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モンスターペアレントVSバカップル

前書きを書く作者さんもいらっしゃると知って、私も真似してみました。

まず、毎週日曜日に更新すると書いていたのに、二週間も忘れてしまい申し訳ありません。

次に、前の話から次の話の三話にまたがって、本編の「甘美なるディープキス」の次くらいにニヤニヤしながら書いた話ですので、どうかニヤニヤしながら読んでくださると幸いです。

「メイサ! なんなんだその男は!」

「え? 何って、アタシの彼氏。安心してちょうだい、パパ。アタシ、こう見えて一途だから。彼は未来の旦那よ。」


メイサは決して遊んでいるわけではない、と誠意を見せたつもりだったのだろうが、愛娘の口から旦那、というワードが飛び出るなり、メイサの父親は悠をより睥睨した。今にも悠を地獄の底へ落としかねない勢いである。


(僕、何も言ってないんですが!)


「メイサ…とりあえずその男から離れなさい。話はそこからだ。」

お願いだから離さないでくれ。悠は心の中でメイサに向かって叫ぶ。離したら最後、倉庫にでも監禁されて拷問を受けそうな勢いだ。口調は穏やかなのに、怒りという怒りを詰め込んだ顔とのギャップがあまりに激しい。


「嫌よ。パパは何がそんなに気に入らないの? さっきのキスはアタシから誘ったんだから、悠を責めないでよね。」

「キ…⁉︎」


火に油を注いでしまった。まさか、メイサと悠がディープキスを繰り広げていたことは見えていなかったとは。メイサの父親はあまりの衝撃に耐えきれず、その場にドサッと座り込んだ。その大きな音に驚いたのか、下からぱたぱたと足音をさせ、ルナがひょっこりと顔を出した。そして三人の様子ですべてを察したらしく、ルナは仕方ないわね、という風にくすりと笑った。


(いや、全然しょうがなくないんですが! 僕、今ものすごい危機に襲われてるんですが…⁉︎ 助けてくれよ…!)


悠はいまだに言葉を発せられないまま、心の中で思い切り己に迫る危機を叫ぶ。


「なんか修羅場になってるわね。とりあえず一階に行って、みんなでお茶でもしない? ほら、琉生くんも腰抜かしてないで、下に行くわよ。」


メイサの父親の名前は琉生というらしい。琉生はルナに支えられ、階段を下りて行った。一瞬顔を後ろに向け、悠をきっと思い切り睨んだ。その様子に、悠は一階へ行かずに二階の窓から逃げ出したくなる。


「パパったら、あんなに怒らなくてもいいのにね。」

「何もしなくてもモンスターペアレントってきいてたのに、愛娘に覆い被さる男の図とか見ちゃったらな…。」


最も見られてはいけないものを見られてしまった。悠は改めて事の重大さを実感し、額に手を当てて天を仰いだ。


「ま、いずれはアタシたちの関係性を認めてもらわなきゃいけないんだし、ここは腹を決めていくしかないわね。大丈夫、殺されないようにちゃんと守るから!」

「いや、フォローがフォローになってない!」


殺す、なんて物騒な言葉を使うメイサに突っ込みながら、悠は深呼吸をして、すくむ足をベッドの上からおろしてたたせた。メイサは悠にくっついて守ろうという魂胆なのか、お腹に腕を回したまま離さない。悠はメイサの言葉も尤もだと自分に言い聞かせると、足を踏み出した。二人は密着したまま、一階のリビングへと向かう。扉を開けると、ダイニングテーブルに隣同士で腰かけたメイサの両親の姿があった。その向かいには、本来ならばメイサのための椅子が一つ置いてあるはずが、悠のためにもう一つ用意されていた。二人は顔を見合わせると、覚悟を決めてルナと琉生の向かいに腰かけた。


「…メイサ、いろいろ聞きたいんだが、その前に確認させてくれ。今日は彼氏を紹介するためだけにやってきたのか?」

「違うわ! 実は…っ。」


琉生の言葉に即座に否定し、悠にはあんなに打ち明けるのをためらっていたのに、両親にはあっさりと口を開いた。これが長年の信頼の差か。悠は悩みの打ち明け先が自分に真っ先に向くように、この先二人で時間を積み重ねていければよいな、としみじみ思った。メイサのいじめ予知の話を聞き終えると、ルナは口に手を当てて瞠目し、琉生は先ほど同様に目を吊り上げた。


「なんだと⁉︎ メイサをいじめてるのはどいつだ! 親に訴えてやる!」


今にも相手の家に押しかけんばかりの勢いを見せる琉生に、メイサは慌てる。


「違うのよ、パパ。それができたらいいんだけど、まだいじめられてすらいないの。だから話しても仕方のないことだったんだけど…。」

「話しても仕方ないですって? 目に見えないのだから、より一層人に聞いてもらわないとだめでしょう。メイサちゃん、一人でつらかったわね。大丈夫よ、これからはパパもママも相談に乗るわ。」


メイサの謙虚な発言に、ルナは珍しく目を見開いて娘を叱った。ルナの隣で、琉生も深く首を縦に振った。両親の気持ちに胸が温まるメイサだが、一つ訂正したかった。


「…パパもママもありがとう。けどね、一人だったわけじゃないわ。これまでは、悠が自分事のように親身になって話を聞いてくれていたの。アタシが元気がないって気づいて、吐き出させてくれたのも悠よ。」


メイサがそう訂正すると、両親は揃って悠の方を向いた。二人の視線が集まり、悠はビクッと肩をふるわせ、背筋をピンと伸ばして畏まった。しばらく硬直状態が続いていたが、ふっとルナの口元が緩む。


「そうだったのね。悠くん、メイサちゃんを気遣ってくれてありがとう。」


ルナの柔らかい微笑みを受けて、悠の緊張はいくらか緩和した。


「…いいえ。僕にとっては、メイサが傷つくのは自分が傷つくより痛いですから。」


悠が素直な気持ちを口に出すと、隣に座るメイサは両手で顔を覆った。その顔は朱色に染められている。悠の目の前に座るルナは瞳を細め、柔和に微笑んだ。残った琉生はというと、娘を心配して吐き出し口になってくれたことによる歓喜や安堵と、認めていないにも関わらず出過ぎた行為をしたことによる憤怒などがないまぜになり、複雑な面持ちが作り出されていた。ただ、彼が悠に向けて、メイサに似た吊り目気味の目を剥いたままなのは変わらない。琉生は紡ぐ言葉を迷っているようだった。そんな彼を見た悠は拳を握り締め、意を決してガバッと立ち上がる。急に起立して瞠目するメイサとルナを横目に、悠は琉生の隣に移動して、その場に跪いた。


「ゆ、悠⁉︎」


驚きで裏返ったメイサの声が聞こえる。しかし悠は構う事なく、両膝だけでなく、さらに足全体を床につけて、両手を身体の前に出した。


「琉生さん。」


悠が琉生の名前を落ち着き払った様子で呼ぶと、彼はあからさまに動揺した。


「な、なんだっ。」


それでも、どしりと構えて威厳を保つように大きな声で返す。しかし悲しいかな、上擦った声のせいで、まったくもって狼狽を隠せていない。悠はそんな琉生を意志のこもった瞳で見つめると、不意に、頭をゆっくり下降させた。メイサは息を呑み、まさか、と思う。そのまさかは的中し、悠は額を床につけ、次のように言葉を発した。

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