第1話 異世界転生したら、山の管理を任されました
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俺の名前は黒野真。
どこにでもいる会社員。今年で37歳になるおっさんです。
……生い立ちを話すと。
普通の家庭で生まれて、そこそこの大学を出て、まあまあの会社で勤続15年
──とまあ、何の面白みもない人生を歩んできました。
30代になって裁量も増えてくると、俺の断れない性格が災いして、俺にだけ仕事が降ってくるわ降ってくるわ。
おかげで毎日、忙殺されておりました。
そんなことは、今はどうでもよくて。
「は、はじめまして……?」
目の前に現れた少女に、とりあえず挨拶をする。
「お初にお目にかかりますわ! わたくし、ミュリシエラ・アリュス=グロティアと申します!」
「みゅ、みゅり……?」
「ミュリシエラ、ですわ! ミュリって呼んでくださいませ!」
そう言って、少女は礼儀正しく頭を下げた。
なんだなんだ、この子は。
黒髪のおかっぱで随分と和風な装いにもかかわらず、名前は中世風だな。
「ミュリ、ですね。では、ミュリさん。初めまして、クロノ・マコトと申します。あの、早速お伺いしたいのですが……」
「なんなりと、ですわ!」
「ここは、どこなんでしょう……?」
山の麓にある、ポツンと小さな一軒家。
その軒先に、俺はいつの間にか立っていたわけだ。
「ここは、ウツセミの山の麓。わたくしの家の前ですわね」
「あ、この家はミュリさんのお家なんですね」
それを聞いて一安心。
こんな中学生くらいの女の子が、こんな辺鄙な場所に一人暮らし、ってのはないだろうし、
きっとご家族がいるだろう。
ここがどこだか分からないが、周囲に他の家は見当たらないし、日が暮れたら泊めてもらえないか交渉しよう。
「お父さん、お母さんは、今は外出中ですかね?」
見たところ車が見当たらない。
こんな田舎に車無しで住んでるとは考えにくいし、おそらく車で出かけているのだろう。
「いえ! わたくし、長年一人暮らしですわ!」
「え、ええっ!?」
つい声をあげてしまう。
こ、こんな場所で一人暮らしなんて……
じゃあ、車も運転できないだろうし、どうやって暮らしてるんだ。
まさか、自給自足……いや、そんなわけないよな。
「それよりも、ようこそおいで下さいました、クロノ様! これからよろしくお願いしますわ!」
「こ、これから……?」
い、いやいや。俺は長居するつもりはないんだが。
確かに、田舎でのんびりした時間を過ごしたい気持ちはあるんだが、
俺には仕事があるし。
「はい! クロノ様には、これからこの世界で、ウツセミの山の管理をしていただきます!」
「……いや、なんで? どういうこと?」
この世界って、何を言ってるんだろう。
ミュリさんは、ちょっと不思議ちゃんなのかな?
「仕方ないですわね、わたくしがご説明しましょう!」
──こうして始まった、ミュリさんの説明によると。
俺は、いわゆる ”異世界転生” でこの世界に来たらしい。
そんな俺の使命は、ウツセミの山──目の前に広がるこの山を、かつてのような荘厳な山になるように ”管理” すること、だそうだ。
「ご理解いただけましたか?」
ミュリさんは笑顔で首を傾げる。
「……理解できたかどうか、で言われると、理解はした、んですが」
あまりにも唐突な展開に頭を抱える。
「でも、この山をどうにかしろって言われても、俺には山についての知識なんてありませんが……」
どうして俺がその役目に選ばれたんだろう?
エク〇ルの使い方しか分からない、一般社会人である俺に。
「その辺りはご心配には及びません。この ”取扱説明書” によると、クロノ様には《山を管理する能力》が授けられているそうですもの!」
「せ、説明書? 山を管理する、能力?」
能力については、そう言う類のアニメを見たことがあるので、何となく理解できる。
異世界転生した者には、他の人にはない特別な能力が与えられることが多い。
そして、その能力はまさに ”チート級” であることがほとんどだ。
でも、俺の能力は、ミュリさん──というか、説明書によると《山を管理する能力》らしい。
何とも地味というか……
というか、説明書ってなんだ?
そう思っていると、ミュリさんが何かを取り出した。
それは、昔のゲームカセットについているような、手のひらサイズの説明書だった。
「ここに、クロノ様の能力について書かれておりますわ! クロノ様がいらっしゃる前に、わたくし読み込んでおきましたの!」
誇らしげに無い胸を張るミュリさん。
……説明書があるって、なんだか拍子抜けだな。
「あ、ありがとうございます。その説明書、俺にも見せてもらえませんか?」
そう言って説明書に手を伸ばすと、ミュリさんは説明書を守るように背を向けた。
「だ、ダメですわ! この説明書は、クロノ様本人に見せてはいけないことになっているのです!!」
「え、見せてはいけないって……。誰かに言われたんですか?」
そもそも、その説明書は誰が作ったんだ。
「そ、それは……秘密ですわ! そ、そんなことはどうでもいいのです! 早速、クロノ様の能力の説明をいたしますね!」
そう言って、ミュリさんは説明書で一つ一つ確認をしながら、俺の能力
──《山を管理する能力》の説明を始めた。
ミュリさんの長ーい説明を要約すると…………
>ウツセミの山での活動により山ポイントが貯まる
>山ポイントを消費することで、魔物、植物、鉱石を召喚することができる
>山の中において、有スキル者は魔物から攻撃されず、一撃で倒すことができる
>魔物を倒して得られる山ポイントは、その魔物の召喚に必要なポイントの半分
──ということらしい。
要するに、山で色々やって得られた山ポイントを活用して、このウツセミの山を豊かにする、ということのようだ。