非日常-放課後の教室
午後4時50分
「気おつけー、れーい」
かったるそうな日直の声を最後にホームルームは終わりを告げた。
生徒たちは、それぞれ部活やら、帰宅やらで次々に教室を出て行く。
そんな中、
帰宅部である千尋は、憂鬱な気分で机に座ったまま窓の外に視線を移した。
すると、同じクラスで、千尋と同じく帰宅部の龍平が寄って来て、千尋の肩にぽんっと手を乗せる。
「……と、まぁ、放課後になっちゃたわけだけど、どうするの?チィ?」
どうするの?
とは、確実にあの手紙のことだろう。
それ以外に考えられない。
龍平の質問に、千尋が答えようと口を開けたとき、
ガラッと。
教室のドアが勢いよく開いて、遥が姿を表した。
突然の遥の登場に、教室に僅かに残っていた女子が「きゃあ」と色めき立つ。
「別に行く必要ないだろ。帰るぞ、チヒロ」
遥は、そんな女子には見向きもせず、教室のドアを開けるなり、開口一番にそう言い放った。
そして、ツカツカと千尋に歩みよるとガシリと千尋の腕を掴む。
「え。いや、ちょっ、待て、ハルっ」
(お前、いきなりすぎるだろっ‼)
そのまま千尋の腕を引っ張って、教室の外へと連れ出そうとする遥に、千尋は慌てて制止をかけた。
「……なんで?」
ムッとした様子で足を止めた遥は、不機嫌そうに、千尋を見つめた。
(なんでって……言われても……)
そんな遥の様子に、千尋は肩をすくめる。
「なんでって……すっぽかす訳にはいかないだろ。一応、後輩なんだし」
「でも知らない奴なんだろ?だったら、わざわざチヒロが会いに行く理由は、ない」
そう断言して、なかなか腕を解放してくれない遥に、千尋はなんとか説得を試みる。
「でも、やっぱり何も言わずに帰るのはダメだろ?せめて用件だけ聞いて、すぐに済ませるから」
「そうだよ、遥ちゃん。チィが行くって言ってるんだから、行かせてあげなきゃな」
龍平も味方して、遥はギロリと龍平を睨みつけた。
「遥ちゃん」と言う呼び方が気に入らなかったのだ。
あまりの眼力に、ビクッと龍平は肩を震わせ、「ゴメン」と小さく謝る。
「な、いいだろ?ハル……」
千尋は、上目遣いに遥を見て、懇願した。
遥の方が背が高いため、上目遣いになるのも当然だ。
「……………」
遥は、そんな千尋をジッと見つめて、やがて千尋の腕を掴む手を緩めた。
そして、溜息混じりに言った。
「…………わかった。待ってるから、用件だけ聞いたら、すぐ帰るぞ」
「本当かっ 。 ありがとな、ハル」
腕を解放され、なんとか幼馴染からの許可を得た千尋は、嬉しそうに笑った。
遥は、それを複雑な顔で眺める。
それから、「すぐ戻るから」と言いながら、千尋は手を振って教室から出て行った。
走り去る千尋の背後姿を見送った龍平は、「さて……」と言いながら、座っていた椅子から立ち上がった。
「それじや、俺達も行く?どうせ大人しく待つつもり、ないんでしょ」
龍平は言いながら、教室のドアに手をかけた。
そして、ニヤリと楽しげな笑みを浮かべる。
まるで、いたずらを思いついた子供のような笑みだ。
「当たり前だろ」
一方遥は、相変わらず不機嫌そうな、冷ややかな表情で言って、龍平の後に続いた。
目的地はもちろん、校舎裏のイチョウの木だ。
次の回でいよいよ年下キャラ登場(予定)ですっ‼