第9話 野生の魔物
翌朝。
俺たちは、昨日に引き続きシルマリルの樹の実を朝食にした。
「これほど美味しいものを食べてしまうと……もう、イモには戻れませんわ……」とミュリが呟いていたのを聞いて笑ってしまった。
でも、気持ちはわかる。
ジューシーで甘く、後味まで爽やか。イモの味気なさとは天と地の差がある。
今日の昼もこれだなーなんて思いながら、俺はウツセミの山の書を取り出した。
>山ポイント:13800
ついに大台に乗ったか……
グリーンスライムによる雑草処理にプラスで、グリーンスライムをバジリスクが捕食するたび50ポイントずつ加算されるおかげで、これまで以上の速度で貯まっていく。
このまま行けば、山の環境整備もぐっと加速しそうだ。
俺はシルマリルの樹の実を齧りながら、ウツセミの山の書をパラパラとめくっていく。
それにしても、召喚できる魔物の種類が知らないうちにずいぶんと増えてきたな。
ワイバーンやメタルスライムといった何となく姿が想像できる魔物以外にも、アクアロドンやディノス、モルホーンなどの馴染みのない魔物まで並んでいる。
植物も、ドルジィ根や神珠苔、鳳緋花など、知らないものばかりだ。
まあ、異世界の植物の名前なんて、知らなくて当たり前だけど。
鉱石は──まだ相変わらず少ないな。
銀鉱石に金鉱石──
「ミスリル、か……」
異世界でもしばしば ”最上位の金属” として扱われるミスリル。
きっとこの世界でも希少で、価値のある鉱石なんだろうが……
「山の中に埋蔵される……使いづらいよなぁ」
ミュリさんの言っていた、「鉱石はこの山の中に埋まる形で召喚される」という説明を思い出す。
魔物や植物のように、目の前に現れてくれるならともかく、どこにあるかも分からない鉱石を探し出し、更に採掘するなんて、今の俺にはできないしな。
まあなんにせよ、どこかで腰を据えて、この本の内容をしっかりと読み込む時間を取りたいところだ。
ふと、気になって最後のページに目をやる。
そういえば、俺のレベルって今どうなってるんだろう?
= = = = = = = =
>人間 Lv. 10
>【体 力】 12
>【魔 力】 10
>【攻撃力】 10
>【防御力】 10
>【敏捷性】 10
= = = = = = = =
お、レベルが10に上がってる……!
グリーンスライムを大量に駆除したから、経験値が溜まったのかもしれない。
というか、体力だけ何故か少し高いな。
これはまさか、雑草抜きで体力が鍛えられた、ってことか?
そんなことを考えていると、ミュリさんとアサさんが声をかけてきた。
これから、シルマリルの樹に水をやりに行くという。
俺もあの樹の根元に敷き詰めたネバルグラスの様子が気になるので、一緒についていくことにした。
三人でシルマリルの樹の広場へ向かうと、そこには予想もしなかった光景が広がっていた。
「ま、魔物!?」
広場の上空には、シルマリルの樹に群がるように、大鷲ほどの大きさの鳥が何羽も旋回していた。
「カムビだな。シルマリルの匂いにつられて来たんだろう」
「カ、カムビ?」
アサさんの話によれば、こいつらはカムビという野生の魔物らしい。
今まではこの山に寄りつかなかったが、シルマリルの樹が現れたことで様子が変わったようだ。
「このままでは、実が全部食べられてしまう。弓があれば、私でも追い払えるのだが……」
アサさんがそう言うので、俺は隣のミュリを見る。
「そんなもの、持っておりませんわね……」
「ですよね……」
「どうしたものか……」
三人で悩んでいると、ギャアアッと甲高い鳴き声が頭上に響いた。
見ると、カムビの一羽がシルマリルの枝に舞い降り、今にも実をついばもうとしている。
「くそっ!! 俺たちのなのに!!」
どうにかして追い払わないと……
俺が攻撃できれば、山の中なので一撃で倒すことができるはずなんだが……
だが、地上からじゃ手も足も出ない。
「何か、良い手はないか……」
俺は縋るような気持ちで、ウツセミの山の書を開いた。
──要は、空を飛ぶアイツらに攻撃できればいい。
ということは。
「こっちも飛行系の魔物、ということでワイバーンを召喚します!」
「──待て。ワイバーンは溶岩地帯のような高温環境に生息する魔物だ。召喚しても環境の変化に耐えられるか……」
アサさんの冷静な指摘が飛ぶ。
確かに、図鑑にも溶岩地帯に生息する旨が書かれていた。
……アサさんの言う通り、召喚できたとしても、こっちの環境に適応できなければ意味がない。
なるほど、魔物も生き物である以上、周りの環境が大切なのか。
じゃあ──俺が次に目をとめたのは、こいつだ。
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【魔物名】 グリフォン
【種 族】 幻獣種
【コスト】 11000
【解 説】
鷲の頭部と巨大な翼、そして獅子の胴体を併せ持つ幻獣種。
全身は強靭な羽毛に覆われており、物理攻撃や熱・冷気に対して高い耐性を有する。体長はおよそ6メートルに達し、翼を広げた際の翼幅は15メートルを超え、騎乗用としても最上級の性能を誇る。
飛行能力は極めて高く、持久力・速度ともに優れており、嵐の中を突き抜けることも可能とされる。
また、極めて高い知能を持ち、言語による意思疎通が可能と言われる。主との絆を何より重んじ、忠誠を誓った者には命を懸けて仕えると伝えられる。
その威容と気高さから、「王の乗騎」として崇拝されることも多い。
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