第14話 召喚:グラニル
「それよりも──このガルム、貰ってもいいか?」
アサさんがすっと視線を向けてきた。
「え?」
「素材に使いたい。毛皮をモグルの鞍に使えそうだからな」
アサさんはそう言いながらガルムに近づく。
確かに、モグルを召喚したときに「リフォンに乗って街に行くために、鞍や手綱を作る」とアサさんが言っていたな。
「かなり状態がいい。蹴りで倒したので傷もない」
毛並みや眼、牙などの状態を一通り確認し、アサさんは小さく頷いた。
「なるほど。俺も別に使うつもりもなかったので、お好きに使ってください」
「そうさせてもらおう」
そう言って、アサさんはガルムの体を軽々と持ち上げる。
「……よっ、と」
担ぎ上げたガルムをシルマリル広場の端まで運ぶと、丁寧に地面に横たえる。
「さあ、続けてくれ」
「あっ、はい」
アサさんに促されるまま、次なる魔物を召喚する。
ここからは、召喚に必要な山ポイントがグッと増加するみたいだ。
お次は、グラニル──900ポイントの魔物。
馬のような魔物みたいなので、アサさんの騎乗用に使えそうだな。
俺はウツセミの山の書を開き、ページをスワイプした。
底に現れたのは、黒い軍馬のような、筋骨隆々の魔獣。
グラニルは召喚されてすぐ、辺りをキョロキョロと警戒しだした。
「おっと、グラニルか」
アサさんは慣れた様子でグラニルの背後回り込むと、するりと尻尾を掴んだ。
「どうしたんですか?」
「グラニルは、非常に臆病な魔物でな。すぐに逃げる上に、脚が速くて中々捕まえられない。だが、尾を握られると落ち着くという性質があってな」
たしかに、尻尾を掴まれた途端、グラニルはぴたりと動きを止めた。
先ほどまでの警戒心が嘘のように、静かに鼻を鳴らし、地面に顔を近づけている。
「ほんとですね。急に大人しくなった……」
「あとはこうして──よっ」
アサさんは自然な動きでグラニルの背へと乗る。
「華麗な動きですわね……」
「私は慣れているからな。グラニルならミュリだって乗れるぞ。ほら」
「わっ!」
アサさんが手を引くと、ミュリさんは抵抗する間もなく、そのままアサさんの背後にすっと座らされた。
「──わ……! 全然、暴れませんのね……」
「ああ。グラニルは慣れさえすれば初心者でも問題ない。さて──次はクロノの番だな」
そう言うとアサさんはグラニルから降り、再びグラニルの尻尾を掴む。
「えっ!? いや、俺は……」
「遠慮しないでくださいませ! クロノ様なら余裕ですわ!」
ミュリさんもグラニルから降りると、遠慮なく背中をグイグイと押してくる。
……仕方ない、やってみるか。
「わ、分かりました、やってみますよ……!」
「うむ、その意気だ。なに、ミュリですら乗れたんだ。簡単だ」
「……その ”すら” が地味に気になりますけど!」
「冗談だ。ほら、クロノ」
アサさんが手を差し伸べてくる。
少し逡巡しながらも、その手を取る。
「そう、そこに手をついて、体を持ち上げてみろ。──ほら、簡単に乗れた」
拍子抜けするほど、すんなりとグラニルの背に体が収まった。
思っていたよりも安定していて、どっしりとしてる。
「──お、おおっ……!!」
背の高さもあって、地面が随分遠くに見える。
それに、グラニルの上から見える景色はなんだか格別で、ちょっと感動してしまった。
「……へぇ、俺でもちゃんと乗れるもんですね」
ちょっとした達成感に浸っていると。
「ほら、放すぞ」
「えっ、えっ、ちょっと待って!?」
アサさんがグラニルの尻尾から手を離したことで、グラニルが前に歩き始めた。
「う、うおぉっ!!」
俺は反射的に体勢を崩し、そのまま地面に振り落とされてしまった。
「えっ、ク、クロノ様!? だ、大丈夫ですの!?」
「いつつ……」
見ると、あざになってて、ところどころ擦り傷で血が。
まあ大ケガってほどではないけど、地味にイヤなケガだな。
「す、すまない……まさか……これほど……」
アサさんが言葉を濁す。
はい、そうなんです……運動音痴なんです……
「いや、アサさんは気にしないでください。大したケガじゃないですし、何事も経験です」
「そ、そう言ってくれるとありがたいが……」
「でも、やっぱり痛そうですわ……家に戻れば、薬草があったはずです! わたくし、取ってきますわ!」
「あ、ちょっと待ってください!」
俺は駆けだそうとするミュリさんを制止する。
「わわっ、どうしたんですの?」
「薬草だったら、召喚できないかと思って」
「──あっ、なるほど! その手がありましたわね!」
「はは……いや、自分で馬から落ちてこのザマなんですが……」
俺は苦笑しながら、ウツセミの山の書を開いた。
そろそろクロノたちが街に行くそうです……




