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エピローグ〜唯一無二の存在〜


私は寝室で目を閉じて千隼様の胸に両手を当てたまま、全神経を集中させる。小さな熱が集まってきてそれが瘴気とぶつかると消滅する不思議な感覚があった。


(今のが……浄化?)


「……あの、千隼様いかがでしょう?」


「ああ。瘴気が浄化された、ありがとう」


私は自分の両手を繁々と見つめる。今までと変わったところはないが、祈りを捧げるようにこの手に神経を集中させると触れているものを浄化したり、癒したりすることができるようだ。


「ナユタマルが言っていたことは本当みたいだな」


「ええ」


マルはあのあと色々なことを教えてくれた。

自分は鬼童子に長らく山に封印されていたが、鬼童子の復活が近いことから、自分にかけられていた封印が解くことができたそうだ。

そして長い封印で弱った身体を休めようと神堂家にやってきたとき私に出会った。私の食事を食べたり、私がマルを撫でたことでマルは徐々に元の姿や言葉を取り戻すことができたそうだ。


ほかにも桜天女は実在したこと、神堂家の当主が災いに見舞われた代に転生をし、その度に妻として支え助けになってきたことも話してくれた。


桜天女の今世での姿が私であり、私には天授の力があるということを聞いた時は本当に驚いたが、天授の力は夫となる神堂当主の妻になり、始めて開花するということを聞き、納得する自分もいた。


「集中して手を当てると不思議な感覚がしますが、まだ私が桜天女の生まれ代わりだなんてとても信じられません」


「そうか? 俺は今の浄化でさらに確信したがな」


私は手のひらを握ったり開いたりを繰り返してみる。


「ナユタマルの話と今までのことを照らし合わせれば全て納得がいく。真白のその天授の力をもつ手から作り出された物や触れたものには、浄化や癒しの力が宿るのだろう。だから俺の鬼紋の一部も消えたんだ」


「でも、どんなに手を当てて祈りを捧げても千隼様の残りの鬼紋が消えないのはなぜなのでしょうか……?」


マルから桜天女の生まれ変わりだと聞いた私はすぐに千隼様の体に手を当てて鬼紋が消えるよう祈りを捧げて見たが、残りの鬼紋は消えなかったのだ。


「あの時、マルは千隼様になんと言ったのですか?」


マルは鬼紋が消えないと嘆く私を横目に何やら千隼様に耳打ちしていたのを見たのだ。

千隼様は不自然にこほんと咳払いをする。


「それは……そのなんだ。夫婦仲良く暮らしていればそのうち消えるだろうと言っていた」


「えっと……夫婦仲良くと言われましても……具体的な策はわからないのでしょうか?」


「ああ、それは……そのなんだ」


「? やはり千隼様は何かご存知なのですか?」


「いや……知らない」


そう言ってなぜだか頬を僅かに染めた千隼様を見ながら私は首を傾げる。


「今度マルが来たら聞いてみます」


マルは人間界に留まるには神獣界に届出が必要だとかなんとか言って、また姿を消してしまったのだ。


「その必要はない」


「え……?」


ふいに千隼様の手が伸びてくると私をふわりと抱えて膝に乗せる。


「あ、あの……」


「真白……お前に言っておきたいことがある」


「なんでしょう?」


千隼様の吐息が耳元に触れて、心臓が音を立てる。


「俺はお前ずっと前から知っていた。だから妻にしたんだ」



「……え?」


「十年ほど前に偶然山で会った女の子と朝日を一緒に見たことがあってな……」


(十年前……朝日を一緒に?)


心臓が期待から駆け足になっていく。


「……もしかして……あの時、鬼から私を助けてくれたのは千隼様なのですか?」


「真白も覚えていてくれたんだな。あの日から……お前がいつも心の真ん中にいた。生まれてきた意味があると信じようと言ってくれたお前をずっと忘れられなかった」


目の前の千隼様と赤い瞳の男の子の姿が重なるって涙がはらりと溢れ落ちる。千隼様がそっと私の涙を拭う。


「真白を愛してる。生涯、俺のそばにいてくれ」


「……はい……っ」


ずっと誰かに必要として欲しかった。生まれてきた意味が欲しかった。


そしてようやく私は巡り会えたのだ。


私を愛して必要としてくれる、世界でたった一人の愛しい人に。


鬼童子の復活は近い。けれど怖くなんかない。


二人で寄り添い手を取り合えば、どんな困難もきっと乗り越えていける。



「千隼様、愛しています」


赤く優しい瞳を見つめてから目を閉じれば、優しい口付けが落とされた。




2026.3.23 遊野煌




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