4ギスギスした空気
「光姫様。」
しばらく光姫が机に突っ伏して悶えていると、思い浮かべていた人物の声が耳に届いた。
「杏哉さん。」
光姫は一人、咳払いをしてから、ぎこちない足取りで杏哉の元へと駆け寄った。教室の前の入り口で待機する杏哉の周囲は、光姫と同様に、円を描くように人の姿が欠けている。それでも、遠回しに光姫と杏哉の様子を伺っている生徒が何人もいた。見せ物にされているようで気分が悪く、光姫は杏哉に視線を戻した。すると、向こうを光姫を見つめていたようで、ぱっちりと目があってしまい、二人はパッと視線をずらす。
「えっと…杏哉さん、わざわざ来ていただいて、本当にありがとうございます。」
「い、いえ…私が来たくて来ているだけなので…。」
光姫と杏哉との間にはぎこちない空気が流れ、暫時沈黙が続く。
「あ…あの…、さっきは…、急に、変なことして…ほんと、すみませんでした…。」
「ぜっ、全然っ。む、むしろ…嬉しかった、です…。」
先ほどの不純な行動を謝れば、このギスギスした空気はなくなるのではないかと踏んでの発言だったが、想定外にもそれを光姫が肯定したことで、余計に気まずくなってしまう。また、互いに見えぬよう背けた顔は、両者とも夕焼けのように真っ赤に染まっていた。互いに話題を引き出そうと必死になっていると、タイミングよく予鈴が鳴り響いた。
「じゃ、じゃあっ、また来ますんで!」
「は、はい! ありがとうございます!」
そうして二人はチャイムに感謝して、早々と別れた。光姫も杏哉も、暫くこの胸の高鳴りは抑えられそうになかった。