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3情報通舐めんなよ

一方で、走るように階段を上がり、昨日からの新しいクラスに駆け込んだ杏哉。

「おはよー、杏哉。どうしたんだ? そんなに慌てて。」

すると、中から呑気な聞き馴染みのある声が聞こえてくる。

「おっ、おはよ、炎。な、なんでもない。」

そう、杏哉は今年も炎と同じクラスになれたのだった。杏哉が自席に荷物を置いていると、炎がニヤニヤした顔で近づいてくる。

「ははーん。その慌てぶり、且つ顔の赤さは…守光神様関連だな?」

「ちっ、違うし。」

図星で、杏哉は机のフックにかけかけていたリュックの紐がずれてしまう。

「えー? 僕、聞いたんだけどなぁ。今朝、いやさっき、男子生徒が守光神様抱きしめてた、って〜。そんなの許せないよな、なぁ、杏哉〜?」

炎の意地悪い声が紡ぐ発言に、杏哉は動揺でリュックを床に落下させてしまう。

「…誰に聞いたんだよ。」

杏哉はジト目を炎に向け、声量を抑えて尋ねる。

「風の便り。多分、もう既に登校してる高校生には全員伝わってるんじゃないかな。守光神様は元からこの学園一の人気者だし、杏哉だって今ではそれに匹敵する有名人だもんね。まぁ、癪なことに杏哉も元からわりかし有名だったけど。今時イケメン転校生なんて少女漫画みたいな展開、現実にないもん。」

「そんなことは今どうでもいい。てかお前だって端正だろ。能力者って結構な割合で顔いいからな。…っじゃなくて、ついさっきのことだぞ⁉︎ もうそんなに広まってんのか⁉︎」

「学年トップのイケメンに言われても褒められてる気がしなーい。で、なんだって? あぁ、うん、広まってるよ〜。うちの学校の情報通舐めんなよ〜。しかも守光神様だってお前だって、ファンクラブあるくらいだし。注目してる人多いからね〜。」

他人事で間延びした声を出す呑気な炎に、杏哉は羞恥心でぐわぁ、と身悶える。

「…んで、どうだったんだよ? 誰もが憧れる高嶺の花・守光神光姫様の感触は。」

「…やらしい言い方すんなよ…っ。てか俺は、落ち込んでる光姫様を励まそうとしただけで、そこに下心とかは…っ。」

「わかってるよ、下心だけで抱きしめたんじゃないってことくらい。何か事情があった、ってわかるくらいには、杏哉のこと知ってるから。そんなに焦らなくても。」

真剣な顔つきで、杏哉のことを理解していると伝える炎。そこに一瞬、友人が彼オンリーに減った今だからこそ、感動してしまいそうになったが、

「…それでも、抱きしめたことに変わりはないだろ? なぁ、どうなんだよ?」

と、すぐに思春期男子の問いかけに戻り、杏哉はガクッとなる。そして、杏哉は炎に問われた内容が脳裏で響き、先ほどの生々しい感触を想起してしまった。いや、生々しいというほど何もしてないのだが。異性を抱きしめるなんて初めての経験で、ジャケットの上からでも感じられる女性的な身体に気持ちがぐらついた。自分よりも小柄で、少しでも力を込めたら折れそうな細い身体。全体的に丸みを帯びていて、柔らかく、どことなく甘い香りが漂う。そして、緩やかな勾配であるものの、確かに感じられる胸の膨らみ。

(服の上からでもこんなに違うってわかるのに…悠…あいつは…。)

必然的に、日々親友として同じ釜の飯を食い、メイサを彼女とする悠を思い浮かべる。まだ身体こそ結ばれていないものの、下着姿で抱き合ったことのある二人。服を着ていても感じられるたおやかな女性の身体を、ほぼ裸同然の下着姿で堪能するなんて。しかもメイサは光姫よりも女性をありありと意識させる、勾配の大きい双丘を持つ。あの時はあまり特別に意識しておらず、揶揄で止まっていたが、実際に経験してみると分かる。四つもかけ離れた中学生だというのに、なんと不純な。

「おーい、杏哉。聞いてる?」

炎が杏哉の顔の前でぶんぶんと手を振り、杏哉はハッと我に返った。

「あ…俺、そういや、光姫様んとこ行く約束してたんだった。休み時間もしばらくの間は光姫様のところ行くから、把握よろしくな。」

杏哉は炎の質問を答えるまいとと、早口で捲し立て、誤魔化すように教室を飛び出した。背後から、おい!と炎の叫び声が聞こえてきたが、杏哉は振り返らない。炎の馬鹿げた質問に回答するよりも、光姫の元へ行く方が優先事項だ。

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