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第17話 そらをとぶ

「さて、これでモグルに乗って、バルダールという人の街に行けるようになったわけだが……どうする、クロノ。早速行ってみるか?」


「えっ!? あー、そうですね……どれくらいかかるんだろう」


「歩いて一日半、とミュリが言っていたな」


「はい! そう聞いた覚えがありますわ!」


「……ほう、まあいい。ということは、モグルなら……そうだな、二時間もあれば十分だろう」


「えっ、そんなに早いんですか!?」


「当然だ。モグルの機動力は、騎乗魔物の中でも屈指だ。それに、空を飛べば直線距離で向かえるからな」


「そ、空を飛ぶ……。ちなみに、グリフォンに歩いてもらって行くと、どのくらいですかね?」


「半日はかかるな。しかも道に不慣れだと、迷う可能性も高い」


半日──。

それなら流石に空飛んで二時間の方が、いいよなぁ……。


「……俺、高いところ──というより、浮遊感が苦手なんですよねぇ」


正直に打ち明けると、アサさんはふっと口元を緩めた。


「ふふ、それならモグルに言ってみればいい。飛行中もできるだけ安定させるように、気を付けてくれるはずだ」


「……モグル、そういうことできたり……?」


不安半分で尋ねてみると、モグルは大きくゆっくりと頷く。

モグル、本当に俺の言うことを理解しているんだな。


「モ、モグルがそう言うなら……」


「よし、じゃあ移動手段は決まりだな。あとは──今日、いや、今すぐにでも出発するかどうか、だが。どうする?」


アサさんが腕を組み、こちらを見る。


「そうですね……」


今日は特に予定もないし。

むしろ今のうちに街へ行って、この世界の常識や人間社会について知っておきたいかな。

文化や言語、貨幣制度、政治体制とか。


「はい。早速ですが、向かいましょうか」


こうして、俺たちは今すぐバルダールに向かうことにした。





「じゃ、じゃあ乗るぞ」


俺は意を決して、モグルの前へと歩み出た。


すると、何も言わずともモグルが伏せの姿勢をとってくれる。

い、いい子過ぎる……。

軽く背中を撫でてやってから、俺はモグルの背中によじ登る。


背中の感触は想像よりも柔らかく、そして広い。

まるでソファに座っているかのような安定感だ。



「クロノ、これがパラグナ草で作った命綱だ。落ちないように、しっかり固定しておけ」


「えっ、いつの間にそんなものまで……」


思わず驚く俺の胴に、彼女が手際よく命綱を巻きつけていく。

しなやかで強靭な草の縄は、驚くほど肌馴染みがよく、それでいてしっかりと体をホールドしてくれた。


「これで安心だな。私が前に乗るぞ」


アサさんが軽やかな身のこなしでモグルの背にまたがり、俺の前に収まる。


「ミュリ、乗らないのか?」


見ると、ミュリさんがなんだか悲しそうな顔で俺たちを見ていた。


「わ、わたくしは遠慮しておきますわ! よ、用事がありますものっ!」


ミュリさんの語尾がわずかに上ずっていた。


「よ、用事……?」


つぶやく俺の視線を、アサさんがちらりと横目で受け止める。

その瞳は「深くは聞かないでやれ」とでも言いたげだ。


よくよく考えたら、俺ってミュリさんのことをあまり知らないなぁ。

どうしてこんな山奥に一人で住んでいるのか、とか。

家族、職業、過去──考えてみれば、どれも聞いたことがないし。


けれど、無理には聞かない方がいいか。


「それじゃあ、行ってくる。──美味しいものを買ってきてやろう」


「是非!!! お願いいたしますわ!!」


「モグル!」


アサさんが名前を呼ぶと、モグルがぐっと翼を広げる。

そして一度、二度と大きく羽ばたくと、地面を蹴り上げ、ふわりと宙に浮かび上がった。


「お、おおっ……!!」



浮き上がる瞬間、ふわりと身体が持ち上がる感覚に思わず声が漏れてしまう。

しかし、不安よりも先にこみ上げてきたのは、胸の奥から湧き上がる高揚感。


山の木々が下へと遠ざかっていく。眼下に広がるウツセミの山が、まるで別世界のように美しく見えた。


……なんだ、全然怖くないぞ?

飛行機すらも不安で仕方ない俺が、不思議なほど、安心して身を任せられる。


「それでは、バルダールに向かう」


「行ってらっしゃいませ、ですわ~!!!」


大きく手を振るミュリさんに見送られながら、俺たちはバルダールに向かってゆっくりと飛び立った。


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