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メイサの現状

「そういえば、メイサはクラスでどうなの?」

「そういう杏哉は?」

「俺は今日、毎休み時間、光姫様の教室に行ってた。今後もそうするつもり。だからクラスメートと関わる機会がほぼないだろうし、話すほどじゃない。それに、炎がいるから一人ってわけでもないし。」

杏哉がメイサに今日一日の現状を問うと、メイサに逆に問い返された。それで今日一日を思い出しながら返事をする。その過程で今朝の出来事を思い出し、顔が熱くなりそうになるも、なんとか堪える。二人が揶揄ってこないので、中学棟にまでは伝わっていない様子だ。明日には中学の全校生徒に噂が伝播していると予測されるので、この貴重な時間を大切にせねば。

「ていうか…なんで俺に振ったの? メイサ、お前何かあった?」

杏哉が首を傾げてメイサの顔を覗き込むと、彼女は一刹那目を泳がせたような錯覚がした。しかし、すぐにいつもの笑顔に戻って両手を振ったので、杏哉は本人が隠したいのならば関わるべきではない、と判断し、見て見ぬ振りをした。

「ううん、特に何もないわ。アタシには真矢がいるし。」

その後、メイサは他の友人らが彼女から離れていった中、親友の真矢だけがメイサの見方をしてくれる話を語った。昨日の出来事なんて、どこぞの作り話かと思われるくらい感動的な話だった。メイサはそんな親友のことを自分のことのように誇らしげに語る。そんな中、悠は確信していた。光姫も杏哉も既に気づいている、彼女が無理して笑顔を作っている事…ではなく、彼女が本心では助けを欲している事に。

トントンと、軽いけれども気持ちが込められているような、そんなノックの音がした。

「どうぞ、悠。」

メイサは足音や気配、ドアの叩き方で扉の向かいにいる人物を当てる。メイサが内側からドアを開き、中へと招く。メイサがどさっとソファに腰掛けると、空いている隣をトントンと叩いて、悠を誘導した。

「それで、どうかしたの? 何か用?」

メイサがいつもよりも一音一音を丁寧に、ゆっくりと言葉を発した。

「メイサ、今、何か悩んでるでしょ。」

悠が単刀直入にメイサの双眸を見つめて切り出すと、彼女は目をキョロキョロと動かした。

「そ、そんなことは…。」

「隠さなくてもいいんだよ。メイサが一人で苦しんでるなら、僕にだけは話してよ。僕は永遠にメイサの味方だし、絶対になんとかするから。」

メイサが誤魔化そうとするので、悠は思い切って覚悟を決めた顔でそう言葉を被せる。

「あ…ううん、そんなに大袈裟なことじゃなくて…。実質の被害はまだ受けてないというか…。」

すると、メイサが焦ったように両手をブンブンと振った。しかし、悠の耳にはあるワードが存在を増していくように響き残る。

「被害? 一体何があったの? もしかして…いじめでも受けてるの?」

悠の核心をついた言葉に、メイサが慌ててブンブンと首を振る。

「いや…っ、そんな心配してもらうほどでは…っ。」

「心配してもらうほど? 否定しないんだね。ねぇ、話してよ。メイサをこの世で一番愛している者として…力になりたいんだ。…それとも、僕じゃ頼りないかな。」

悠が悲しそうに目を伏せたので、メイサがあたふたとする。

「ち、違うの! 悠が頼りないとかじゃなくて…。本当に、言っても仕方ないことで…。」

「でも、何かあることは確かでしょ。強制はしたくないけど、メイサが落ちこんでる姿を見るのは嫌なんだ。僕が嫌なんだよ。お願いだから、話して欲しい。」

悠があくまで自分の我儘であるように言葉を紡ぎ、メイサの心をゆさぶる。メイサは口を開いたり閉じたりを繰り返していたが、悠の真剣な眼差しを瞳に映し、覚悟を決めた。

「…わかったわ。実はアタシ…いじめられる未来を見たの。細々とした嫌がらせが予知されるから、ここで足を引っ掛けられるとか、ノートを隠されるとか、全部見えて…。だから、それを防ぐことができるのね。それで実質の被害はないから、先生に相談することもできないし、今後も防ぎ続けるだろうから、ほんと、心配してもらうほどじゃないのよ。」

メイサは自嘲めいた口調でそう語る。しかし、悠は乾き切った笑みを浮かべるメイサを鋭い目つきで睥睨するように見つめた。

「…それのどこが言っても仕方ないことなの? むしろ、言わないと誰にも伝わらない、重要なことだよ。」

「悠…。」

メイサが不安や、少し恐怖の文字を映した瞳を揺らすので、悠は自分の表情や口調がきつかったことを悟る。

「あ…ごめん。尖ってた。せっかく打ち明けてくれたのに…。」

「あ、ううん。違うの。嬉しいわ。悠がアタシのこと真剣に考えてくれて…。ごめんなさい、こんな顔しちゃって…。」

いじめられる内容が先に見えて、それを防ぐように動く。これほど皮肉なことはない。メイサは心配をかけまいと平気を装っているが、実際には相当堪えているはずだ。それなのに、悠は責めるように彼女に悩みの種を吐かせ、思い出したくない記憶を引っ張り出させた。挙げ句の果て、せっかく思い切って打ち明けてくれたのに、悠はそれを非難した。

「ううん、僕が悪い…。」

悠がメイサから目を背けて俯くと、重みを感じ、メイサが肩に寄りかかってきた。

「メイサ…?」

「ねぇ、こういう時こそ、性欲に溺れて、嫌なこと忘れない? せっかく恋人が目の前にいるんだから。」

「メイサ、言い方…。てかそんなの…根本的な解決になってな…、んっ。」

メイサの驚くべき提案に、悠は言い返そうとするも、顔を向けた瞬間、メイサに唇を塞がれる。さらに悠の開いた唇からメイサの舌端が侵入する。すぐに悠のものに辿り着き、メイサが舌を絡めとる。メイサが貪るように奥まで侵入するので、悠も躊躇いがちに絡め合う。次第に互いの脳内がただただ快感の器になり、互いが互いを求め合う。暫時唇を離しては再び重ね、情熱的な接吻を繰り返した。やがて充足感に満たされ、二人は自然と唇を離す。

「ね? 嫌なこと忘れられたでしょ? もう、細かいことは二人とも忘れましょ。気持ちよかったんだから。愛してるわよ、悠。これで万事解決、ってことで。」

「いいのかなぁ。」

メイサがぬらぬらと唾液で湿った唇を動かしながら、艶やかに笑う。今回は乾き切った笑いではなく、湿って満たされた笑いだった。悠は懸念しながらも、メイサは大丈夫大丈夫、というふうに右手を振る。

「たまには、これでいいのよ。アタシの事を心配してくれて、嬉しかったわ。ありがとう。もう暫くは様子を見て、予知がエスカレートしていくようならまた相談する。」

「うん。そのうち予知しても防ぎきれないようないじめが出てきたら、遠慮なく僕を頼って。水って脆弱そうだけど、案外強靭だから。メイサを傷つける奴が出てきたら許さない。」

「ええ。ありがとう。」

メイサはそんなメイサを気遣う力強い悠の言葉に、今日いちの笑顔を浮かべた。悠はそれを見て胸を撫で下ろした。

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