってアレじゃないか?いわゆる恋人繋ぎってヤツなんじゃないかなっ⁉)
千尋の左手は、遥の右手にガッシリと握られていた。
電車から降りて、改札を通りぬけた直後にいきなり掴まれたのだ。
(ええっなに⁉)
とは思ったものの、遥の纏う不機嫌そうなオーラに負けて、振り払うことなどできなかった。
そして、そのまま遥に強引に引っ張られるような形で帰路についていたわけだが……。
「いいだろ、別にこのくらい」
遥は、(逆に何がいけないんだ?)とでも言いたげな口調でいった。
「いや、でも、なんというかさ、視線が痛いんだけど」
千尋は周りをキョロキョロと見回す。
さっきから、近所のおばさま方が、千尋と遥を見て、こそこそと何かを話している。
「どうでもいいだろ、そんなこと」
遥はそう言い捨てると、再び歩き出した。
同時に、手を繋いでいる千尋も歩き出す。
(どうでもよくないだろっ‼‼ 絶対勘違いしてるよ、あの人達‼)
そんなことを考えながら、千尋は小さな溜息をついた。
(普通、男子高校生が手を繋いで帰ったりしないっての……。しかも恋人繋ぎだし)
千尋は、時々遥が何を考えているのかわからなくなる。
もう何年も一緒にいるはずなのに。
千尋はそれが、なんとなくもどかしかった。
しばらく歩き続けて、二人はそれぞれの家の前についた。
「じゃあな、ハル」
千尋は、そう言って、自分の家の玄関へと一歩踏み出そうとした。
しかし、繋いだままの遥の右手がそれを許さなかった。
「ちょ、ハル?いいかげん離せってば」
「嫌だ」
いつまでも手を離さない遥に、千尋はそう言ったが、すぐに拒否されてしまう。
「なんで……」
「キスしろよ。したら離してやる」
「は⁉ 何言って……今朝もしただろ!」
いきなりの遥の要求に、千尋は思わず大声をあげた。
しかし……
「関係ない」
ばっさりそう言い切って、遥は「ほら、早くしろよ」と不適に笑った。
(あーもうっ‼ この我儘大魔王がっ)
仕方なく、千尋は背の高い遥のために背伸びをすると、遥の頬に口づける。
その際、誰も見ていないことをきちんと確認するのを忘れなかった。
「……よくできました」
遥は、ニヤリと笑いながらそう言うと、やっと千尋の左手を解放した。
(なんかムカつくなぁ。
でも、なんだかハルの不機嫌もなおったみたいだし……よかった)
そう一安心して、玄関を開けたのもつかの間。
「チヒロっ‼」
と、遥に呼び止められて。
千尋は、嫌な予感がしながら、遥の方へ振り返った。
「今日、夕飯食ったら俺の家に来いよ。後で今日のこときっちり説明してもらうって言ったよな」
遥にそう言われて、千尋は苦笑いを浮かべながら、ぎこちなく頷くことしかできなかった。
今回は短めです。
遥はキスは自分からするより、相手にさせる派ですね(笑)