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大魔王女、婚活の旅に出る!  作者: 小鳥遊
一つ目の国:Fairytale After all
11/56

11.フィリップ・アースティア・メルエル公爵について

展開上での動きがない説明回となります。

動き始めるのは次回から。

 王女と騎士が王宮に戻る。

 とにかく一刻も早く戻る必要があるので、昼には宿を出るという。

 王宮へは馬車であれば昼夜問わず飛ばしても丸二日かかる。

 王女がここにいるのは極秘事項なので、西の砦に寄るわけもいかない。

 途中馬に乗り換えて距離を稼ぐと騎士は言った。


 そう語る騎士と王女の間に流れる空気感は、先ほどとは少し違っている。

 二人の従者は目ざとく気づいたが、主のお嬢様は安定の鈍感ぶりを発揮しているようだ。

 先刻の罪滅ぼしとばかりに、あれこれお世話しようとバタバタしている。


 その襟首をひっつかんでスケディライダスが隣の部屋に連れていき、そこで王女に持たせる荷物を整えることにした。


 ミトが封印を解く呪を唱える。

 窮地、というほどではないが時間的には危急といえば危急である。

 魔の力が戻ってきたカークは、主の命に従って公爵身辺を探りに飛んだ。彼の力は身体強化に特化している。王都まで馬車で二日なら、カークであれば半日だ。


 スケディライダスは指で空に図を描く。

 あっという間にドレスが二着とその他諸々旅行用品がテーブルの上に現れた。

 それをカーペットバッグに詰め込んで、ミトたちは王女と騎士が食事をとっている部屋に戻った。


「今お召しになっているドレスでは、一目で貴族令嬢であることが知れます。こちらに私のもので恐縮ですが、新しいものを用意いたしましたので、ご着用ください。それから御髪を今から整えさせていただきます。アップにして、帽子をご着用頂いたら、おそらく王女様とは誰にも気づかれぬと存じます」


 本気になればミトにだってこれくらいのことは言えるのである。

 スケディライダスにどや顔を向け、それからツンと澄まして付け加えた。


「殿方は隣室へご移動願います。今から王女殿下のお召し替えをいたしますので」


 王女と二人きりになった部屋で、ミトにはまずやらなければならないことがあった。

「ファルミア様。先ほどは申し訳ありませんでした。ご不快な思いをさせてしまいました」

 椅子に座った王女は、目の前で膝を折るミトの手に、その手を添えた。

「いいえ、よいのです。貴女がわたくしのためを思って言ってくださったこと、よくわかっておりますよ」


「感謝します、ファルミア様…。それで、ついでに、なんですけど」

 謝罪を済ませた、と思ったら早速元の素に戻り、ミトが王女に身を寄せる。


 他に誰もいないけれど、念のために小さな声で、ミトは王女に耳打ちした。


 ――なんとしても、婚約の儀を先延ばしにしてください。少なくとも一週間。


 なぜ、とは王女は訊かなかった。

 彼女はわずかに顎を引くと、

「了解ですわ」

 とだけミトに伝えた。



 そして二人は、王都へ向かって宿場を発っていった。




 カークが戻ってきたのは翌日の朝だった。


「さすがは大魔王閣下直属。仕事が早い」

 スケディライダスがあまり心のこもっていない賞賛を送る。

 カークは相方を見もせずにスタスタと主の前に歩み寄った。

「取り急ぎ、ご報告いたします」

 懐から紙を取り出して、読み上げ始める。


「フィリップ・アースティア・メルエル公爵。現在20歳。

 5年前に父親のオースティン・メルエル公爵が死去。15歳でオースティンの正妻リジー・メルエルを後見として公爵家を継いでいます。

 フィリップはオースティンが使用人に手を付け生ませた子で、リジーと血縁はありません。

 生まれてすぐ生母とともに屋敷を追い出され、貧民窟で育ったようです。

 6歳のときに母親が事故死。雇い主が遺品整理をしたときにメルエル公爵家の家紋入りの書簡をみつけ、フィリップを伴って屋敷に訪れて存在が発覚。

 以降メルエル家に養子として引き取られ、次期当主としての教育を受けています。

 正妻リジーは13歳でオースティンに輿入れしたものの、彼が死ぬまでに子はできていません。よって現在メルエル家に跡継ぎとなれる子は存在しません。

 ここまではよろしいですか」


 一気に読み上げて、カークが紙から目を上げる。


「うん、わからない!」

 満面の笑みのミトに、スケディライダスが噛み砕いて説明しなおす。

「つまりフィリップは使用人の息子で6歳まで極貧生活を送っていた、ってことです」


「なるほど。生粋の生まれも育ちも貴族って人じゃないのね。でも経歴云々はもういいので、肝心のフィリップ本人について教えてください」


 ミトのお行儀のよいお願いに、カークは紙を折りたたんで直しながら言った。

「それについてはご自分の目でお確かめになるがよいかと。リジー・メルエルは2年前公爵家から実家の伯爵家に戻っています。その伯爵家が、明晩夜会を開催するそうです。彼女のエスコートは常に義息子のフィリップ公爵だそうですから、夜会に出席すれば、ご本人を見られますよ」


「カーク!天才!よくやった!」

 盛大に拍手しながらミトが立ち上がる。

 往復の時間を考慮すれば、数刻でこれだけの情報を調べ上げてきたのだ。

 スケディライダスではないがグレゴリ王直属御庭番の底力恐るべしである。


 褒め上げられて、カークも満更でもなさそうだ。

「因みに、商工会の事務所にドレスティアーノ産の鉱石販売経路拡大の相談とりつけましたんで、その会長経由で夜会に潜り込めるようにしてきました」


 できる男、カーク。


 そしてもう一人の男。


 ミトは銀髪の従者に顔を向けて、にまあっと笑う。

「な、なんですかお嬢」

 悪い予感はもはや悪寒となってスケディライダスを襲う。

「夜会に出席するための準備、よろしく」

 長身の彼の肩にミトの両手が力強く置かれる。

 スケディライダスは張り付いた笑顔で仕方なく頷いた。


次から婚約相手の公爵が出てきます。

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