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第1話 迷宮サポート課――迷宮からの通信を受ける仕事

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

「こ、こんにちは……」


 おう。いらっしゃい。え、ここで働きたい? 


「はい……そうです。仕事、探してます」


 冒険者希望か? だったら一階の受付で登録してくれ。

 ……違う? 冒険者じゃない?


「えっと、ギルドで! 

 冒険者じゃなくて、ギルドの職員を希望してます」


 うちで働きたいと。ははぁ。アンタ変わってるね。

 大抵、うちに来るやつは冒険者になりたいって乗り込んでくるんだけどな。


「冒険者って、モンスターと戦いますよね……。

 そういうのは、ちょっと……戦いは苦手です。

 あの、ギルドの受付とか、雑用でもいいので、募集してませんか?」


 ……なるほど。戦闘は得意じゃなくて、受付希望、と。

 どれ。じゃあ、ちょっとばかしスキルチェックをさせてくれ。

 まずは、アンタ、文字は書けるか? 書けるんだな。よし。

 魔法はどうだ? 一般魔法が少しか。

 魔力量は……どれ、この測定具を握ってみろ。

 ……よし。問題なし。魔道具も連続使用できるな。


 そういや、前職は何してたんだ。


「チキュウで、簡単な事務作業を少し。

 電話をとったり、パソコンで入力したりです」


 あー、チキュウってのはどこだ。聞かない地名だな――あぁ、異世界ね。


「すみません! えっと、魔力はなんかこっちに来た時に、あって……。

 で、でもそれで戦闘は出来ないです。戦うなんて、チキュウではなくて……」


 落ち着きな。異世界から来たなら戦闘が苦手でも不思議じゃねぇ。

 別にそれが悪いとは思わないぜ。マイナス要素になったりもしねぇから安心しな。


「……はい」 


 いいか。世界には世界のルールがある。

 そんでもって、自分の世界の常識を押し付けるのはマナー違反だからな。


 ってことは、あれかい?

 異世界からこっちに来て、生活のために稼ぎたいってことか。


「そうです。こっちに転移した時に神様にもらったお金がなくなってしまうので。

 その前に、自立の手段が欲しいんです」


 そうだな。何をするにも金は重要だ。気持ちは分かるぜ。


 ただな、一つ言っておく必要がある。

 ギルドの受付は国家資格が必要でね。

 学院を出て試験に受かるか、もしくは実績を作ることだな。

 冒険者としてBランク以上で五年働く。こっちでもいい。

 受付を目指すなら、そのどっちかだ。


「こ、国家資格!? そんなに大変だったんですか!?」


 おう。ギルドの受付ってのはな、誰でもなれる仕事じゃない。

 見た目ほど楽じゃねぇんだ。

 書類は山ほどあるし、現場に出ることもある。


「ええ! 受付の人なのに、現場にも出るんですか……。

 小説とは違う。冒険者に仕事を紹介したり、金銭管理したり。

 てっきり事務作業ばかりだと思ってたのに……。それじゃ、私には無理、ですね」


 ……おいおい、そんな顔するな。

 何も受付だけがギルドの仕事じゃない。

 他にも戦わなくてもできる仕事はたくさんある。

 迷宮に潜らなくてもいい。座ってできる仕事がな。


「そんな事務のような仕事が他にあるんですか」


 もちろん。あるさ。

 冒険者からの連絡に応答して、質問に答えて、サポートする。これだけだ。

 あそこはいつも人手不足だから、すぐに紹介出来るぜ。


 そうだ。ちょうどいい。見学してくか?

 ここの三階さ。ほら、ついてきな。


 ***


 ここが総合ヘルプセンターだ。

 冒険者からの問い合わせは、全部ここに来る。

 ここで、問い合わせ内容を確認したあと、専門の部署に通話が転送される仕組みだ。


 アンタに紹介するのは、専門部署の一つ。

 迷宮サポート課ってところだ。

 迷宮サポート課は、迷宮で起こったトラブルに関する問い合わせを受け持つ部署さ。

 迷宮に潜ってる冒険者から通信を受け取って、遠隔でサポートする。


「それってつまり、コールセンターってことですね」


 何? コールセンターだって? 

