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恋の領域  作者: ばあむ
12/15

バースデー①

休日に倉田が家に訪ねてくるというアクシデントはあったものの、千尋の周辺は割と落ち着いていた。


どうやら、サッカーの試合が近い倉田は、部活でずいぶん忙しいらしい。

そんなわけで、倉田の登場以来、降下し続けていた遥の機嫌も戻りつつあった。

やっと戻ってきた平穏な日常に千尋はホッとしていた。…………が。


それはまさに、嵐の前の静けさというものだった。


ことの発端は、倉田が突然千尋のクラスにやって来たことによる。


「千尋先輩っ‼」


初め、教室のドア越しに手を振る倉田に、千尋は驚きを隠せず、困惑した。


「チィ、呼んでるよ、後輩くんが」


龍平に促されて、千尋は倉田のもとへと駆け寄る。

ニコニコ笑ながら手を振る倉田は、まるで耳と尻尾の生えた大型ワンコのように思えた。


「どうしたの、いきなり……」


「先輩にお知らせしたいことがあるんです」


「お知らせしたいこと……?」


千尋は首を傾げる。

一方、倉田はこちらに注目している教室の生徒達を一瞥してから、千尋の右手をとった。


「とりあえず、ここじゃ目立つので場所を変えましょう」


千尋の返事を待たず、倉田は千尋の手を引いた。

そして、なんだか訳がわからないうちに、倉田に連れられて誰もいない空き教室へと入ることになる。

教室に連れ込まれてからしばらくの間、千尋は倉田が話を切り出すのを待った。

しかし、一向に倉田が話出す気配はない。


「………倉田?」


ついに沈黙に耐えられなくなった千尋は、怪訝そうに倉田の名を呼ぶ。

名前を呼ばれると、倉田はうっすらと笑みを浮かべた。

いつものワンコのような人懐こい笑みではない。

嫌な予感がした。


「………先輩ってほんと、無防備ですよね」


「は?」


「だって、俺は先輩のこと好きなんですよ?なのに、こんな簡単に人気のないとこに連れ込まれちゃって……」


言いながら、倉田はジリジリと千尋との間合いを詰め始めた。

それに合わせて、千尋も壁側へと後退する。


「倉田、お前、何言って………」


「この前だって家の中にまで入れちゃうし。無警戒にも程があります。俺、心配ですよ」


「くら……」


名前を呼びかけたところで、ついに千尋は壁に背中をぶつけた。

完全に追いこまれてしまった形だ。

すかさず倉田は壁に手をつき、逃げ場をなくす。


(何これ、デジャヴ?)


最初に倉田から告白のされた時のことを思い出す。

この後輩はいつもやり口が強引だ。


「先輩……」


倉田は、そのまま千尋へ顔を近づける。

唇が触れそうなくらいの至近距離。

千尋は一瞬息を呑んだが、すぐにキッと倉田を睨んだ。


(俺は先輩なんだから、ここで怯んでたまるかっ‼)


という、先輩としてのプライドの芽生えからだ。

そんな千尋の思いを知ってか知らずか、倉田はプッと吹き出した。


「冗談ですよ、冗談っ。俺、先輩に嫌われたくないですから。用件は別にあるんです」


倉田は、可笑しくてたまらないといった感じで笑いながら、千尋と距離をおいた。

とりあえず、ホッと胸を撫で下ろす。


「よ、用件ってなんだよっ……」


「来週の日曜日、暇ですか?」


「え……」


「その日、試合があるんです。それで、先輩に応援に来てもらいたいんです。俺の……ために」


来週の日曜日……


千尋は頭の中で、試合の日の日にちを割り出すと、すぐさま首を振った。


「ごめん。その日は無理なんだ」


「えー……どうしてですか、何か他に用事でもあるんですか?」


あからさまにしょんぼりと、大型ワンコの耳と尻尾を垂らして、倉田は残念そうな声音で言った。

そんな倉田に苦笑しながら、千尋は頷く。


「うん。その日は、すっごく大事な日だから、さ」


「……….そうですか。わかりました。なら、諦めます。でも、もし暇になったら来て下さいねっ」


「うん……」


「いきなり、教室に来ちゃったりしてすみませんでした。それじゃ、用事はそれだけですから」


退き際はアッサリと。

それもこの後輩の特徴だ。

倉田は手を振りながら、空き教室から出て行った。

一人ポツリと残された千尋はフーッと息を吐く。


(来週の日曜日、か……)


その日は千尋にとって、一年に一度の特別な日だ。


彼の自慢の幼馴染、櫻川 遥の誕生日なのだから。



というわけで、遥バースデー編始まります。

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