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第16話 エルフとの主従関係……

次の日の朝。


軽く伸びをしながら広間へと足を運ぶと、何やらミュリさんがすでに待っていた。


「おはようございます、クロノ様!」


ミュリさんが俺を見つけて駆け寄ってくる。


「おはようございます。……どうしたんですか?」


何か異常事態かと思ったが、すぐに顔に出るミュリさんに焦っている様子はないので、そうでは無さそう。


「アサさんから伝言が! 『グリフォンに乗る用意ができたからシルマリル広場に来てほしい』──とのことですわ!」


「え、もう……!?」


「もう、ですわ!」


何故かミュリさんが胸を張って返答する。


──昨日、パラグナ草やガルムの毛皮などの素材を入手したばかりのはず。

数日はかかると思ってたけど、たった一日で……さすがアサさん。


俺が感心していると、ミュリさんがこれまた嬉しそうに、小皿を掲げながら一歩前に出てきた。

皿の上には、瑞々しく光るシルマリルの実が五切れ。


「今日の朝食ですわ! これで今日も元気に頑張りましょう!」


「……あ、ありがとうございます。でも、二切れくらいで十分ですよ」


またシルマリルの実か……。


「そんな遠慮なさらずとも! これはクロノ様の能力でゲットした、とびきり美味しい食べ物なのですから!」


美味しい。

確かに美味しいが、毎日──いや、毎食果物は流石に辛いんだよな。

肉と味噌汁と白米が恋しい……。


でも、こんなに目をキラキラさせているミュリさんを断れない……。


「じゃ、じゃあ三切れで! 残り二切れはミュリさんが食べてください」


「わたくし、もう四切れも食べてしまいましたの! ですので、この五切れは全部、クロノ様が召し上がってくださいませ!」


「え、えぇ……」


純粋無垢な笑顔でそう言うミュリさんを断ることはできず、

結局俺は、朝から五切れも胃の中に押し込む羽目になった。





なんとか胃に収めた俺は、ミュリさんと並んでシルマリル広場へと向かう。

その道中。


「──! クロノ様、あれって!!」


ミュリさんが指差す先──そこには昨日確認したバジリスクの巣。

枯れ枝と石を組み合わせて作られたそれは、やはりそのままの形で残っている。

しかし。


「えっ……もう孵化してる!?」


巣の中には、すでに人の子くらいの大きさになっているバジリスクが、ざっと十匹。


「もうお生まれに! おめでたいですわ!!」


能天気にそう言うミュリさんを尻目に、俺は違和感を覚えていた。


流石に孵化までが早すぎないか?


もちろん、俺はこの世界の ”魔物” という存在について──ひいては、この世界の常識を全然知らない。

もしかしたらこれが普通なのかもしれないし。

けど、こんな大きくて、人の脅威になりそうな魔物がこのスピードで増えて、この世界の人間は大丈夫なのだろうか?


……もしかしたら、この世界の人間はバジリスク程度は脅威にも感じないほど強かったり?


そう思いつつ、俺はミュリさんに合わせて返事をする。


「そうですね、山もよりにぎやかになりますね」


まあ、この山の中であれば、俺は《山を管理する能力》のおかげでバジリスクを一撃で倒すことが出来るはずだし、増えすぎても大丈夫かな。


「はいっ! 嬉しい限りですわっ!!」


「ふふっ、そうですね」


ミュリさんの無邪気な笑顔に、俺も笑みがこぼれた。





シルマリル広場に着くと、なんとアサさんは既にモグルを乗りこなしていた。

パラグナ草を編み込んだ手綱をしっかりと握り、バジリスクのウロコとガルムの毛皮で作られた鞍の上に腰を落としている。


地上を走らせてみたり、少し飛んでみたりと、色々確認中のようだ。


「おはようですわ!」


「おはようございます、アサさん」


俺たちが声をかけると、気づいたアサさんが既に慣れた手つきでモグルを地上に着地させ、飛び降りた。


「おはよう。……すまない、クロノ。断りもなく、先にモグルに乗ってしまった」


アサさんは小さく頭を下げる。


「い、いえ! そんな、謝るようなことでは……」


「モグルはクロノが召喚した魔物──言うなれば、クロノが主だ。今後また乗るときは、先に一声かけさせてくれ。今回は色々確かめておきたくてな」


「なるほど……そういうものなんですね。でも、モグルも俺のことを主だなんて思ってないと思いますけど」


苦笑しながらモグルに目線をやると、モグルが一歩前に出て頭をそっと俺の胸元に擦りつけてきた。


「ふふっ、どちらかというと、懐いているように見えますわね!」


ミュリさんがぱっと頬を緩める。


「……正直に言うと、クロノの召喚は私が知る限りでもかなり特殊だ。召喚されたものは召喚主に従うのがよくある召喚だが」


「アサさんもクロノ様に召喚されましたけど、従っている、という感じではありませんものね」


「……それはクロノが命令してこないだけで、私としては何でも従うつもりだ」


「な、なんでも……?」


──視線が思わずアサさんの体へと向かう。


引き締まった褐色の太もも、しなやかに鍛えられ、くびれた腹部。

そして、布の上からでも分かるほどの、はちきれんばかりの巨乳。

キリっとした顔つきとはギャップが大きすぎる身体……。


……って、いやいや、ダメだ、ダメだぞ俺。

いくら召喚主の命令に従うからって、そういう命令をしたらそれはセクハラだ。

俺はそういうのは絶対にしないって決めてるんだから。


「あ、アサさん、からかわないでくださいよ!」


アサさんの冗談は、心臓──いや、色んなところに悪いな。

ちゃんと流せるようにならないとな……。


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