 へぇ、そっちの世界にも似たような仕事があるのか。

 そこでの勤務経験もあるって? ふぅん。それじゃ、もしかしたら案外適職かもしれないな。


 さて。中に入ったら、声は落としてくれ。

 対応してるサポーターの邪魔になるからな。

 あと、ここで見聞きした情報はこの場所以外では他言禁止だ。

 顧客のプライバシーだとか色々あって、違反すると法で罰せられるから気を付けな。


 お、ちょうど対応が入ったな。良く見ておけ。


「迷宮サポートが承ります」

『あの!! 水がなくなりました!!』


 あぁ、こりゃ新人冒険者からだな。声で分かる。


 この手の問い合わせは多い。

 食料不足、水不足、薬切れ。矢や弾薬が尽きた、とかな。

 俺たちは口酸っぱく言ってるぜ。

 潜る前に、余裕を持って準備しろって。命に関わることだから、当然さ。


 それなのに、大半がなんとかなると思ったんですで突っ込む。

 で、なんともならねぇんだ。

 新人は経験不足から。経験者は慢心と油断でやらかす。

 よくある話さ。悲しいことにね。


「落ち着いてください。まずは冒険者IDを教えていただけますか?

 また、現在、攻略中の迷宮内で水が不足してる状況で間違いないですか?」

『水が、ないです。その、もう限界で……どうしよう、このままだと依頼を達成できないよ』


 やっぱり。新人からの問い合わせだったな。

 熟練なら、まず真っ先に冒険者IDを伝えてくる。

 IDさえ分かれば全部の情報が出る。ランクも場所も迷宮もな。

 だから熟練者は最初にIDを伝えたほうが、スムーズに回答がもらえると理解してるのさ。

 俺たちもIDを教えてもらったほうが、無駄なやり取りが発生しなくて済む。


「私が責任を持ってサポートします。現在位置は分かりますか?」


 現在進行中の問い合わせ。迷宮攻略に必要な水が不足してる状況だな。

 この問い合わせ内容は簡単だ。

 このままサポーターがどう対応するか見てみよう。


『だ、第三層です!!』 

「第三層、かしこまりました。出現するモンスターは分かりますか?」

『も、モンスター……ブラッドコウモリ、サンドマン、あと、ゴーレムみたいなやつ?』


 モンスターのラインナップからすると、ピラミ迷宮か。

 馬鹿みたいに暑い、砂漠みたいな迷宮だな。

 そこで水が無くなるのは致命的だろうに。何やってんだか……。


「迷宮第三層、ブラッドコウモリ、サンドマン、それとゴーレムのような存在。

 ピラミ迷宮の第三層ですね」

『あ、そうです! 思ったより暑さがキツくて、予想より早く水を使い切ってしまったんです。

 お願いします。助けてください……』


 ほらな。ピラド迷宮。ドンピシャだ。

 IDを聞けなかったから、ああやって出現モンスターで、冒険者を特定したぞ。

 どんな些細な情報も聞き逃さない。それが冒険者に繋がる可能性があるからな。


 おい、サポーターの手元を見てみろ。

 端末に冒険者が迷宮のどの辺りにいるか、表示されているだろ。


「わぁ。あれって、モニターとキーボード? 入力しながら通信対応してる。

 チキュウのサポートセンターそのまんまだ」


 これで準備は整った。さぁ、案内が始まるぞ。


「確認しました。すぐ近くに給水所がございます。

 現在、向いている方向から左手に進んでいただくと、上への階段に到着します。

 階段の近くに給水所がありますので、ご確認ください」

『よ、よかったぁぁ……確認してみます』


 これで必要な案内は完了。

 あと、今回は新人冒険者からの問い合わせだから、フォローアップも必要だな。


「階段には一階への帰還装置もございます。

 もしも、攻略が難しい状況でしたら、状況に合わせてご活用くださいませ。

 そのほか、お手伝いできることはございますか?」


 どうだ。分かったか? 熟練者だったら、今の案内は省略される。時短のためだ。

 新人、ということでプラスで案内したのさ。


「な、なるほど。しっかりテンプレ化してて、マニュアルまで完備されてる。

 完全にコールセンターだ」


 帰還装置の説明をすることで、暗に無理はせず引き返すこともできるという選択肢を提示する。

 この一言が、新人冒険者の生存確率が上げるんだ。

 案外、重要なことなんだぜ。


『あぁ、そうなんですね……分かりました。中断も視野に入れてみます。

 他は大丈夫です。対応ありがとうございます!』

「とんでもないことです。迷宮攻略頑張ってください」


 これで通信終了。ここまでで対応時間は五分もかかってない。

 簡単な問い合わせだから、こんなもんだろう。

 ほら、次の通信が来たぜ。


「迷宮サポートが承ります」

『増員依頼! IDは■■■■。現在メンバーは二人だ』


 増員の問い合わせだな。これもまぁまぁ多い。

 それで、IDは言える程度の余裕はある、と。


「IDを確認します。少々お待ちください。

 ……現在位置、確認しました。ネクロン迷宮、第五階層。ランクD二名で間違いないですか?」


 は……? ネクロン迷宮? 

