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恋の領域  作者: ばあむ
13/15

バースデー②

「で、千尋。倉田になにされた?」


「何されたって….….…何が?」


学校が終わり帰宅後。

話があるからと、櫻川家に呼び出された千尋は、着替えを済ませるとすぐに遥の部屋へと向かった。

櫻川家の玄関は既に開放されていたので、「おじゃまします」と挨拶してから足を踏み入れる。

そして、遥の部屋を軽くノックして……返事がなかったのが気になったが……そのドアを開けた時だった。

千尋は、思わず息を飲んだ。

目の前で不機嫌そのものの遥が仁王立ちしていたのだ。


「は、ハル…….?」


呼びかけた千尋の声は、驚きと緊張のせいか震えている。


(な、なんでこんな機嫌悪いんだよ)


恐らく、千尋が櫻川家に呼び出された理由こそが、この遥の機嫌の悪さの原因なのだろう。

しかし、正直なところ千尋には思い当たる節がなかった。


「とりあえず、座れよ」


口を開いた遥が、低い声で言った。

恐る恐る、遥の様子をうかがいながら、千尋は床に腰をおろす。

もちろん、正座である。


そして

冒頭に戻る。


「で、千尋。倉田に何された?」


いきなりの質問に、千尋は困惑した。

何のことかサッパリだ。

何故、突然倉田の名前が出てくるのかも、わからなかった。


「何されたって……何が?」


つい、そう聞き返すと、遥はさらに不機嫌そうに眉を寄せる。


「今日の昼休み、お前が倉田に呼び出されてホイホイついって行った挙句、空き教室に連れ込まれたらしいじゃねぇか」


「….….…え?….….あ」


遥のやけにトゲトゲしい言葉に、ようやく今の状況が見えてきた。

どうやら、遥は、千尋が倉田に呼び出され、まんまと空き教室に連れ込まれたことについて言っているようだ。

そして、そのことが遥の不機嫌を引き起こしているらしい。


これは、早いとこ誤解(?)を解かなくては、と千尋は思った。

……しかし、その前にやらなくてはならないことがある。

情報の出処を確認しておかなくては。


「ハル、それ誰から聞いたの?」


「んなの決まってんだろ、龍平だ」


なるほど……

と納得してから、千尋は龍平を恨めしく思う。

空き教室に連れ込まれたことまで知っているということは、後をつけていたに違いない。

さらに、ご丁寧にそれを遥に報告するとは。


(龍平のバカヤローっ‼)


と、千尋は心中で叫ぶのだった。


「それで、どうなんだよ、千尋」


「べ、別に何もないよ」


「じゃあ、なんの用事で呼び出されたんだ」


責めるような口調に、なんだか浮気を疑われる恋人のような気分になって、千尋はムッとした。

ムクムクと反抗心がわきあがる。


「なんでハルにいちいち言わなきゃいけないんだよっ、ハルには関係ないだろ」


「関係ないわけないだろ、俺は……」


「お前が心配だから言ってんだろ」という言葉を、遥は寸前のところで飲み込んだ。


(何やってんだ俺は……)


冷静になれ、と遥は自分に言い聞かせる。

こんなの、自分らしくない。

第一、千尋と喧嘩するために呼び出したわけではないのだ。


「………千尋が話したくないなら、別に話さなくてもいい」


溜息混じりにそう吐き出す。

遥の珍しい態度に、千尋はなんだか居心地がわるくなって、気まずそうに口を開いた。


「今度の日曜日暇かって訊かれたんだ。その日、倉田試合らしくて、俺に応援に来て欲しいって」


千尋の台詞に、遥は舌打ちしたくなる。


倉田が、まさかそんな約束を取り付けようとしていたとは。

それも遥の知らない所で。


(油断のならないヤローだな。龍平に監視を頼んでいて正解だった)


自分の知らない所で、千尋と倉田が二人きりで出かけるなんて、遥には許せなかった。

なぜかはわからないが、無性に腹が立つのだ。

だから、わざわざ龍平に千尋の監視まで頼んだ。

龍平は何も訊かずに、すぐに了承してくれたが。


「…………行くのか?その、応援に」


遥がそう尋ねると、「行くわけないじゃんっ」と千尋は即答し首を横に振った。


「だって……ほ、ほら、その日は大事な日だから……」


「大事な日?………何かあるのか?」


「へ?」


(もしかしてハル、自分の誕生日忘れてる?)


首を傾げる遥に、千尋は目を丸くする。

どうやら、遥は自分の誕生日だということに気づいていないらしい。

千尋はこんなに気にしているというのに、まさか当の本人が忘れてしまっているとは。

そのことになんとなくショックを受けながらも、千尋は口を開いた。


「誕生日だよっ‼ ハルのっ」


千尋がそう言うと、「ああ、そういうことか」と遥は頷く。

それから、考えこむように腕を組んで呟いた。


「『大事な日』か………」


「誕生日は誰にとっても大事な日だろ?………ハル、その日一日はちゃんとあけておいてよ。お祝いすれるから」


「…….……無理だ」


「え……⁉」


「その日は先約がある」


予想外の遥の返答に千尋は驚きとショックが隠せなかった。


誕生日は一日一緒に過ごす。


それが、千尋にとっては当たり前のことで。だから、誕生日は特別な日なのだ。

現に、去年も一昨年もそうやって過ごしてきた…………はずだったのに。

まさか、誕生日を忘れていた上に、先約があるなんて。


ガーンッという音が聞こえてきそうなほどショックだったが、千尋はなんとかぎこちない笑顔をつくった。


「せ、先約があるなら仕方ないよな………。ハルにもいろいろ事情があるだろうし」


(そうだよ。俺もハルももう高校生。いつまでも二人一緒ってわけにはいかないんだ)


千尋はそう折り合いをつけたが、その心はどんよりと曇ったままだった。










亀更新で申し訳ないですっ(>_<)


感想を書いてくださった方っ‼

本当にありがとうございますっ‼

かなり返事遅くなってしまい申し訳ございませんっm(_ _)m

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