第2話 ウツセミの山の書
「まあ、分かりやすい能力なので理解はできました。でも、”山での活動” って具体的にどうすればいいんですか?」
「例えば、雑草を取ったり、山で魔物が亡くなったり──要するに、山での活動ですわね」
そのままだ、という突っ込みは置いておき。
つまり、俺が頑張って草を刈ったりすれば、それだけで山ポイントがもらえるわけか。
で、その山ポイントで魔物とかを召喚して、山を豊かにしていく、と。
「じゃあ、現在のポイントを確認したり、ポイントを消費して魔物とかを召喚するにはどうすればいいんですか?」
「こちらです!」
ミュリが待ってましたと言わんばかりに何かを手渡してきた。
それは、一冊の古びた本。
「……本?」
「ウツセミの山の書、ですわ! そこには、現在の山ポイントが書かれていたり、色々召喚できたりしますの!」
「な、なるほど」
俺としてはもっと、スマホのようなハイテクなアイテムを想像していたが。
目の前に表示されるウィンドウとかね。
少々拍子抜けだが、まあそれはいいとして。
ミュリさんから手渡された本に目を落とす。
表紙には「ウツセミの山の書」と大きく手書きで書かれている。
そしてその下には、
>山ポイント:0
とだけ書かれていた。
「これが、俺の今の山ポイントなんですかね? ゼロって、初期ポイントはないんですか」
「そんなものありませんわ! クロノ様の手で稼いでくださいませ」
「は、はぁ……」
こういうのって、最初からガッツリとポイントが与えられていて、それを使って最初から色々できるイメージだったのに。
ガッカリしつつも本を開いてみる。
すると、中はほとんどのページが、なんと白紙だった。
「ミュリさん、ほとんど白紙なんですけど…………」
「それはあたり前ですわ! 現在の山ポイントで召喚できるものが表示されますので!」
そうか、じゃあ山ポイントがゼロの今は、何も表示されないのか。
それでも一応何か書かれていないか確認していくと、
本の一番最後のページに、俺のステータスが書かれていた。
= = = = = = = =
>人間 Lv. 1
>【体 力】 1
>【魔 力】 1
>【攻撃力】 1
>【防御力】 1
>【敏捷性】 1
= = = = = = = =
お、オール1…………
まあ、戦うつもりなんてないからいいんだけど。
「クロノ様、そこに表示される魔物、植物、鉱石は、山ポイントを消費することで自由に召喚することができるのですが、注意点もございますの」
「注意点?」
「鉱石は、この山に埋蔵される形で召喚されるのです!」
「……なるほど?」
要するに、魔物や植物は目の前に召喚することができるが、鉱石だけはそうではなく、山中にランダム生成されるってわけか。
俺が興味深くウツセミの山の書をペラペラ見ていると、ミュリが急に俺の手を取った。
「クロノ様! 物は試しです! 早速、山で雑草取りをしてポイントを稼ぐのです!」
「ちょ、ちょっと!」
強引にミュリに引きずられる形で、俺たちはウツセミの山に入っていった。
そこはミュリから聞いていた通り、雑草と枯れ木以外に何もない、まさに枯れた山だった。
さらに道中、一切の生物に遭わないという徹底ぶり。
土もひび割れており、これでは例え作物の種を植えても育たないだろう。
それはつまり、考えなしに植物を召喚しても、すぐに枯れてしまうということだ。
……魔物を召喚しても同じだな。エサがない。
そんなことを思いつつ、ミュリとやってきたのは山の中腹にある広い原っぱ。
雑草が生い茂る、ひとの手が一切入っていない感満載の草原だ。
「さあ、クロノ様! 張り切ってどうぞ、ですわ!」
「えっ?」
「え、ではありませんわ! ほら、雑草を抜いて、山ポイントを稼ぐのです!」
……俺、異世界に転生しても雑草毟りやらされるの?
「あ、ああ、はい」
俺は言われるがまま、近くにあった草を掴み、力いっぱい引っ張る。
ブチッ。
……抜けた。
早速、ウツセミの山の書の表紙を見て見ると。
>山ポイント:1
「い、いち…………」
もしかして、これを延々やるのか?
ミュリの方を見ると、なんだか嬉しそうに俺の方を見てるだけだ。
はいはい、やりますよ。
…………
…………
…………
ひたすら雑草を抜き続けること30分。
「こ、これでやっと100ポイント…………」
腰が悲鳴を上げる中、やっと100ポイントの大台まできた。
「クロノ様ー! 頑張ってくださいー!」
……手伝って、と言いたいところだけど、小さな少女にそんなことは頼めない。
はあ、頑張ろう。
…………
…………
…………
「も、もう無理…………」
更に30分後、俺の体は限界を迎えていた。
デスクワークばかりで衰えた30代後半にはキツ過ぎる。
「クロノ様、お疲れ様です! お昼休憩ですわ!」
「おおっ!」
途中からどこかに行っていたミュリだが、どうやら昼食の用意を持ってきてくれたようだ。
確かに、腹も減ってきた。
おにぎりとか最高だな。この田舎の景色を眺めながら。イイ。
そんな期待いっぱいの俺にミュリが手渡してきたのは──
「い、イモ?」
「はい! これで午後も頑張ってくださいまし!」
……まさか、俺は奴隷ですか?
でも、もらったものに文句はつけられない。
手渡された芋を齧ってみる。
…………うん、芋だ。
味気ない、甘みも少ないイモ。
美味くもマズくもない、イモ。
……はあ、いつまでこんなことをしなければならないんだ。
俺はイモをかじりながら、なんとなくウツセミの山の書を手に取る。
表紙をチラッと見ると、まだ176ポイント。
さっきの30分よりも雑草抜きの効率が落ちているな。
俺はため息をつきながら、本をペラペラとめくっていく。
「おっ!」
山ポイントが貯まったことで、召喚できるものがいくつか表示されていた。
ネバルグラスやクロハミユリ、ネモリカハーブといった知らない名前の植物が並んでいる。
どれもコストは50ポイント程度。でも、今は用が無さそうだな。
そして、魔物。
スライムやゴブリン──どれも聞いたことがあるな。
そしてそれぞれの魔物のページには、図鑑のような内容が記載されていた。
何か今すぐ役立つ魔物はいないか、と、上から眺めていく。
ガルム──狼型の魔獣種らしい。
ゴブリン──亜人種で、群れを作るそうだ。
スライム──ポヨポヨした粘体生物。
…………ん?
「グリーンスライム…………」
俺は、スライムとはまた別の魔物──グリーンスライムの欄に目を止めた。
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【魔物名】 グリーンスライム
【種 族】 スライム種
【コスト】 100
【解 説】
腐肉や汚染物を好む一般的なスライムとは異なり、植物のみを摂取する珍しいスライム。
体表は薄い緑色で、スライム特有の粘液と柔軟なゲル状構造を持ち、身体を潰されてもある程度なら再凝縮して復活できる高い再生力を備えている。
食性は厳密に植物質に限られるため、通常のスライムが好む腐敗物や動物性の素材にはまったく興味を示さない。林や草原などで野草や雑木の若芽、芽吹いたばかりの植物を好んで吸収し、体内の独自の酵素で分解・エネルギー化していたとされる。
穏やかな性格で生物を襲うことはないが、その食性のために農作物を荒らしてしまうため、人々によって大々的な駆除が行われた結果、絶滅したと言われている。
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「これだっっっ!!!」
俺は勢いよく立ち上がった。