5新たな悠の友達
その後、杏哉はたとえ気まずくても律儀に休み時間のたびに光姫の教室を訪れた。そうして二度の十分間休み時間を終えて、昼休みがやってきた。その頃には授業の疲労もあり、時間も経過していたのでギスギスした空気はほとんどなくなっていた。昼休みは悠とメイサと共にお弁当を食べる約束をしていて、四人はお馴染みの中庭へ集まった。もう能力を隠す必要は無くなったため、杏哉は自らで生み出した樹木や植物を用いて小屋を作った。お弁当を食べ終えたらすぐに片付けるつもりなので、これくらいは別に構わないだろう。
「すごいですね、杏哉さん。」
樹木で小屋の枠を作り、その隙間をツルで埋める。みるみるうちに小屋が姿を現していき、光姫は感嘆した。それに対して杏哉はこそばゆそうに微笑み、お礼を言った。
「本当ね。やるわね。何気に、杏哉がこんなに活躍するの初じゃない?」
「ひでー。俺、地震の時めちゃくちゃ活躍したんだぞー。」
メイサがケラケラと笑いながら杏哉を揶揄うと、杏哉は唇を尖らせて反論する。しかしそう言う自分でも、このメンバーで活動する際に、杏哉が能力を行使した記憶がなく、はて、と首を傾げた。小屋が数秒で完成し、杏哉はドアノブを開く。まだ四月なので外は寒く、当然エアコンなんてものが付属していない小屋の中は、風がないだけマシなものの、十分寒い。すると、腕をさすりながらメイサが何気なく呟いた。
「こういう時に花ちゃんがいてくれたら便利なんでしょうね〜。火で温めてくれるから。」
「便利って…言い方悪いよ…。けど、確かにそうかもね。ずいぶん原始的だけど。今は小学二年生になったのか。」
メイサのセリフに悠が反応し、彼女の言い草を注意しながら、その発言の首肯する。
「小二か…。まだシスコン兄貴の束縛は逃れられないだろうな。ワンチャン、炎もこの場に連れて来たら妹も連れて来てくれるかも?」
「でも、正直炎先輩に対する苦手意識消えてないから、毎回は避けたいかも。」
杏哉のセリフに、メイサは珍しく消極的な意見を発する。確かに、友達である杏哉にしか、普段の炎の親しみやすさや温かみのある人格を知らないだろう。
「あー。お前らが炎に会った時は妹のことで人格変わってたもんな。でも、本当はいい奴なんだよ。他にも友達はいるのに、俺と一緒にいてくれるし。」
「そうなんだ。杏哉を支えくれてたのは炎先輩なんだね。メイサには真矢先輩がいるし、二人は安心だね。光姫様もこれからは杏哉が来てくれますもんね。光姫様は昨夜はどうなるかと思いましたが、みんな一人にならなくて、本当によかったです。」
悠がしみじみと柔らかく微笑む。その、親友らを心から思いやる温かい笑顔に、三人の顔にも笑みが浮かんだ。そしてふと、杏哉はある懸念を抱く。
「俺たちのこと心配してくれるのはありがたいんだが…。そういう、悠はどうなんだ?」
「そうね。アタシも気になった。悠、元から友達いないでしょ。それなのにこんな状況になって、悠の味方になってくれる人なんて…。」
「そうです。悠さんも辛いならば、私たちが力になりますから!」
杏哉もメイサも光姫も、自分ごとのように深刻そうな顔つきをして、悠を心配する。すると、悠は頰を掻きながら、こそばゆそうな笑みを浮かべ、あー、と言葉を発してから言う。
「実は僕…クラスメートの男子が話しかけてくれるようになった。」
その衝撃の告白に、三人は瞠目して硬直する。そして、
「「「え⁉︎」」」
と、三人の驚きの声が重なった。そのオーバーな反応に、悠はあたふたして遠慮しながら付け足す。
「いや…そんな大袈裟なものでは…。その人、クラスのムードメーカーで…他にも話す人はいっぱいいるし…。」
「それでも、話してかけくれたのは真実じゃないですか。悠さんがこれまで以上に孤立して、寂しい思いをしなくて…本当に、よかったです。」
光姫は涙ぐみ、目元がきらりと光る。悠は彼女の大袈裟な反応に、思わずたじろぐ。
「そうなのか。悠を気にかけてくれる人が現れて…これほど嬉しいことはないな。」
「ねぇねぇ、どんな人なの?」
自分のことのように歓喜する杏哉に続いて、メイサが目を爛々と輝かせてそう尋ねる。
「確かに気になるな。どんな奴なんだ?」
「私にも聞かせてください、悠さん。」
その案に杏哉と光姫が食いつくように乗っかり、身を乗り出す。三人が想像以上の反応を示して、悠は申し訳ない気持ちになるも、ここまでキラキラした六つの瞳を目にしたら、話さないわけにはいかない。
「…あんまり期待しないでくださいよ。」
そう前置きした上で、悠は今日起こった出来事を話し出した。