第12話 召喚:スライム
さて、名前もつけたところで、そろそろ本題といくか。
「そろそろ、魔物を召喚していこうと思います」
俺は二人、そして一匹の顔をそれぞれ見る。
「今朝話していた、お試しというやつか」
「はい。自分がどんな魔物を召喚できるのか把握しておくのも大事ですから」
その前に、いったんウツセミの山にいる魔物たちの現状を整理しておこう。
グリーンスライム──増殖中。もはや数は不明。
バジリスク──2匹。タマゴもあり。
グリフォン──モグル1匹。おりこうさん。
一方、植物の状況はというと。
雑草や枯木──まだまだ健在。グリーンスライム軍団が消化を続けている。
シルマリルの樹──1本。俺たちの貴重な食糧源。
ネバルグラス──多量。シルマリルの樹の周囲に絨毯のように展開中。
──とまあ、こんな感じか。
俺は、早速ウツセミの山の書を開く。
スライムにゴブリン、ガルム……まあ、順番に召喚していくか。
とりあえず、スライムのページを開く。
必要な山ポイントは100──この程度なら何も考えず召喚できるな。
早速、スライムを召喚する。
すると、目の前に黄土色の塊が姿を現した。
「──うっ! くっっさ!!!」
開口一番、俺は吐き気と共に叫んだ。
生ゴミと吐瀉物が混じり合った、とにかく強烈な臭いが周囲を支配する。
「う、ううぅ……気分が悪くなってしまいますわ……」
ミュリさんが小さな花をつまんで顔を顰める。
「……あ、アサさん!?」
振り向くと、アサさんがばたりと仰向けに倒れていた。
鼻をつまみつつ、急いで駆け寄る。
……辛うじて意識はありそうだ。
「……エ、エルフは臭いに弱い……は、早くどうにかしてくれないか……」
「は、はいっ!!」
俺は急いで錆びついた剣を握ると、鼻をつまみ、息を止めてスライムに近づく。
「うぉぇ……えいっ……」
できるだけ離れた位置から、錆びついた剣をスライムにぶつける。
するとスライムはすぐさま破裂し、その場に飛び散った。
──徐々にこの世の終わりのような臭いは霧散していき、やっと俺たちは普通に呼吸が出来るようになった。
「ひ、酷い臭いでしたわね……」
「……助かった。エルフは嗅覚が人間と比較にならないほど優れている。スライムは天敵なんだ……」
「そうだったんですね……知らずに召喚してしまいすみません」
俺が頭を下げると、アサさんが顔をあげるように言った。
「クロノは私の召喚主だ、何も気にすることはない」
「そう言っていただけると……」
「……そういえば、緑のぷよんぷよんはぜんっぜん臭くありませんわね?」
ミュリさんがそこら中に居るグリーンスライムを見て言う。
「本来、スライムは腐肉や汚物を主食とする魔物──腐敗集がして当然だ。植物しか摂取しないグリーンスライムが特殊個体だ」
「なるほど、食べているものが違うということですのね」
「そういうわけだ。……このスライムも、汚染された環境が必要になった場合に役立つかもしれないな」
アサさんの言う通り、
きっと魔物や植物の中には、汚染された環境でなければ生きていけないものもいるのだろう。
そう考えると、スライムにも有効活用できる場面がくるかもしれないな。




