日常-朝
「キス、しろよ」
平日、金曜日の朝6時。
いつものように、寝起きの悪い幼馴染を起こすために、わざわざ隣の家まで出向いた桐谷 千尋(キリタニ チヒロ)は、何とも言えない状況にあった。
「ほら、さっさとしろよ。じゃないと起きないから」
ベットの中で不機嫌そうにキスの催促する幼馴染の櫻川 遥(サクラガワ ハルカ)を見て、千尋は溜息をこぼす。
(この、我儘大魔王め……)
心の中で毒づきながらも、千尋は遥のおでこのあたりに、そっと触れるだけのキスを落とした。
この幼馴染の我儘は、今に始まったことではない。
それに、一度言い出したら中々強情で、諦めの悪い遥の性格を熟知している千尋は、大人しくキスをした方がてっとりばやいと判断したのだ。
「ほら、これでいいだろ。さっさと起きろ」
「……唇にしろよ」
「は?」
なおも、とんでもない我儘を言う遥に、千尋は呆れる。
一方遥は、やっと起き上がる気になったのか
、のそのそとベットから起きあがった。
(だいたい、幼馴染で、しかも男同士でキスするのも変な話だろ……)
千尋はそう思うのだが、このキスは、幼少の頃からずっとしてきた習慣のようなもので、特に抵抗があるわけではない。
ただ、小さい頃はともかく、高校生になった今でもその習慣が残っているのも、どうかと思うのだ。
もし、同じクラスの女子が、遥とこんな風にキスをしていると知ったら……。
(俺、殺されちゃうかもな)
千尋は、目の前で着替えをしている遥を見て、そんなことを考える。
なぜなら、遥は学校で一、二を争うくらいの超絶美形なのだ。
そこら辺のモデルよりも整った顔に、それに見合った引き締まった身体。
小さな仕草や動作も、どこか品があって、目が離せなくなる。
幼少からの付き合いで、すっかり慣れてしまったはずの千尋でさえ、時々見惚れてしまうほどだ。
そんな遥を女子が放っとくわけがなく、入学したての時は、告白が絶えなかった。
が、今では遥に告白しようなどという、勇気のある女子は少ない。
告白した女子は皆、こっぴどく振られるからだ。
どんな可愛らしい女の子でも、である。
(一体どこに不満があるのやら……)
千尋は、遥のそういう所は不思議だった。
まあ、どっちにしろ遥は、ファンクラブがあるくらい人気で。
いくら男であるといっても、遥とこんな風にキスをしていることが知られたらまずいだろう。
絶対にバレないようにしなくては。
と決意をする千尋をよそに、着替えを終えた遥は「行くぞ」と千尋を促した。
これから、千尋の家に行って二人で朝食(千尋の手作り)をとって二人で登校する。
これも、幼少からの習慣。
遥の両親は仕事で海外に行っているのをいいことに、遥は桐谷家に入り浸っているのだ。
桐谷家で朝食を取り終えた二人は、玄関から外に出る。
「「行ってきます」」
こうして、
二人のいつも通りの日常は幕を開けた……はずだった。
説明文が長々としていてすみません(-。-;
いきなり妄想全開でスタートします!!