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恋の領域  作者: ばあむ
3/15

非日常-下駄箱

朝7時20分。


千尋と遥の二人は、何事もなく学校に到着した。


二人の通う、神代高校はバリバリの進学校で、朝から課外が行われる。

それに合わせて、電車に揺られ、駅から歩いて学校に通うのだ。




「おはよ~!! 遥くーんっ」

「おはようごさいます~‼ 遥せんぱーいっ」


校門に入った瞬間に、群がる女子の黄色い声が飛び交う。

その騒がしい声に千尋は耳を塞ぎたい衝動に駆られた。

一方、遥は女子の声などまるで耳に入っていないかのように華麗にスルーして、スタスタと歩き続ける。


まったく、毎朝毎朝、よくやるものだ。


千尋は、もううんざりだ、と溜息をもらした。


校門に群がる女子は、遥の姿を一目見ようと毎朝こうして待ち伏せ、ハートマークつきの挨拶をするのだ。


もちろん、目的は遥であって、隣を歩く平凡な男子高校生である千尋など、彼女達の眼中にない。

それどころか、''なんであんたみたいな平凡な奴が隣あるいてんのよ"とでも言いたげな視線すら感じる。


(もう、マジで勘弁してくれ)


俺だって、好きで自分の平凡さをひけらかすために、こんな容姿端麗な幼馴染の隣を歩いているわけじゃない。

ただ、この我儘大魔王な幼馴染が、


『せっかくお前と同じ学校受けて、受かったんだから、一緒に行ったっていいだろ。てか、一緒じゃないと学校なんて行くか』


なんて、ふざけた事を言うから仕方なく……。


千尋は、ぶつぶつと心の中でボヤきながら歩く。


しばらく歩き、下駄箱に近づくにつれて、騒がしかった女子も減ってきた。


さすがにクラスまで一緒という訳にはいかず、千尋と遥は少し離れた別々のクラスの下駄箱へと向かう。


(……ん?なんだ、これ)


千尋は、下駄箱を開けると中に見覚えのない白い封筒を見つけて、首を捻った。

そして、手を突っ込んで、封筒を取り出したとき、


「おっはよう、チィー」


という声がして、ばんっと背後から背中を叩かれる。


「……おはよ、リュウ」


叩かれた所を痛そうにさすりながら、振り返った千尋は、自分より数センチ背の高い友人、瀬名 龍平(セナ リュウヘイ)に挨拶を返した。


「ああ、すまん、強く叩きすぎちゃったか……って、なに?その封筒」


龍平に指差され、千尋は先程取り出した白い封筒に視線を落とした。


「ああ、これ?なんか、下駄箱の中に入ってて……」


「なに‼ 下駄箱に?まさか、ラブレターかっ⁉ 」


千尋の言葉に、テンションをあげた龍平は、目を輝かせる。


(ラブレター⁉俺に?)


まさかとは思いながらも、千尋は期待を膨らませた。


ついに自分にも春が来たのかもしれない、と。


「チィ、開けてみれば?」


龍平に言われ、千尋が恐る恐る、封筒を開けようとした瞬間、


「見せろ」


と。

低い声がして、背後から伸びてきた手に、封筒を奪われてしまった。

その封筒を奪った手が誰のモノかなんて、いちいち確認せずともわかる。


「ちょっ、返せよ、ハル‼」


千尋は、声をあげて、後ろを振り返った。

そして、思わず固まった。


遥が、不機嫌MAXな様子で封筒を手にしていたからだ。


遥は、機嫌が悪いと何をしでかすかわからない。

それを知っているだけに、千尋も、龍平も、その場にいた生徒も、ハラハラと遥の様子をうかがう。


遥は、封筒を裏返すと、


「差出人の名前、書いてねーぞ」


と、ボソリと漏らした。


「だったら、別に読まなくてもいいよな」


言葉は疑問形なはずなのに、有無を言わせない遥の口調に、千尋はつい頷きかける、が。


(いやいやいや、ダメだろ‼ 読む必要あるって‼ 俺の春が来たかもしれなのにっ‼)


ぶんぶんと勢いよく首を振って、遥の言葉を否定した。


「ほら、なんか重要なことかもしんないし、中に名前あるかもしれないだろっ」


必死で話す千尋を見て、遥は小さく舌打ちをすると、しぶしぶといった様子で千尋に封筒を手渡した。


とりあえず、封筒が戻ってきた事に、千尋は安堵する。


「開けてみろよ」


つづいて、遥に命令口調でそう言われ、千尋はゆっくりと封筒を開けた。


そして、中に入っていた紙を広げる。

そこには、


「桐谷 千尋先輩へ


今日の放課後、大事なお話しがあります。もしよかったら、学校裏のイチョウの木の下にきてくれませんか?

待ってます。」


と。

丁寧な字で書いてあった。


(これって、マジでラブレターなのかっ⁉ 先輩ってことは、後輩かっ)


書いてあった内容に、千尋のテンションもあがる。

……しかし。


「一年五組、倉田 総司(クラタ ソウシ)……? 総司ってことはまさか……」


手紙の最後に記された差出人の名前に、千尋はガックリと肩を落とした。


(総司って完全に男じゃねーかぁっ‼)


「まぁ、そう落ち込むなよ、チィ、ドンマイ」


肩にぽんっと手を置かれ、言われた龍平の言葉に、さらに千尋はさらに気落ちする。


(……俺にも春が来たと思ったのに)


というか……


紛らわしいことするなよっ、倉田 総司っ‼


千尋は、天に向かってそう叫びたい気持ちなるのだった。


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