第三話 雨音の向こう側
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放課後の教室には、まだ数人の生徒たちが残っていた。
優希はカバンを肩にかけながら、窓際の席に目をやる。そこには、いつものように詩乃が小さなパンを食べながらノートを広げていた。
「いつも何か口に入れてる気がする……。」
心の中でそう思いながらも、声には出さずに足早に教室を出る。
それでも、つい振り返ってしまう自分に気づいて、優希は小さくため息をついた。
廊下を歩きながら、優希の心はどこか落ち着かなかった。
昨日、詩乃と公園で話したことが頭の中を巡る。彼女の無邪気な笑顔と、優しさ。
「……なんなんだよ。」
心の中で呟きながら、靴箱に向かうと、後ろから軽快な足音が近づいてきた。
「雨宮くん!」
振り返ると、そこには詩乃が立っていた。手には、いつものパンが握られている。
「……何してるんだよ。」
「ん? 学校帰りに話しかけちゃダメ?」
彼女は首をかしげながら、いつものように自然体だった。
「……別に。」
「それより、ほらこれ! 食べる?」
詩乃が差し出したのは、クリームがたっぷり入ったメロンパンだった。
「……いらない。」
「またそんなこと言って。昨日だって結局クッキー食べたでしょ?」
「……それは。」
詩乃は楽しそうに笑いながら、一口メロンパンをかじった。
「あ、美味しい! やっぱりこれ、最高だね。」
その何気ない仕草に、優希は少しだけ気を許してしまいそうになる。
「それで、どこに行くの?」
「……公園。」
「また?」
「別に……悪いかよ。」
詩乃は少し考えるような仕草をしてから、笑顔を浮かべた。
「じゃあ、私も行っていい?」
「……勝手にしろよ。」
公園のベンチに座る二人。優希は空を見上げ、詩乃は隣でメロンパンを食べ続けていた。
「雨宮くんって、よくここに来るんだね。」
「別に……落ち着くから。」
「ふーん。」
詩乃はパンを最後の一口で食べ終えると、空になった袋をカバンにしまった。
「ねえ、雨宮くんってさ。」
「……なんだよ。」
「いつも何考えてるの?」
突然の質問に、優希は少し戸惑った。
「……別に、何も。」
「本当に?」
「本当に。」
詩乃はそれ以上追及することなく、小さく笑った。
「そっか。」
その後、二人の間に訪れる静けさは、不思議と気まずくはなかった。
夕方の風が吹く中、優希は少しだけ自分の心が軽くなった気がした。
この日の帰り道、優希はふと気づいた。
彼女が自分に見せる笑顔には、どこか隠れた寂しさがあるように思える。
それが何なのかはわからない。ただ、彼女もまた、何かを抱えているのではないかと感じた。
「……一ノ瀬詩乃。」
彼女の名前を口に出したとき、ほんの少しだけ心が温かくなった。
次回、優希は詩乃の秘密に少しだけ近づくことになる。
彼女の明るさの裏に隠された本当の思いとは――。