 ランクDの冒険者がたったの二名で五階層まで降りた?

 嘘だろ……自殺願望かよ。


『あー……うっかり、落とし穴で階層をスキップしちまったんだ……。

 でも聖職者がいたから、ボス部屋まで到着してて。

 なぁ、頼むよ。増員をよこしてくれ。せっかく来たんだから、ボスを討伐して戻りたいんだ』

「……至急確認いたします。保留にしますので、このままでお待ちください」


 手上げか。ちょっとここで待っててくれ。


「エスカレ……手上げ対応ですよね! どうぞどうぞ! 

 私にかまわず、すぐ行ってください!」


 悪いね。すぐ戻ってくるからな!


「お願いします!」

「おう、保留ナイス判断だ。結論としては、増員は推奨しない」

「トラップによるボス部屋へのイレギュラーな到着に該当するので、増員は難しいと。

 一応、パーティに適正職業の聖職者がいますが……それでもダメってことで合ってます?」

「合ってるぜ。聖職者がいてもダメなもんはダメだ。

 増員はお断りをして、大人しくボス手前の転送装置で帰還するよう、誘導してほしい。

 ごねるようなら、命の保証はできないと伝えてくれ。そのうえで、増員の依頼をかけることはできるが、必ず手配するって約束はできないことも案内してほしい」

「了解です……おまたせしました。恐れ入りますが、増員については対応が出来かねます――」


 待たせたな。今回はちょっとイレギュラーな問い合わせだったぜ。

 罠が絡む時は、慎重に情報を聞き出す必要がある。

 今回、もしも通常の増員として対応していたら、増員した冒険者にも被害が出る可能性があった。

 気を付けて対応しないと、とんでもない大損害を引き起こすってことだ。


「……お問い合わせありがとうございました。

 引き続き、よろしくお願いします」


 ああ、なんとか引き下がってくれたか。


「ごねられると、しんどいですよね。分かります」


 全くだ。とにかく、何とか解決出来て良かったぜ。


「お疲れさん。十分休憩取っていいぞ」

「あ、チーフ。先ほどは助かりました。了解です、ちょっとリフレッシュしてきますー」


 冒険者稼業は危険と隣り合わせってのはアンタも分かるだろ?

 見ての通り、ほとんどが切羽詰まった状況の問い合わせだ。

 だから、サポーターは一本でも多く通信を取ることが求められる。

 そして、対応には常に速さが求められるんだ。

 一本でも多く対応できれば、その数だけ冒険者が救われるんだからな。


「責任重大ですね」


 そこが、サポーターの難しさであり、やりがいでもあるってことだ。

 ただまぁ、安心しな。適度に休憩もある。

 それにイレギュラーが起これば、すぐベテランのサポーターが手助けしてくれるからよ。


 とまぁ、こんな感じの業務内容だが、どうだ?


「なんというか、本当に前の仕事、チキュウでの仕事にすごく似てるって思いました。

 この部署ほど、速さは求められなかったですけど」


 はは、そりゃいい。適職ってやつかもしれないぜ。

 どうだ、異世界でも同じように働いてみないか。


 ん? また次の通信だ。今日も大繁盛してやがる。


「迷宮サポートが承ります」

『ドラゴン! 迷宮にドラゴン出現です!!』


「ドラゴンって……。あはは……。

 さすが、異世界の問い合わせはスケールが違いすぎる」


 ……はは。


 まぁ、こういう仕事さ。

 正直に言うぜ。この仕事は忙しいし、危ないし、責任も重い。

 ひょっとしたら、冒険者より辛い仕事かもしれねぇ。


 でもな。自分が一本でも多く取れば、その分だけ誰かが助かる。

 迷宮サポート課はこの場所で、冒険者と一緒に戦ってる。そんな仕事だ。


 ここまで聞いて、どうだ。

 アンタ、この仕事。やってみるか?

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